第8話 己か! 私に一服盛ったのは!?
私は夢の中で、幼馴染みのラストルと遊んでいる夢を見ていた。ラストルは自分の兄さんに憧れて、兄と同じ冒険者になると村を出ていった。
ラストルが村を後にして、もう四年になるだろうか。今どこで何をしているのだろう。いっぱしの冒険者になれたのか。
ラストルはいつも言っていた。自分はいつか、勇者ソレットの仲間になると。大層な夢物語はいいから。とにかく無事に帰って来てほしかった。
「······リリーカ様。リリーカ様」
······ん? 私の名前を呼ぶのは誰? 目を開けると、目の前に黒髪メイドカラミィの顔があった。え? これ夢? 現実?
「勝手にお部屋に入って申し訳ございません。リリーカ様。朝の食堂の開いている時間がもう残り少ないので起こしに参りました」
食堂の時間? え? 私そんなに寝坊してた?
カラミィは笑顔で二つのリボンを私に差し出した。
「あ、ありがとう。カラミィ」
このリボンは、幼馴染みのラストルから誕生日のお祝いに貰ったリボンだった。ん? 目の前にリボンがあると言う事は?
私は顔が発火したように赤くなった。私は今、筋金入りの癖っ毛が、全開で全方位に暴発していた。
それをカラミィに見られてしまった! 私は恥ずかしさの余り、とにかく髪を結ぼうとリボンを手にするが、焦って上手く結べなかった。
······すると、カラミィが優しい手つきでリボンを結んでくれた。
「あ、ありがとう。カラミィ」
「料理長には伝えておきます。なるべくお早くご準備下さいね」
カラミィは天使のような柔らかい微笑みを残して去って行った。い、今のカラミィは悪魔では無く天使だった。
妹のハクランが言う通り、タイラントの事が絡んで無いと普段は優しいのかな? とにかく私は急いで食堂に向かった。
······そして、食堂は閉鎖されていた。か、カラミィは料理長に何を伝えたのだろうか? 愚かな人間など待たず食堂を閉めろとでも言ったのだろうか?
駄目よ。こんな人を疑う考えを持つのは。そうよ。これは何かの間違いよ。この城に来てから、変な連中ばかりに会うから人間不信。いや魔族不信になっているのよ私は。
私は空腹を我慢し気を取り直した。私は今日、これから向かわなければならない戦場があったのだ。
······教壇に立つ私の目の前に、魔族不信の原因になった連中が顔を並べて座っていた。金髪寝癖国王。短髪乱暴無骨男。酒乱紫長髪美女。白髪発情眼鏡男。
ま、まともな人が一人もいない。ふと気づくと、教壇の上にグラスが置かれていた。誰かしら? とにかく有り難いわ。
空腹だった私はグラスの中の液体を口につけた。口の中に果実の香りが広がった。これ、果実水だ。
私は一気に飲み干した。そして飲んだ後気づいた
······これ、果実水をお酒で割った飲み物だ。
私は猛然とシースンを見る。シースンは片目を閉じ嬉しそうに頷く。お、己か!? 私に一服盛ったのは!!
そしてちょっと待て! 何をいい事したみたいな顔してるの? 全然いい事じゃないからこれ!
興奮した私は、空腹も手伝ってたちまち酔い回ってきた。わ、私そんなにお酒が強くないのに!!
「村娘! さっさと女を押し倒す方法を教えろ!」
「黙ってザンカル! リリーカ。それより男に押し倒される方法よ!」
「シースン殿には悪いが、リリーカ殿には別室に来て頂きたい」
「リケイ。娘を別室に連れて行ってどうするのだ?」
金髪寝癖国王の声が聞こえた所で、私は机を叩いた。
「あんた達! 目的に最短で行こうと急ぎすぎよ!!」
あれ? なんか頭が火照ってきた。身体もなんだが軽くなったような。もう嫌よこんな講義。さっさと適当に終わらせよう。
「押し倒すだの! 押し倒されるだの! 交わるだの! いい? そこに辿り着くまでには過程と言うものがあるの!」
······ん? 私今、とてつも無くはしたない事を言ってないかしら? まあいいか。
「はいそこのぼけっとした顔のタイラント君! 先ず相手をよく知るにはどうするの?」
私の突然の質問に、タイラントは真顔で考える。
「······分からんな。何故なら私は、相手を知ろうと思った事などないからだ」
この、対人交流能力欠如魔族! 何を威張って言ってるのよ!
「それは相手の趣味趣向をよく知る事よ。タイラント。貴方の趣味って何?」
タイラントは再び真顔で考え込む。
「私に趣味などない。最も、国の政務を司る身に、趣味などに費す時間などないがな」
この下らなくどうでもいい講義に費す時間はあるんかい!!
「じゃあ、どんな女性が好み?」
あれ? 私は何を聞いているの? 講義と関係ないし、そもそもコイツの女性の好みなんて興味ないのに。
「私は女に興味を持った事などない」
え? 興味無い? 女性に? じゃ、じゃあ貴方は男性がお好みですか?
「男も同様だ。それよりも娘。昨日の話の二人の設定は、片方が男か女のどちらだ。後、頬とおでこ。どちらなら許すか回答していないぞ」
······この金髪紅目魔族。昨日の私の話に乗ってきたと思っていたけど違うわ。こいつは単純に、話の中の疑問点を質問してきただけ。
「······タイラント。貴方は誰かを好きになった事も、何かに夢中になった事も無いの?」
「無論だ。私の務めは国を富み栄えさせる事
。それ以外は必要無い。私はそう教えられてきた」
······初対面の際、タイラントは人間を殺してはいけないのかと質問してきた。タイラントは幼少から叩き込まれた教育環境に人格を形成されているんたわ。
この時、私はタイラントとの間には、埋めようがない大きな隔たりがある事を感じていた。
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