事実は小説よりも奇なり
ワシントン州 ハリソン夫妻の自宅 二〇一五年八月一五日 午前三時一〇分
思いもよらない光景を目の当たりにした香澄は、夜中にも関わらず再び声を荒げてしまう。香澄の右手にはなぜかリンゴが握られており、おまけに手の平や口周りには大量の赤い汁が付いている。人によってはこれが人間の血に見えなくもなく、この姿で香澄が外へ歩いたら警察に通報されてしまうかもしれない――そんな緊迫した状況だった。
予期せぬ自分の姿に訳が分からなくなった香澄は、とっさにマーガレットとジェニファーへ視線を移す。だが二人は案の定、香澄と視線を合わせようとはしない。むしろジェニファーは悲しさと恐怖のあまり、今は一刻も早く香澄の側から離れたいと心のどこかで思っている。
一方のマーガレットは涙こそ流さなかったものの、
洗面所の鏡に映るマーガレットとジェニファーを香澄が見ると、二人の顔色は青白く血の気が無くなっているようにも見える。
鏡に映る二人の姿を見て、そこではじめて香澄は彼女たちの顔色が真っ青であることの理由を察した。今鏡に映っている女性は、まぎれもなく香澄。マーガレットとジェニファーが香澄を避けるような視線を向ける理由が、これではっきりした――最近冷蔵庫のフルーツを食い散らかしていた犯人は、まさか香澄自身という驚愕の事実を知る。
「……こ、この鏡に映っている女性が……い、今の私……なの?」
あまりにおぞましい事実を知ってしまった香澄は、恐怖のあまりその場に膝を落としてしまう。それも強い脱力感に襲われているようで、この時の香澄の瞳もどこか
「か、香澄!? しっかりして!」
あまりのショックに気を失ってしまった香澄を見るや否や、無我夢中に彼女の走り寄るマーガレット。その後何度も香澄の名前を呼び掛けるものの、案の定彼女からは何も返ってこない。
「やっぱり駄目、意識を失っている。……ジェン、香澄を部屋に連れていくから手を貸して!」
一人では香澄を彼女の部屋まで運びきれないと思ったのか、マーガレットはジェニファーへ声をかける。しかし錯乱しているのは香澄だけではなく、彼女の親友のジェニファーもまた両手で顔を隠しながら涙を流している。
「か、香澄……ど、どうしてあなたがこんなことに……」
時折体を震わせながらも、魔法を唱えるかのように同じ言葉を繰り返すジェニファー。心半ば混乱しているジェニファーを見たマーガレットは、
「ジェン、しっかりして! ここであなたまで
意識を保つように彼女を一喝する。
マーガレットに強く一喝されたことで、ようやく我に帰り落ち着きを取り戻すジェニファー。同時に両手で涙を拭いながらも、
「……そ、そうですよね。ご、ごめんなさい、マギー。と、とにかく香澄を部屋に連れて行かないと」
急いで放心している香澄の左肩を自分の体へ預ける。それを合図にマーガレットは香澄に右肩を持ち、その後ゆっくりと香澄の部屋へと向かう。
その後マーガレットとジェニファーはゆっくりと移動しながら、香澄を彼女の部屋にあるベッドへと寝かせる。約三〇分前後の出来事なのだが、マーガレットとジェニファーにとってはこれが数時間にも感じたであろう。
強いショックのあまり香澄が暴れるという結果にならなかったことが、不幸中の幸いと呼べる。しかし獣のようにフルーツを
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