第三話「透明な愛」彼目線:悠真(ゆうま)
君に一目惚れしたあの日から、俺の世界は色づいたんだ。
「和子」
そっと目を閉じて、過去の事を振り返る。
「悠真さん?どうしたの?」
元カノの森和子。ふわふわとした金色のロングヘアーに、透き通った漆黒の瞳に、薄ピンク色の唇の顔立ちだ。
「いや、なんでもないよ」
「大丈夫?」
「う…うん」
(俺の方が年上なのに、なんでこっちばっかりドキドキするんだろう?)
「和子?」
サラとした金髪が俺の顔に触れる。
その髪にそっと優しくキスをした。
「思慕」だ。
そう、俺は未だに彼女に恋している。恋しく思っている。
「悠真さん」
「和子、ごめんな」
元カノじゃなくて、自分の妻になれなかった事を謝った。
「大丈夫ですよ」
泣き止まない赤ちゃんを慰めるように、頭を優しく撫でられて、抱きしめてくれた。
「悠真さん、本当によく頑張りました」
「んっ」
そっと優しく頬を触れながら、軽くキスをした。
「あら、悠真さん?どうしたの?」
「妻と結婚しても良かったのかな…」
「妻…ってちゃんと言うんですね」
「同じ苗字である限り夫婦だからって、この前言ったんだ」
「そうなのね」
「君の存在がうちの親に大反対されずに、杏奈と結婚しなかったら、今はすごく幸せかもしれない」
「だから、お互い不倫してもいいの?」
「さあ…?愛のない結婚。愛のない夫婦生活。
形のない愛を持つ人間と結婚すると、色々辛いから、覚悟はした方がいいよな」
「そうね…」
「でも、いつでも会いに来てね?」
「うん、ありがとう」
「さて、お仕事始めましょ?」
俺たちが勤めてる会社は海外とよく関わる貿易会社だ。
なるべく妻には和子の存在を忘れさせてるが、結婚する前に俺、杏奈、博征、和子、四人で揃って話し合った。
そこから、四人の関係がはっきりしている。
「では、森さん。これ、よろしくお願いいたします」
「承知しました」
上司と部下の関係。
元カレと元カノの関係。
それだけの関係だけど、やはり俺たちは愛し合っている。
「森さんって、最近生き生きしてるよね」
「そういえば…!なんか戸田さんに奥さんができてから、更に嬉しくなってるような…?」
「元カレの幸せを願える素敵な女性なんじゃない?」
「…どうしたんですか?」
「すみません!な…なんでもないです!」
慌ただしく自分の傍から離れていく彼女の表情は少し満足そうだった。
(君は本当にそれでいいのか?)
「俺は満足してないぞ」
小声で囁く悩み。その様子を見て、にっこりしながら、手を振ってくるけど、俺はどうしても笑顔にはなれなかった。
左手の薬指に、結婚指輪をはめてる限り、これ以上の幸せを求めることができない。
「お先に失礼します」
「あっ戸田さん!私もちょうどお仕事が終わったので、ご一緒させてもよろしいでしょうか?」
「あっはい。大丈夫ですよ」
「やったー!ありがとうございます!では、お先に失礼しますね!」
「お疲れ様でした!」
会社から離れると、少し遠くにあるコンビニに立ち寄った。
そこで、彼女の顔が一気に暗くなった。
「ねぇ、悠真さん。奥さんと仲良い?」
「全然。形だけの結婚式だって知ってるだろ?」
「知ってる。でも、どこか不満なの。なんで私たちの方が愛し合ってるのに、あなたはそんな人と結婚しないといけないの?結婚式だけならいいよ?籍まで入れてるじゃない?なんで相手はこの私じゃないの?」
「和子の傍から離れるしかないんだ。君を守るためだよ?それに、俺たちはお互いの両親の言いなりで、結婚しただけだ?それに、俺の心には君しか棲みついてないから、な?」
「もう!悠真さんのバーカ!」
俺は、もうすでに泣いてる彼女の頭を撫でながら、心の中で、少しでも和子と長くいられるように願った。
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