第24話 火山の戦い
夜が明ける前にチャンスは起こされる。精鋭冒険者六名とゼルダを伴って、空飛ぶ絨毯で火山へと急いだ。
ゼルダは戦闘を見越して全身を覆う金属鎧を着て、大きなハンマーを所持していた。
チャンスの気分は暗かった。
(わいの決断が街に大きな影響を与える。果たして、これで本当によかったんやろうか?)
火山の麓に開いた大穴から、火山の地下へと続く道を進む。火山には熔岩流の中に住む
適当にモンスターをやり過ごしながら、火山の中を進んでいく。
火山の中はそれほど複雑ではない。なので、道に迷うことはなかった。
ただ、目当ての大岩がある場所に行くには問題もあった。必ず通らなければいけない大空洞が存在する。
ゼルダが大空洞を前に、精鋭冒険者に指示を出す。
「おそらく、この先に敵がいるだろう。同じ冒険者かもしれないが覚悟はいいか」
精鋭冒険者のリーダーが真剣な顔で了承する。
「こちらも子供のお使いとは訳が違うんだ。向こうも覚悟があって受けた仕事だ。手抜きは断固しない」
ゼルダはチャンスにもお願いした。
「チャンスは敵を無視できるなら、先に進んでくれ。大岩の破壊を優先してほしい」
「わかった。大岩は必ず破壊する。そんで、街を元に戻そう」
大空洞は広さが直径三十mあるドーム状の空間だった。大空洞に人の姿は見えなかった。だが、誰かが隠れている状況はまるわかりだった。
精鋭冒険者から魔法が飛ぶ。
隠れていた六人が姿を現した。チャンスは敵の顔を知っていた。
(なんや、敵は顔見知りか。死人が出んといいけど)
「飛べ、チャンス」と声をゼルダが声を出す。
チャンスは足元から火を引き上げて、空を飛んだ。そのまま相手の頭上を飛び超えて、熔岩溜まりのある空間に行こうとした。
空中で見えない鎖に絡められて、それ以上に進めなくなった。チャンスの動きを封じている敵の魔術師に精鋭冒険者から矢が飛ぶ。矢は敵の戦士によって防がれた。
そこに、ハンマーを振りかぶったゼルダが突進する。敵の矢を浴びても、ゼルダは怯まない。ゼルダが敵の戦士に肉薄しハンマーを振り抜く。
敵の戦士は大きな盾でハンマーを受けた。
だが、ゼルダの一撃は想像以上に強力だった。
敵の戦士は吹っ飛び、後ろにいた敵の魔術師に衝突した。
チャンスの戒めが解けた。チャンスはそのまま飛んでいこうとした。
すると、敵の精霊術師が魔法を完成させる。
天井から落石が起きる。チャンスは落石をすいすいとよけて飛ぶ。
あともう少しで大空洞を抜ける所で、地面から岩壁が通路を塞いだ。
チャンスは拳を大きくして岩壁をぶん殴った。岩壁は硬く、一撃では壊れない。二撃、三撃と攻撃を加えると、四撃目で壁は崩れ落ちた。
チャンスは後ろを振り返らず、そのまま熔岩溜まりがある空間を目指した。
飛ぶこと三十秒で、高さが三十m、半径百mの広大な円柱状の空間に出る。
空間の後ろ半分は熔岩溜まりになっていて、青く光る大岩が三つ沈んでいた。
チャンスは全長十二mの巨人になり、全身から火を吹き上げた。チャンスは巨人の姿のまま熔岩溜まりの上を飛んで行く。
熔岩溜まりに手を突っ込む。熔岩は魔精霊のチャンスには少しも熱くなかった。
チャンスは岩を持ち上げた。岩は直径が八mもあり、なかなかに重かった。チャンスは岩を担ぎ上げると、別の岩に叩きつけた。
二つの大岩がぶつかり、砕けて光を失う。
残った大岩を両手で掴んで一気に加熱する。熔岩が沸き立ち、気泡が上げる。そのまま大岩を抱きかかえ、熱と力を加えると、残った大岩が砕けた。
三つの大岩が砕けると、地震が起こった。地震は小さかったが二分もの間続いた。
揺れが止まると、チャンスの足元の熔岩の流れが変わっていた。
