第125話 令和元年9月8日(日)「台風接近」須賀彩花
「ありえないっしょ! アタシがどんだけ苦労したと思ってんのよ!」
電話の向こうで、優奈が憤っている。
「仕方ないよ。台風だもん」
わたしは優奈を宥める。
台風が関東を直撃する。
優奈が企画したAチームを集めた親睦会は日野さんの鶴の一声で中止になった。
お昼のいまは小雨程度だけど、これからどんどん強くなるみたいだ。
台風が接近する夜中頃は相当激しい雨が降ると天気予報で言っていた。
うちの両親も朝から雨戸の補強など慌ただしく備えている。
わたしも防災グッズの確認をしたりと手伝っている。
台風が間近に迫るいま、のんびり集まるというのは難しいだろう。
「うちは家族みんな台風を警戒していろいろ準備してるよ。雨も風も相当強いみたいだし」とわたしが言うと、優奈も「それはウチもだけどさ……」とトーンダウンした。
それでも、「なんでよりによってこのタイミングで!」と諦めきれない様子だ。
「こればっかりは仕方ないよね」とわたしもため息をつく。
他のメンバーを参加させるために奔走した優奈ほどではないものの、わたしもがっかりしている。
いつもの顔ぶれで集まるのも楽しい。
そこに新たな人が加わることに、最近は不安よりもワクワクする気持ちが勝るようになった。
ひかりがグループに加わった頃はまだ気持ちが不安定だったのに。
あれから、少し自分に自信が持てるようになった気がする。
「あー、どうすっかなあ……」
優奈がこうしてわたしに愚痴を言うために電話してくるなんていままでになかったことだ。
グループ内でAチーム所属が他にわたしとひかりしかいないため、わたしに白羽の矢が立ったのだろう。
それでも、愚痴を言われるのも頼られているようで少し嬉しい。
「来週なら、もっと準備ができるから良い親睦会ができると思うよ」とわたしは励まそうとした。
「いや、時間的にキツいっしょ。もう次は運動会前最後の週末だしね。他に良い手がないかなって」
「あ、そうだね」とわたしは赤面する。
電話だから優奈に見えなくてよかった。
そっか、親睦会は延期でなくて中止なんだと、改めて残念に思う。
そうだよね、次の週末は練習しないといけないしね。
練習のあとに親睦会なんて、泊まりがけじゃないと難しいもんね。
「三連休だし、泊まりがけの合宿みたいなのができればいいのにね」とわたしは何気なく口にした。
「それだ!」と優奈が大声を出し、電話越しに耳に響く。
「え? 合宿?」と聞くと、「そう、そう」と優奈が嬉しそうな声を上げる。
「でも、どこでするの? 泊まりがけでするなら、親の許可も絶対に必要だよ」
わたしは当然の疑問をぶつける。
わたしは思い付きを言っただけだ。
できるなんてこれっぽっちも思っていなかった。
「うーん……、悪い。日野に相談する。また電話するね。彩花、ありがと」と優奈が電話を切った。
愚痴は言ってもらえるようになったものの、こういう時に相談されるほどではないということ。
いや、日野さんに敵うようになるとは思えないけどね。
だけど、もう少しはみんなの力になりたいな。
優奈にはいつも力を貸してもらっている。
それをお返しできているとは言えない。
どうすればそれができるかは分からない。
でも、優奈を見習って、友だちのために自分のできる限りのことができるようになりたいと、わたしは強く思った。
††††† 登場人物紹介 †††††
須賀彩花・・・2年1組。運動会の実行委員。明日の朝には台風は去って行くので学校は普通にあるみたい。タイミング悪いよね。
笠井優奈・・・2年1組。創作ダンスのリーダー。朝からお昼までという案もあったが、午前中だと盛り上がらないんじゃと日野に言われ諦めた。
日野可恋・・・2年1組。学級委員。台風接近は夜だけど、このタイミングで親睦会はないよねと昨夜のうちに中止を伝えた。
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