第42話 貴方も私の虜になってしまいますわ。
美人メイド三姉妹から謀殺されそうになった翌日。私は司令室で待機していた。タイラントの他に数人の貴族を担当していた私は、テーブルでタオルを畳んでいた時その言葉を聞いた。
「カラミィ達三姉妹がネフィト執事長の言いつけを破ったそうよ」
「······なんて恐ろしい事を! じゃあ三人は!?」
「今頃、折檻部屋よ。ああ怖い」
同じく待機していメイド達が話していた内容に私は身に覚えがあり過ぎた。私は椅子を倒す程の勢いで立ち上がった。
私は大急ぎで折檻部屋とやらに駆け込んだ。部屋の中にはカラミィ。ハクラン。エマーリが並んで立っていた。
三人の前に長身の老紳士が姿勢良く三人を見下ろしていた。ネフィト執事長が振り返り私に微笑んだ。
「これはリリーカ様。丁度良い所へおいで下さいました。こらから貴方に危害を加えようとした三人に懲罰を与える所です。良かったらご覧になって下さい」
ネフィトさんは口元こそ笑みを浮かべていたが、目が全く笑っていない。こ、怖いんですけど物凄く!
ネフィト執事長の右手には怪しい艶を放つ鞭が握られていた。三姉妹の表情は青ざめ、全身は震えており半泣き状態だ。
「ま、待って下さいネフィトさん! 何もそこまでしなくても!」
被害者の私がこう言っているんです。何卒穏便に。ね! ね!? だが私の助命嘆願は一蹴された。
「リリーカ様。私はこの三姉妹に言いつけました。リリーカ様がメイドの仕事をしている内は、決して危害を加えてはならないと」
ネフィトさんが右手首を翻し、鞭の先端が石畳を打ちつけた。その鋭い音に三姉妹から怯えた悲鳴が発せられた。
特にハクランとエマーリは両足が大きく揺れ、立っているのも覚束ない程震えていた。私はネフィトさんと三姉妹の間に立った。
「ネフィトさん! どうしても三姉妹を折檻すると言うのなら、私も一緒にして下さい!」
私は一か八かの賭けに出た。そうよ。被害者の私がここまで言って、ネフィトさんが行動に出る訳がないわ。
ですよね? そうですよねネフィトさん? 鋭い両目が獲物を間合いに捉えた感じになっているのは私の気のせいですよね? ね? ねぇ!?
「······リリーカ様。貴方の自己犠牲精神には感服致しました。そうですか。貴方も三姉妹と同じ罰を受けたいのですね」
し、しまったあ! すっかり忘れていたけど、ネフィトさんは私を排除しようとしていたんだ!!
ま、まずいわ。私は自らネフィトさんに口実を与えてしまった! ネフィトさんが両手で鞭を握り伸ばす。む、鞭って痛いよね? やっぱり。
「ネフィト執事長! 全ての罰は私が受けます!」
カラミィが震える声で叫び、ネフィトさんの前に歩み出る。カ、カラミィ?
「ネフィト執事長。貴方が私を一番目障りにお思いなのは知っています。メイドが国王を慕うなど、許される事ではありませんから」
カラミィが怯えながらも、毅然とネフィト執事長に言い切った。ネフィトさんは口元の端を吊り上げる。
「殊勝な心がけだカラミィ。では背中を向けなさい」
カラミィが歯を食いしばりネフィトさんに背中を向ける。こ、このままじゃ駄目だわ! 私は考え無しにネフィトさんの前に立った。
「ネフィト執事長! 今回の件は全て私の魅力が原因で起きた事です!!」
「リリーカ様の魅力······ですか?」
私の意味不明な言葉に、ネフィトさんは怪訝な表情を見せる。とにかく、とにかく話し続けるのよ私!!
「そうです! タイラントもザンカルもリケイも、全員私の溢れ出る魅力に骨抜きになったんです!」
「······ザンカルやリケイまでをも?」
ネフィトさんの表情に動揺が走る。行くのよリリーカ! 後ろを振り返らず突っ走るの!!
「ネフィト執事長の言いたい事は分かります! 何故こんな器量良しでも無い村娘に男達が虜になるのか? それは、私の村の守り神の加護があるからなんです!!」
「······む、村の守り神ですと?」
ネフィト執事長の額に汗が浮かんだ。このまま!このまま押し切れ私!!
「そうです! 村の守り神ナータタラの加護を受けた私は、住んでいた村中の男達を虜にしていました!!」
「む、村中の男達を······?」
ネフィト執事長の両足がよろめき、一歩後ろに後退した。私はその分一歩前に詰め寄る。
それを繰り返し、ネフィトさんはどんどん部屋の端に追いやられて行く。
「ネフィト執事長! この私の魅力は、私の心が不安定になると勝手に溢れて出して行きます! それは形無き芳香ように!!」
「こ、心が不安定になると?」
とうとう私は、ネフィトさんをドアの前まで追いやっていた。
「そうです! このまま折檻を行い私の心が乱れ、魅力が流れ出すとどうなるか!!」
「な、流れ出すと?」
「ネフィト執事長。貴方も私の虜になってしまいますわ」
私は人生で初めて、男性に向けて片目を閉じて見せた。ネフィトさんは細い両目を忙しく動かし、鞭を手放し慌てて折檻部屋を出ていった。
······私は一体何を熱弁していたのだろう。私の品格と品性が崩壊していく音が聞こえてくる。
ごめんなさい。村の守り神様。ごめんなさい。父さん母さん。娘のリリーカは、こんな恥ずべき言葉を絶叫するような女になってしまいました。
肩を落とした私が後ろを見ると、美人三姉妹がぽかんと口を開けていた。
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