(よっしゃ。これで温泉のお湯は元に戻る)
チャンスは熔岩溜まりから上がって元の人型に戻る。
来た道を戻って、大空洞へ急ぐ。
大空洞では精鋭冒険者の全員が倒れ、ゼルダだけが立っている状況だった。
「ゼルダはん、無事か」
「敵は大岩が破壊されたのを悟って、撤退して行ったわ」
チャンスとゼルダで倒れた精鋭冒険者の状態を確認する。
六人とも辛うじて生きている状態だった。
「冒険者の情けやな。向こうは命のやりとりまでは、したくなかったんやな」
「でも、危なかった。もし、チャンスがあと十秒、大岩を破壊するのが遅ければ、私が力を解放して敵を
「狂戦士のバーサークか。バーサークは諸刃の剣。最悪、誰も生き残らなかったもしれんな」
「とりあえず、転移のスクロールを用意してあるから、これで戻ろう」
「せやな、ここでぐずぐずしてモンスターに絡まれたら、面倒や」
ゼルダが転移のスクロールを使うと、辺りが光に包まれる。
戻った先は、アウザーランドの大使館だった。
大使館に待機していた治癒術師により、精鋭冒険者の治療が行われた。
ゼルダも傷を負っていたので、治療を受けた。
「もう、冒険者同士での戦闘なんて懲り懲りやで」
チャンスは用心のために三日ほど、大使館に籠もった。
四日目には大使館を出て、幸運の尻尾亭に行く。
以前に敵だった冒険者と会った。お互い口は利かない。
だが、敵だった冒険者は仕事の失敗を根に持っていないようだった。
チャンスも戦った話題には触れないでおいた。
チャンスが大岩を破壊したので、選挙戦の流が変わった。温泉街復興を目指す穏健派が急激に勢力を増し、魔銃製造業を起こそうとするものは少数派になった。
(なんや、負けるとわかったとたん、みんな勝ち馬に乗りに来おった。ほんま、人間とは現金なやっちゃな)
投票日当日、まだ開票が始まっていないのに穏健派は勝利宣言を出す。
街は祭り状態に突入し、チャンスが飲んでいると、向かいに悪神アンリが座る。
「チャンスよ。望んだ通りの結末になったのに、嬉しそうではないな」
「それはそうですわ。おやっさんのせいで、今回は危険な橋を渡らせられたんでっせ」
悪神アンリは全く意に介した様子がなかった。
「私のせい? それは違う。私は、ただ単に暇潰しのゲームを人間に持ち掛けただけ」
「でも、これで、魔銃の製造に投資しておった奴は首を括ったかもしれん。魔銃技師かて、街の敵みたいに見られて、肩身が狭くなったと思いますよ」
悪神アンリはあっさりした態度で言ってのける。
「賭金を積まないことには配当もない。当然にゲームに負けたら賭金は没収する。そうでないと楽しくないだろう。それに、武器を望み、戦争を望む態度は、人の常だ」
「わいは違うと思います。人は戦争を起したくてするんやないですよ」
悪神アンリは興味を示した。
「なら、なんで、争う? 理由が知りたいな」
「現状に満足せんからですわ。でも、ここには温泉があります。ダンジョンもあります。オアシスだってある。だから、戦争なんか不満を煽らんと起きません」
悪神アンリは高見から見下ろすような態度で笑う。
「チャンスの意見は、また面白い考えだな。チャンスの言うとおりだといいのだかな」
悪神アンリは一枚の硬貨を弾いてチャンスに寄越した。
「充分な報酬を貰っていないだろう。これは私から、ささやかな報酬だ。受け取るといい」
「有難くちょうだいします」
丁寧に礼を述べたが、内心は違った。
(もう、報酬をくれるならこの街から立ち去ってほしいわあ。この調子でこの街にいられたら、わいの引退ライフが滅茶苦茶になる)
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