【香澄編】

ポートランドの人気食料品店『セーフウェイ』

               終章


     オレゴン州 ポートランド 二〇一五年八月二四日 午後七時三〇分

 午後三時三〇分前後にシアトルからポートランド行きのボルトバスに乗車した香澄は、目的地へ到着までの間車内で読書をしていた。アメリカ国内でも多大な人気を誇るミステリー小説で、宗教象徴学者が活躍するシリーズもの。その内の数作はすでに実写化されており、その人気はアメリカに留まらず世界各国にファンが多いのが特徴。


 香澄自身もまたこのシリーズのファンでもあり、彼女の愛読書の中にも加えられている。しかも発売日と同時に予約をしてまで購入していることから、いかに香澄がこのシリーズが好きであるかを証明している。ジェニファーほどではないが香澄もまた読書家であるため、彼女が専攻している心理学以外の分野における知識についても、おそらく多くの書物から得たものだろう。


 時折考えごとをしながら読書を続けていると、香澄を乗せたボルトバスは午後七時〇三〇分前後に目的地ポートランドへ到着した。予定よりも少し遅れての到着だったが、香澄は取り乱すような素振りを特別見せるようなことはなかった。


 なおほぼ同時刻に香澄の行方を捜すために、ワシントン大学からポートランドまで車で移動を開始したジェニファーたち。そんな彼らが出発した時には、時刻はすでに午後七時〇〇分を過ぎていた。その時すでに香澄はポートランドの一歩手前まで到着していたことから、今回もまたジェニファーたちの行動を彼女が先読みした結果とも読み取れる。

 

 ボルトバスを降りた香澄はそのままサンフィールド家の自宅へ向かうかと思われていたが、その後最寄りの『セーフウェイ』というスーパーに立ち寄る。食料品を専門に扱っており、ポートランドやその周辺で暮らす人たちにとって馴染み部会お店の一つ。そこで香澄はサンドイッチやクロワッサンといった、手軽に食べることが出来る軽食、およびペットボトル入りの紅茶などを買いそろえる。

「……最後の晩餐にしてはずいぶん質素だけど、それも私らしいわね」

 そんなことをふと思いながらも『セーフウェイ』を後にした香澄は、かつてトーマスたちが住んでいたサンフィールド家の自宅へと向かう。

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