ホロスコープ給食

「うええ…」

私は給食の時間、いつも憂鬱だが。

今日は最悪だった。

今日の献立は白米、納豆、白身フライ、野菜炒め、けんちん汁、牛乳。

納豆。

私の宿敵が今ここに存在している。

いやほんとなんで給食に腐った食物を出すんだ衛生委員会の気が知れないよ好き嫌いを直せと言う各人の個性の剥ぎ取りを推奨するこの国の上層部は今すぐにでも降りるべきだってみんな賛成に投票するに決まっているよそもそも納豆などという兵器を量産する工場を圧力をかけて潰すのが先かもしれ――――。

「華詩さん、嫌いなメニューあるの?」

「へっ」

え?いや、変な声出た。私が、話し、かけられた?

「えっ、あっ、いやいやそそそんあんこたあなきゃ、なきこともありませねなあ」

うっひぇええええええええええまた噛んだ!もうやだ……。

「あるの?」

「えっ………あ、はい」

「なに?」

「な、なっとうです」

「じゃあ、食べてあげるよ」

彼女はそう言って私の机に手を伸ばし、納豆の皿を持って行ってしまった。

「ちょっと~~いじきたないよ~~~友子~~」

「へへー」

私はあっけにとられるしかなかった。


朝凪友子。

彼女を一言で表すなら、クラスのど真ん中にいる人だ。

彼女が発言すればクラスは自然とその意見に流されるし、

おまけに美人とまで来た。

……羅列するだけで胸焼けしそうな人だ。

まず名前が『友子』って何。生まれた時から友達に囲まれる事が決定してるような優れた名前さあ。私の『陽代』って生まれた時から日和って失敗することが決定づけられた真っ黒けな人生とはスタートラインが違う。いや私だって低学年の頃はうまく……やめよう。みじめだ。

ネガティブに考えるのはやめよう。話のタネが出来たと思えばいい。

竣くんが何の食べ物が好きとか、嫌いとかそういう話が出来たらかなり上的なんじゃないだろうか。

そんなことを考えながら歩いていて、今日も図書室に来た。

いや読みかけの本読みに来ただけですから。期待なんかしてません、うん。

そっと中に入って、本棚からハードカバーの一冊を取る。

そしてくんがたいてい座ってる席へ移動……。

「……いない」

中庭?まあ毎日ここに来るとは限らないし……。

……中庭に行って居なかったらなんか無駄骨だし、どうしよう。

「あれ?華歌さん?」

「ギャピイ!!!」

ななななに?!ビックリしすぎて宇宙人みたいな声出た!

「大丈夫?大きな声図書室で出したら駄目だよ?」

「あ、はい。以後気を付けます……」

私は謝罪のために後ろを向いた。そこには。

朝凪さんがいた。

「え」

朝凪友子さんだ。

あの、可愛くて素敵で社交性の塊で、胸焼けと嫉妬が循環する朝凪さんだ。

「どっ、どどうして、としょ、室に」

「落ち着いて。はい、深呼吸」

「は、はい。すーはー、すー、はー」

……落ち着いた。

「良かった。なんか過呼吸になってたから」

「ありがとう……ございます……」

図書室が1階じゃなかったから間違いなく飛び降りてた。

ひい、慣れてきたガラスの王子様と会話するより社交性を備えた可愛い子と些細な言葉を交わす方が心臓が何十倍も辛い。

「……えと、どうして図書室に?」

「友達が委員会あるから返してきてって頼まれて。これ」

朝凪さんは両手を顔の前に持っていき持っていたその本を見せてきた。うわっ仕草の一つ一つがカワイイ!

「……占い本」

「そう、最近流行ってるんだ」

「へえ……」

ヤバイ。占いとかめざま〇テレビのしか知らない。

「じゃあ、これ返してくるね」

そう言って朝凪さんはカウンターの方に行こうとする。ま、待ってくれ。

このまま会話を止めてはならない。

「あのっ」

「ん?」

朝凪さんが振り向く。

横顔もキレイだな!!!

「う、占い1丁………」

「……1丁?」

ああああああああああああああああああああああ殺せえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!


「あ、占ってほしいの?いいよ」

天使だ。


私たち2人はテーブルに腰かけ、占いの本と対面していた。

隣に座るように促されたが丁重(たぶん)にお断りして正面に座った。

「えーと、朝凪さんの誕生日いつ?」

「……10月28日」

「わあ、文化祭の後すぐだね」

「へ、へへえ……」

なんて返せばいいのこれ。

「血液型は?」

「お、О型」

「わっ、一緒だね」

「ど、どうもありがとうございますというか…なんか、申し訳ないです」

「?なんで謝るの?あ、後好きな宝石は?」

「ほ、宝石」

考えたこともなかった。ど、どうしよう種類とか全然知らない。

えーと、えー……。


『先生、これ…』

『ああ、君の瞳によく似合う』


「…サファイア」

…ここ最近の宝石に関する記憶が竣くんと一緒に語った少女漫画の告白シーンしかなかった。その時にサファイアの指輪を渡してたのだ。

これでいいのだろうか、私。

「なるほどね~、えっーと、今日9月27日に占った誕生日が10月のО型で、蒼いサファイアが好きな人は……あった」

朝凪さんは本をこちらに向けて該当箇所を指さした。

「学運は、ちょっと頑張りましょう。オシャレ運は、上向きだって!金運は代り映え無し、夢は…努力次第!それで、恋愛は…凄い!運命の相手と今月中に巡り合いの可能性あるって!」

「…あと3日しかないよ、今月」

「もうすれ違ってる可能性もあるよ!!」

朝凪さんはテンションを挙げて身を乗り出してきた。こ、こんなに占い好きだったんだ。

「頑張ってね華歌さん!」

「あ、はい!?」

手!手握られた!距離感が近い!

「じゃあアタシ行くね!」

朝凪さんはそのままカウンターに本を返しに行き、私は握られた手をじっと見つめる。

「……一人称アタシだったんだ」

私は。

びっくりするぐらい。

クラスメートの彼女を知らなかったんだ。


そして次の日。

朝凪さんの占いが当たったかどうかはともかく。

私はもう一人、ガラスの人に出会った。







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