地球 第十八話
「遺物に組み込まれたバイテクジャンピング遺伝子は、遺伝子を置き換える要領で、遺物の遺伝子をバイテクジャンピング遺伝子に組み込み、バイテクペットクローン2に戻る」
閃光。
青色の光はずっと連続的に穴から出ていた。
歩き出したカイは、穴の縁に立った。徐に穴を除く。
閃光。
顔を背けたが、再び穴の中を覗き込んだ。
五センチ程の遺物が、ルーム0のバイテク床に転がっていた。
閃光。
遺物が青色に輝いた。
閃光。
ソニックブーム!
強い青色の輝きに驚いたカイは顔を背けた。直後、雷鳴のような音が聞こえてきた。
急いで穴を覗き込もうとして、カイは仰け反った。目の前に、青色に輝く球状のプラズマ発光体が浮かんでいたからだ。
閃光。
宙に浮くプラズマ発光体が青色に輝いた。
閃光。
ソニックブーム!
一瞬にして、プラズマ発光体が仰向けのバイテクペットクローン2の胸上にいた。
閃光。
ソニックブーム!
プラズマ発光体が胸元に落ちた。直後、バイテクペットクローン2の全身が青色に輝いた。
「バイテクジャンピング遺伝子が、バイテクペットクローン2に戻った。遺物の遺伝子を組み込んだバイテクジャンピング遺伝子だ。バイテクペットクローン2は、とてつもなく進化する」
カイは刀の柄を強く握り締めた。
閃光。
辺りが青色に染まった。
閃光。
ソニックブーム!
いきなりバイテクペットクローン2が立った。全身青色の被毛に覆われ、胸元の禿げた地肌に青鬼の刺青がある。
「見掛けは全く変わらないじゃないか」
カイが鼻で笑った。その直後、バイテクペットクローン2の口が大きく裂け上がった。と同時に、バイテクペットクローン2の体に異変が起った。
体が崩壊している。いや、崩壊しているのではなく、バイテクペットクローン2の体は、細胞分裂を始めていた。
「これから進化するんだ」
カイは顔を強張らせた。だが、腹を括っているせいか、すぐに平静さを取り戻す。
閃光。
ソニックブーム!
顔を背けたカイだが、すぐに視線を元に戻した。
「ミアキス?」
バイテクペットクローン2が立っていた場所に、はっきりしない容姿の動物がいた。まるでぼやけたバイテク立体ホログラムを見ているかのようで、動物だと思うのは、なんとか耳と尻尾があるのが分るからだ。だが、何の動物だかは全く分からない。それ故か、カイはミアキスが頭に浮かんだのだ。
はっきりしない容姿の動物が二本足で立った。バイテクペットクローン2の身長の三分の一しかない。その身長がゆっくりと伸びていく。それに合わせ、はっきりしない容姿が徐々にはっきりしていく。
「青鬼だ」
ぎゅっと刀の柄を握ったカイは、縮れ毛の短髪にある二本の角を睨みつけ、胸元を確認する。
「いない」
胸元にあった青鬼の刺青が消えていた。禿げていた胸元も青色の被毛で覆われている。
「バイテクペットクローン2が青鬼に進化した」
バイテクペットクローン2の顔が、胸元にあった青鬼の刺青と同じ顔になっていた。顔以外はバイテクペットクローン2の体で、全身の被毛は青色だ。
身震いしたカイだが、泰然と刀を構えた。それを見る青鬼が大きな口を開けてせせら笑った。口には二本の牙が生えていた。
「刀に分化せよ」
軋みに似た声が響いた。
カイは首を傾げた。なぜなら、万能バイテクペットの改良型遺伝子が組み込まれている尻尾をもぎっていないからだ。カイは嫌な予感がした。だが、カイは一直線、青鬼に向かって行った。
青鬼は身構えもせず、ただ立ったままでいた。
カイが刀を振り下ろした。その刹那、青鬼の左右の前腕が刀に分化し、カイの刀を受け止めた。
にやりとした青鬼は、カイの刀を思いっ切り押し遣った。
