目に見えぬ心の涙
ワシントン州 ワシントン大学(教員室) 二〇一五年八月二四日 午後二時〇〇分
香澄の失踪をケビンに伝え終えたジェニファーは、その後フローラの教員室へ来てくれることを約束してくれた。だがケビンの役目はこれで終わりではなく、彼にはさらに重要な仕事が残っている。
今まさに幸せの絶頂にいるフローラとエリノアへ、
「ふ、二人とも。こ、心して聞いてくれ――か、カスミが行方不明になってしまったと、つい先ほどジェニーから連絡があったんだ。そしてその件でもうすぐジェニーがこちらへ来るから、それまでの間に心の準備をして欲しい」
などと頭の中を整理しつつも、二人へどう伝えるべきかケビンは一人苦悩する。
しかもジェニファーから電話で聞く限りでは、香澄の症状はかなり重症とのこと。予期せぬ香澄の不幸な知らせを耳にしたケビンだが、
『と、とても嫌な役回りだけど……これもすべてカスミのためだ。こ、ここは心を鬼にしてでも真相を二人へ伝えないと』
氷のようにただ淡々と真相を語ることにした。
だがそう心を割り切るものの、ケビンは両手で顔を隠しつつも何度もその場をグルグルと回っている。真相を伝えなければいけない立場にあるものの、心のどこかではフローラとエリノアの幸せの時を邪魔したくない。
そんな良心の呵責と香澄の失踪を語ることを天秤にかけるケビンの姿は、まるで一人で心の涙を流しているようにも見えた。
『トムやエリーだけでなく、カスミまでもあの出来事に苦しみ続けている。そしてあの一件に関わった子どもたちは、次々と不幸になっていく――もしかして僕とフローラは呪われているのか? 一体どうすれば、この呪いの連鎖を断ち切れるんだ?』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます