四章幕間 それぞれの月夜①



「ん。。。もっ、と。。。もっと、食べ、て。。。もっと、いっ、ぱい。。。みこが、消え、て、無くなる、くら、い」




 少女の口付けを、彼女は拒めなどしなかった。。。

 単に暴走していた!意識が無かった、ということではない。

 柔らかな唇を乱暴に貪り、その血肉。否、髪の毛の一本に至るまで、少女の総てを吸い喰らい尽くさんとしている自らの食欲本性を、彼女はもう抑える事が出来なかったのだ。


 内に潜み、静かに積もり続けてきた食欲願望


 怪人達から魔力を奪うを狩り殺すでは無く、きた人間のきた血肉をらいたい!!!そんな本能は、彼女の中にも確かに在った。。。

 しかし魔法少女ヒトとして死んだ彼の日から今日まで、何万、何千という永い月日を経ても、彼女は怪人として当たり前であるはずのそのを一度たりとも犯してはいなかった。

 それはと言うよりは、めと呼ぶべきモノ。否、いと呼ぶ方が正しいのかもしれない。



「もっと♡。。。もっと食べて!

 この世界に、一欠片も残らない位、全部♡みこを全部食べてぇ!!!

 もっと、もっとぉ。。。♡アーーーーーーーーー♡」



 どうしようもなく、腹が減る暴れたくなる時は幾度かあった。

 しかし元が魔法少女特殊な者だった所為か、人間を喰わずとも怪人同族を殺しさえすれば、どうにか我慢する腹を満たすことは出来ていたのだ。


 。。。。。。そう。

 愛してしまった義妹偽妹と唇を重ねるの魔力を喰らう、今この瞬間ときまでは。。。どうにか一人の姉として居続ける事が、出来ていた。


 ジュルジュル、ジュクジュクと。

 少女の魔力は止めどなく溢れ、唾液と血液が混ざる甘美なるこの汁は互いの口元を真っ赤に潤す。時折激しく波打つ少女の身体は悦びに奮え、豊潤な蜜をも惜しみなく漏らしている。。。

 それはまるで魔性に魅入られたかの如く、少女彼女の意思など構わずに溢れ吸わされ続ける熟した禁断の果実の蜜汁。


 砂漠に水を撒くかの様に、彼女を誘う少女の潤蜜少女を貪る彼女の渇きは止まらない。。。


 出来る事なら少女この娘にだけは、自らのこの浅ましき姿など見せたくは無い。。。つい半刻前まで懐いていた、そんなチンケな自我想いすら侵し尽くすほどに、少女のキスは濃厚だった。



美味しい殺したい。。。美味しい殺したい美味しい殺したい!!!美味シイ殺シタイ!!!!!!!)



 酷く朧げな微睡みの中、少女のを知覚した瞬間から彼女の意識はこの一念に犯されている。犯し尽くすが先か、侵され尽くすのが先か。

 この何方かの結末が二人を別つまでこの偽の姉妹の一線を超えた食事献身は、果てぬかに見えた。



「もっと♡もっと、吸って♡。。。そのまま、みこの、全部、を。

 残さず、全部、喰べて。。。アッ♡お姉ーちゃーーーーーーーン。。。」

「。。。プハッ!!!!!!!。。。ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」



 最期の一吸。

 おそらく後一呼吸もすれば、彼女少女喰らった魔力魔力の消失に耐え切れず破裂消滅していたことだろう。。。

 だが少女が一際激しく仰け反った最期の際に挙げた絶逝の叫びが、彼女の意識を再び現実へと呼び戻した。


 おちゃん。


 その何の事も無いたった一言が、彼女の怪人としての本能を吹き飛ばし自我愛情という名の理性を目覚めさせたのである。



「。。。。。みぃちゃん、ごめんね?。。。ごめんね。。。」



 ポロポロ、ポロポロと。

 少女の頬を再び濡らす水滴は、先ほどまでの浅ましき獣達の赤き垂涎では無い。

 それは騙すべき偽りの妹を、本当に愛してしまった偽姉アネ苦しみ懺悔の証。彼女達偽りの姉妹が仕舞うのをめたその滴は、彼女の妹への未練が死した理由とも言うべきモノ。。。



「。。。ン♡お姉、ちゃん?。。。もぅ、ぃぃ、の?」



 しばしの間を置き、弛緩しきった少女は恍惚とした眼差しで彼女にそう問い掛ける。未だ艶めかしく彼女を求めるその口元は甘美なる終わりを、義姉にもたらされる終末を求めているのかもしれない。。。



「。。。ぇぇ♪お姉ちゃん、もぅお腹いっぱい♡ご馳走さま、みぃちゃん。。。」



 本来ならば、少女を終わらせる喰らい尽くす事こそが彼女の果たすべき役目であった。しかし彼女は自らを縛る主の命に背き、愛する獲物偽妹のおデコにいつものキスをした。


 るかの様に優しく、かしいほどに偽りの無い、真なるを込めて、彼女は少女の求めを断った。。。。。。




「お姉、ちゃん。。。くすぐったい」


「フフフ、ごめんね♡。。。そうだ!みぃちゃん?今から一緒にお風呂入りましょ?♪」


「ぅん?ぅん、ぃぃけど。。。でも、みこ、力、入んなぃ、ょ?」


「大丈夫♪お姉ちゃんが全部洗ってあげるから♡サ!行きましょ?」


「。。。ぅん、分かった♪」




 少女の眼には、再び彼女が姉の姿に写っている。

 それは彼女の怪人としての能力であると同時に少女の望みであり、偽りであっても本物でもある。何故なら少女を抱き抱え廻廊を行くその偽姉は、初めてこの少女を胸に抱いた彼の日から、敵では無くとして偽りたる妹に寄り添っているのだから。。。。。




「ホホホホホホ。いと可笑し、いと可笑し♪

 神夜め、やはり裏切っておったかホホホホ♪。。。さて、此度の余興妾をどれほど愉しませてくれるかや?オホホホホホホホホホ♪」



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