4.13 サシャの父母を知る者
「サカリ? ……サカリっ!」
街の喧噪の中に響いた、切羽詰まったような声に、思わず耳を欹てる。大丈夫、サシャを呼んでいる声ではない。ほっと息を吐くと、トールは、俯き加減で歩くサシャの、疲れて蒼白い頬を覗き込んだ。
サシャが、
僅かな風に揺れる、黒字に銀糸で狼が刺繍された旗が視界に入ってくる。八都の東に位置する
「サカリっ!」
そのサシャの腕が、不意に後ろに引っ張られる。
[うわっ!]
予告無く揺れた視界に、トールは聞こえない叫び声を上げてしまった。
「サカリだろっ、お前っ!」
「え……」
いきなり目の前に現れた、赤色の髪に、サシャが言葉を失う。
「僕、は……」
「エリゼの息子、サカリだろ」
「えっ?」
続いて響いた、赤色の髪の人物の言葉に、トールは愕然としてサシャを見上げた。ここは、帝都。サシャの母エリゼが自由七科を修めた場所。そういう場所だから、サシャの母を知る人物がいるかもしれないという予測は、あらかじめしておくべきだった。いや。目を丸くしたサシャに、首を横に振る。
「紅い瞳以外真っ白な奴なんて、
おそらく、サシャにエリゼを見ているのだろう、赤い髪を揺らす影の、青みの強い瞳が大きく笑う。
「エリゼから、何も聞いていないのか?」
だが。目を丸くしたままのサシャに首を傾げた赤い髪の人物は、次の質問に頷いたサシャに唇をへの字に曲げた。
「そうか……」
掴んだままのサシャの腕を離した赤い髪の人物が、サシャの左手を優しく掴む。
「お前の父と母のこと、話してやる」
半ば強引にサシャの手を引き、細い街路を曲がる赤い髪の人物の、大きくも小さくもない背中に、トールは無意識に首を横に振っていた。
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