3.3 突然の再会①
次の日は俄然、忙しくなった。
遺跡の地下の倉庫から、小麦粉やライ麦粉を地上へと運び出す。出してきた粉類を水で練って生地を作り、倉庫にあった鍋を二つ組み合わせて作ったオーブンもどきに生地を入れ、鍋の上にも薪を乗せて旅用の固いビスケットを焼く。焼いている間に、やはり倉庫で見つけた厚手の服を利用して、サシャが背負うことができる大きさのリュックサックを縫う。大体の準備が整った時には、夏の日差しは大きく傾いてしまっていた。
「明日、出発できるかな」
最後の生地を焼く薪の炎に呟くサシャの、名残惜しさが半分、震えが半分の声に、頷く。罰が怖いのであれば、ずっとここにいてもいい。言いかけた言葉を、トールはそっと飲み込んだ。
「良い匂いだな」
不意に響いた、聞き知った声に、はっと身を固くする。
飛び上がるように立ち上がったサシャの前に現れたのは、全てを見透かす蒼色の瞳。
「ヴィリバルト、殿?」
にやりと口の端を上げた、武器を持たない影の名を、戸惑うままにサシャが呟く。サシャを見下ろす蒼い瞳は確かに、
「『殿』とか、そういう敬称はいらない」
震えるサシャの前で、首を横に振ったヴィリバルトの濃い金色の髪がさらりと揺れる。
「バルトで良い」
そしてヴィリバルトは鷹揚に、いつの間にかヴィリバルトの後ろで剣を抜いていたかなり大柄な影に右掌を向けた。
「こっちはエゴン。俺の新しい部下。エゴン、こいつは味方だ。心配無い」
ヴィリバルトの言葉に、ヴィリバルトの1.5倍はある大柄な影はサシャに向けていた大剣を静かに鞘に収める。
「あと、ルジェクがその辺を探っている」
ゆっくりと辺りを見回したヴィリバルトは、サシャの横の焚き火に目を留めた。
「もうそろそろ火を止めないと、焦げるぞ」
「あ」
ヴィリバルトの言う通り、少しだけ焦げた匂いがトールの鼻をつく。慌てて火を消しにかかったサシャの上から、あくまで静かなヴィリバルトの声が降ってきた。
「俺達は、神帝猊下の命で狂信者達を探している」
その言葉の鋭さに、一人と一冊は同時にヴィリバルトを見上げる。
「何故、狂信者のアジトにいるんだ、サシャ」
冷徹なヴィリバルトの問いに俯いたサシャの、胸の震えに、トールは小さく首を横に振った。
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