心の葛藤
ワシントン州 スペースニードル 二〇一五年八月一〇日 午後八時二〇分
気分転換をかねて夜のシアトルへと足を運ぶエリノア。普段は街並を意識せずにそのまま帰宅しているためか、こんなにシアトルの街並が綺麗だと知らなかったエリノア。その夜景を堪能しつつも、彼女は一人スペースニードルへと向かう。
『今までの嫌な気持ちを忘れるためにも……今日こそ気分転換しないと!』
いつになく気合いが入っているエリノアは、意気揚々と展望フロア行きのエレベーターへと向かう。ちょうど展望フロア行きのエレベーターのドアが開いている。今ならまだ乗れると思ったのか、少し急いでエレベーターへと向かうエリノア。
だが少し走ってしまったためか、軽く息を切らしつつも顔を下へ向けるエリノア。そして呼吸を整えふと視線を上に向けると、そこにはエリノアが良く知る人物が乗っていた。
『……あ、あれはジェニー……よね? ど、どうしてジェニーがここにいるの!?』
エリノアが到着を待っていたエレベーターの奥には、なんとジェニファーが乗っている。とっさのことに、おもわず胸の前で両手を握るエリノア。同時にジェニファーをじっと見つめており、声をかけようかエリノアは頭の中で考えている。
『ちょ、ちょっと待って。じ、ジェニーがここにいるということは……おそらくフローラやペグだけでなく、香澄も一緒にいる……のよね?』
エレベーターの先に香澄が待っていると知った途端、これまで平静を保っていたエリノアの心が大きく乱れてしまう。その動揺ぶりを示すかのように、ジェニファーに言葉をかけることなくその場を逃げるように去るエリノア。そんなエリノアの後ろ姿を、ただ唖然と見つめることしか出来ないジェニファーだった。
本来ならその場で親友らしい言葉を交わしても良い間柄なのだが、今のエリノアにはそれが出来ない。故意ではないにしろ、エリノアが取り乱したことによって香澄との仲はさらに悪化してしまう。それは紛れもない事実であり、エリノア自身香澄へそのことを謝罪する心の準備がまだ出来ていないようだ。
そして一番やっかいな問題として、香澄とエリノアとの関係がさらに悪化していることを、ジェニファーたちはまだ知らないのだ。香澄本人もそのことを気にかけてはいるようだが、恥ずかしいという気持ちが強いためか、マーガレットたちにはあえてそのことを伝えていない。
むしろこれ以上マーガレットたちへ迷惑をかけまいとする香澄とエリノアの気遣いが、今回のケースでは大きな
思わずスペースニードルを飛び出してしまったエリノアだが、彼女の心には言葉では言い切れない複雑な気持ちが駆け巡っている。
『……駄目だわ。あの向こうに香澄が待っていると思うと、体がすくんでしまって訳が分からなくなってしまう。でも新学期になったら、香澄やジェニーたちと大学で会うことは避けられない。そ、それまでに何としても……彼女たちと仲直りしたいのに』
香澄たちへの罪悪感に
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