弐-2
ㅤ大学の教室内。
ㅤ一人で先に来た千鶴は、隅の席に座っていた。
ㅤときおりちらちらと教室の出入り口を一瞥する。すると、やはりうなだれている瓏衣とその肩を叩いて励ます小太郎が入ってきた。
ㅤそれを認識するや否や、千鶴は思わず首ごと出入口から視線を反らす。
ㅤ少しの間があって、おそるおそるもう一度出入口の方を見ると、そこに二人の姿は無い。
ㅤと、思いきや、
「よっ。千鶴」
「ひゃっ!?」
ㅤ驚いた千鶴は肩を揺らして目を向けると、そこには右手を頭の高さまで上げて笑みを浮かべる小太郎がいた。
「こ、小太郎くん…」
ㅤおどおどしながら、千鶴はちらりと小太郎の背後を一瞥する。
「心配しなくても、アイツとは今日は別行動だ。とりあえず、和解できるまでお前のボデーガードを任された次第だから、なんかあったら俺に言え」
ㅤお見通しらしい小太郎はおどけながらそう言うと、いつもなら瓏衣が座ったであろう隣の空席に自分の鞄を置いた。
「う、うん…。ありがとう…。ごめんね…」
「そう思うなら、とっとと仲直りしてくれや」
ㅤ微笑みながら、左手で千鶴の頭をわしわしと乱雑に撫でまわす。
「うん。…私、勢い任せに瓏衣くんにすごく酷いこと言っちゃった…」
「あいつ相当キてたぜ?ㅤあのあとすぐに俺が通りかかったっぽかったけど、地面に這いつくばって灰になってた」
ㅤうっ、と千鶴が肩を揺らした。スマホを弄りだした小太郎の影から教室の反対側の隅に座っている瓏衣の様子を覗き見る。横長で八人ほどが座れる机に、瓏衣は一人突っ伏していた。
ㅤやっぱり自分の言ったことにショックを受けて沈んでるんだよねどうしよう早く謝らなきゃとおろおろ考える。
「お、あれは完全に寝る体勢だな。まあ眠いつってたしな…」
ㅤ気まぐれにスマホから顔を上げるなり瓏衣の方を見た小太郎がぽそりと言うと、再びスマホに視線を戻す。
「……瓏衣くんのばか」
ㅤ千鶴の片方の頬が膨れた。
ㅤやっぱり、今日一日は謝りたくないかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます