第2話*謎、増員す
「どうしたものか」
思案していると、三十メートルほど向こうに二つの人影が見えた。しばらく様子を見ていれば向こうもこちらに気が付いたらしく、ゆっくりと近づいてくる。
影はどうやら、若い男女のようだ。男の方はベリルに警戒しているのか、向けられる視線が遠くからでも妙に痛い。
とはいえ、警戒するのも無理はないのかもしれない。
互いの衣服には、かなりの隔たりがある。それは、文化の違いという言葉では表しきれない。
二人はマントを羽織っており、旅でもしているのか全体的に薄汚れている。リュックを背負い足元は革製の靴ではあるものの、よく知る革靴とは異なっていた。
男女共、腰に剣を
ベリルはふと、女の方に視線を留めた。
幼さの残る面持ちからして少女であろうか。その髪は鮮やかな青──空色と言うにふさわしく、そんな髪の色があるのかと感心した。
その少女がベリルの姿に笑顔を見せて駆け寄ろうと身を乗り出す。すると、後ろで一つに束ねた髪が小さく揺れた。
隣にいた青年が駆け出した少女の腕を掴んで制止する。
なるほど、男の方はかなり旅慣れているようだ。一見、武器を持っているとは思えないこちらに、決して隙は見せない。
それとは逆に、少女の方はあまり旅慣れしているようには感じられない。青年の強い警戒心は、少女を守るためのものだろうか。
そんな考察をしている間に、二人がベリルの数メートルほどの距離まで近づき足を止めた。
「こんにちは」
髪よりも濃い色の瞳を可愛くベリルに向ける。やはりまだ少女のようだ。
「やあ」
屈託のない笑顔に小さく笑んで応える。
なんの違和感もなく相手の言葉が理解出来る事にベリルは眉を寄せた。
「あの~。ここ、どこですか?」
「それは私も知りたいところだ」
「え?」
この二人も私と同じ状況らしい。
「あの。あたし、ティリス。こっちがリュート」
リュートと紹介された青年はベリルよりも背が高く、やや見上げる形となる。とはいえ、ベリルは百七十四センチと小柄な方である。
その差は十センチといったところだろうか。
落ち着いた金色の髪と翡翠色の瞳。髪は肩にかかるほどの長さで、手入れをしているようではないが風になびく柔らかさがある。
ベリルが興味をそそられたのはその顔立ち──右眉から頬にかけ、右目を縦断する大きな一線の傷があった。
しかし、片目だとはまったく感じさせない動きをしている。よほど訓練したのか、生まれつきのものなのか計りかねた。
「ベリルだ」
「変わった服ですね」
「私もそう思っていた」
「え……?」
「見知らぬ服装ではないがね」
ポカンとしたティリスを意に介さず、
「問題ない。理解の範囲内だ」
見えている光景から察するに、私はこの場所にとって異質な存在かもしれない。
「はあ……」
ティリスは勝手に納得しているベリルに小首をかしげた。
「問題なのは、状況がまったく掴めない事だ」
自分に何が起こっているのかを知りたいというのに、その人数が増えただけの状態にベリルは頭を抱える。
「うん?」
ふと背後から誰かに肩を叩かれ、ベリルは眉を寄せて振り返る。しかし誰もいない。気配を感じて視線を下げた。
「フェネックか」
そこには、大きな耳のキツネが二本足で立っていた。背丈は百三十センチほどだろうか。
敵意はないようだが肩を叩かれるまで、まるで気付かなかった事にベリルは少々、落胆した。
「可愛い!」
「ティリス! むやみに近づくな」
ベリルは初めて口を開いたリュートを一瞥する。声からして、思っていたよりも若いかもしれない。
「見た事ある! リネラスよね!」
「キツネリスが服を着て二本足で立つか」
どうやら、彼らの地域にいるフェネックと似た動物は「リネラス」というキツネリスらしい。
「あ、あの~。あなた方は、我々が呼び寄せた勇者様──ですよね?」
長く大きな耳を垂れて怖々と尋ねた。前足と思われた手をモジモジしている。
「……勇者?」
リュートは怪訝な表情を浮かべてベリルと顔を見合わせた。
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