第2話 「復讐」

アザミの目が覚めた。夢の内容など何も覚えていない。いつも通りパンを食べて、着替えて、学校に行く。

「おはよ」

アザミは親友のユキに声を掛ける。そこにもうひとりの親友であるサクラが来た。

「おっはよ!」

いつも通りの三人だった。


それから三日後の三月六日。 正確には、あの日に人に素肌で触れてから三日後。アザミははっきりと、あの日見た夢の内容を思い出していた。

自分の家でもないところで、自分の家族でもない人達に囲まれていた。

「私に触れないで」

「皆の為なの。私の為でもある。

私を人殺しにしないで」

そう叫んでいた。

誰に宣告されたわけでもないが、アザミにはもう分かっていた。

アザミの手に触れた人は、三日後に死んでしまうのだ。

あの日、移動教室に遅れそうになったアザミの手をサクラが引いて走ったのだった。それからアザミは、手袋を常に着けて過ごすようになった。

学校では、クラスメイトのハナ、ノノ、ルカ、ソラに嫌がらせを受け始めた。ソラはサクラと仲が良かった。サクラが亡くなった腹いせにアザミに冷たくあたっているように見えた。彼女らはアザミを「殺人犯」と呼んだ。アザミからしてみれば間違っていない。ただ耐える日々が続いた。

そんなある日……三月十日のこと。

「殺人犯は捕まればいいのに」

冷たくノノが言い放つ。

「ほんと、サクラ可哀想じゃない?こんな奴に殺されたなんて」

ルカはアザミを鼻で笑う。

「本当だよ!」

ソラは周りに合わせるのに必死になっているのが伺える。

「私たちも殺されちゃうのかなぁ?」

煽るようにハナが笑う。ついに耐えきれなくなったアザミは分厚い手袋を放り投げた。

「ハナの言うとおり殺してやる」

アザミがハナの頬を叩く。ハナは驚いた表情でアザミを見つめる。口撃に夢中だった残りの三人も順に叩いた。

「三日後、楽しみにしててよ!」

そう宣言したアザミの顔には悦楽が滲んでいた。手袋を回収したあと、ソラの方を向き直った。

「ごめんソラ。でも……

サクラにまた会いたいでしょ?」

アザミは驚いた。自分の声が余りにも冷酷で、かつ、そんな自分を楽しんでしまっていたから。

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