カイは吹き飛ばされた。遠方に飛ばされたが、足を踏ん張って着地した。刀もしっかりと握ったままだ。
せせら笑う青鬼が、右の刀を頭上に掲げ、軋みに似た声を発した。
「手裏剣に分化せよ」
掲げる右の刀の刃が脱分化した後、手裏剣に再分化していく。その様子は、まるで刃から無数の泡が発生しているかのようだ。
分化した手裏剣がくっつく刀を、青鬼は思いっ切り振った。無数の手裏剣が、カイに向かって行く。
刀を構えたカイが目を閉じた。恐怖を煽る視覚を封じ込めたのだ。空気の流れを感じ、その乱れのみに集中し、刀で素早く斬っていく。刀が手裏剣を弾く。だが、カイの頬、足、手に手裏剣が掠めたり、突き刺さったりした。強烈な痛みがカイを襲うが、決して気持は怯まなかった。
襲い掛かる手裏剣が止むと、カイは毅然と目を見開いた。目尻の横を血が滴り、バイテク床に落ちる。だが、カイの目は勝ち誇っていた。それは、重大なことに気付いたからだ。それを検証する為、バイテク床に転がる手裏剣を足で踏ん付け、確かめるように靴底から足裏に伝わる感触を捉えた。思った通りだと確信したカイは青鬼を唆す。
「おまえが俺に勝てるのか? 来い!」
冷淡にせせら笑った青鬼が駆け出した。飛び跳ねて、上からカイに襲い掛かった。左の刀はカイの刀によって受け止められたが、再分化した右の刀がカイを斬り付けた。
万事休すと思ったカイだが、顔面すれすれで刀が止まった。
――弄んでいる。
激しい怒りを感じたカイは、渾身の力で青鬼の腹部を蹴り上げた。だが、蹴り上げた足に手応えという感触がなかった。見ると、青鬼の腹部を足がすり抜けていた。
なにがなんだかさっぱり分らないと、カイは呆然となった。
そんなカイの様子に、青鬼が腹を抱える仕草をし、左右の刀をだらりとした。
見逃さなかったカイが素早く、躊躇なく青鬼の首を刀で斬った。だが、さっきと同じで斬った手応えがない。視覚では青鬼を斬ったように見えたが、青鬼の首は斬れていない。
青鬼が愉快そうに、ここも斬ってみろと胴の辺りを指差した。
カイは異様な事態を検証する為、青鬼の胴を一気に斬った。やはり、刀は胴をすり抜け、手応えは全くなかった。だがこれで、カイは気付いた。
――バイテク立体ホログラムだ。これが進化した形態だ。これが青鬼だ。
刀の柄を握るカイの手が恐ろしさで震えた。だが、青鬼が依然無防備な状態だと見て取ると、少し前に確信したことを実行に移す。刀の柄を握り直すと、素早く斬った。
青鬼の右の刀の半分が宙を舞った。
呆然となった青鬼の左の刀も、カイは斬った。
それぞれの刀の半分が、バイテク床に突き立った。
「おまえの刀である前腕は、バイテク立体ホログラムではない。実物だ」
カイは思いっ切り笑ってみせた。
青鬼は半分になった刀を見つめて狼狽えていた。
まさかこんなことが起きるとは考えてもいなかったのだ。すぐに再生できるくせに、それに気が付かないほどに、失った部分をじっと見つめている。
カイはとても愉快だった。
「サンの刀はおまえの刀より数段硬い。おまえの刀や手裏剣は、分子構造の失敗だ。イメージしたおまえのミスだ。分化ミスだ」
なぶったカイは高笑った。
「サン。おまえの刀のおかげで楽しめたぜ」
カイが喜悦の声を上げた。
青鬼の顔が一変した。あれだけせせら笑い、余裕たっぷりだった青鬼が、怒り狂ったように金切り声を上げた。
閃光。
ソニックブーム!
全ては青色の光に呑み込まれ、カイは衝撃波でフューチャーラボごと、一瞬にして消滅した。
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