2.5 湖畔の光景
図書館の近くにある城門から都の外に出たサシャの足は、エルネストの指示通り南へと向かう。
すぐに、トールの視界いっぱいに、水の青が広がった。
この湖には、不思議な伝説も眠っているらしい。葦が並ぶ場所を飛び交う鳥や虫たちを目で追うサシャを眺めてから、岸辺と沖合で色が全く異なる湖面を確かめる。まだ八都が影も形も無かった頃、この辺りには、南で繁栄を誇っていた古代人とは違う、知恵に溢れた人々が静かに暮らしていたらしい。その人々の知識に恐れを為した南の古代人は、魔法と策略を用いることで、静かな人々が暮らしていた地を湖の底に沈めたという。その結果が、この『星の湖』。岸から少し離れたところで急激に深くなっているこの湖の底に、南の古代人によって滅ぼされた小さな村が眠っていると、トールが読んだ歴史の本には至極簡単に書かれていた。
日はまだ高めだが、サシャには疲れが見える。歩くサシャの、頬の青白さに息を吐く。
サシャが、叔父であるユーグと共に寄宿する修道院は、北都の西側、北都からも湖からも少し離れた小高い丘の上にある。今はまだ遠くに見えるその丘と、サシャとの間に見えるのは、色付き始めたライ麦畑と、羊や山羊が草を食む休耕地。豆やキャベツを植えているらしい畑も見える。畑の向こうに見えた、壁のような山肌に、トールは目を細めた。北向の都と『星の湖』は、北西と北東にある壁のような山々に守られた形になっている。北都の東側にある河の上流に位置する『北辺』地域だけが、北都にとっては無防備に開いている場所。北辺を守るために王族を派遣するのも当然だな。サシャの学費を出してくれている北辺の砦の隊長セレスタンのことを思い出し、トールは首を横に振った。
「リュカ、元気かな?」
そのセレスタンの息子、北辺でサシャが仲良くなったまだ小さな友人のことを思い出したのだろう、不意にサシャが俯いて、トールに話しかける。
「元気だって、『
半月ほど前の
そう言えば。サシャがテオという卑劣な輩に大怪我を負わされて生死を彷徨っていた時にリュカが叫んだ『約束』のことを、思い出す。将来、八都を束ねる『
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