第4話 魔法(1)

「すいませんでした。これが昨日の分の代金です。」

宿屋に料金を払いに来た所、ここの若女将に遭遇。事情を知らなかったらしく勢いよく事情聴取、そして折檻を受けた。

「全く、お金も無いのに泊まり込むなんて喧嘩売ってるんですか!他の店だったらブチギレ案件ですよ!」

いや、もう既にブチギレてると思うんですけど……。明らかに2~3歳年下にペコペコと頭を下げながら、必死に謝罪をする。

「……許すには条件があります。」

「な、なんでしょうか。」

どんな鬼畜なお願いをされるのだろうか。膨大な数の皿洗いや、廊下の雑巾掛けなど思いつくことを全て考えると、恐ろしくなってこの場から全速力で逃げ出したくなる。

「……今日もここに泊まって下さい。後、それと……。」

頬を赤らめて持っているおぼんで口元を隠し、ぼそぼそっと呟く。

「付き合って……下さい。」

「喜んで。お願いします。」

即答した。今の表情に心ときめいてしまった。めっちゃ可愛かった。オッケーを出すと、嬉しそうに笑顔を浮かべる。やばい、同性愛に目覚めそう。

「じゃあ、早速明日大丈夫ですか?」

「はい、全然大丈夫です。あしたはやること無さすぎて部屋の畳の目をを数えようと思ってたくらい暇です。」

「では明日の10時、ここで待っています。」

もう先程まで怒られていた事が嘘のように私の顔にはだらしない笑顔が乗っかっていた。厨房に戻る背中が見えなくなるまで視線を離さず、上機嫌で部屋に入った。

「チヅレ、聞いた!?凄い可愛くなかった?あの子!」

「くぅ〜〜ん。」

若干引いている様に声を出すチヅレ。だがそれも気にしなくなる位に心が踊っていた。

ベットの上にヘッドスライディングをかまし、天井を見上げる。チヅレを呼んで抱きしめ、そのまま私は眠りについた。


パチッと目が覚めてしまった。時刻を確認するとまだ6時前。昨日少し早く寝過ぎたといっても流石に早すぎた。

「歯、磨こう。あとは今日着る服を……ってそもそも私この服以外持ってないや。」

朝に強くない私が1人ノリツッコミの様なものが出来るほど私の目は冴えていた。遠足前の小学生みたいになってしまっているが関係ない。チヅレが起きないようにゆっくりとベットから降り、共有の洗面台に向かう。手で水を掬い顔を洗う。

「あれ?優希さん?」

「その声は……ロニエ?」

急いで顔の付着水分をタオルで吸い取り、後方を向く。

「やっぱりロニエか。で、どうしてここにといるの?ロニエもここに泊まってるの?」

「うん、その通りだよ。私は今日もギルドの仕事があるから……。優希さんも随分と早いね、仕事しに行くの?」

「ううん、今日は予定があるから私はお休みかな。もしかしたら夕方に行くかもしれないけどね。」

そっかと呟き、思い出したかの様に私の右腕に視線を当てる。

「怪我……大丈夫です?どの位良くなった?」

「ああっ、そういえば。すっかり忘れてたよ。」

「ここで話すのもなんだし、私の部屋に行きましょうか。」

少しばかり敬語が残っているが、職業柄仕方ないだろう。ロニエも頑張っているのだろうしそこに関しては何も咎めずにロニエの部屋に向かう。

「って私の隣じゃん。」

「あれ、本当ですか。それは凄い偶然。」

そんな他愛ない雑談を挟みつつ中に入り、椅子に座る。ロニエも私の隣に座り、先程まで話していた内容に戻す。

「それでも、傷の具合は?1日経ちましたし包帯とか取替えないと。」

「またあの消毒やるの?痛いし嫌だなぁ。」

文句を言いながら渋々包帯を取り外す。するとそこには昨日まであったはずの傷跡はなく何事も無かったかの様な状態まで回復していた。

「傷跡が消えている……。優希さん、あの後何か特別な処置でもしたんですか?」

この傷については私は何も触れてない。何故こうなったのか推測を立てると、1つの答えが導き出された。

「ティフォにやって貰った……身体強化?」

「なんですか?その身体強化とは。」

ロニエの質問に対して、私はティフォにして貰ったお願いについて話した。

「なるほど、道理で回復が速い訳だ。」

ロニエは素早く話を飲み込み、理解を深める。昨日も思ったけどとても状況整理に長けているのだなと心の中で称賛する。

「だからといって、無茶な行動はダメだよ?

いくら回復力が高くても人は死んでしまうんだから。」

「勿論分かってるよ、無茶はしない。」

「本当に?」と疑いの双眸を向けながら顔を近付けてくる。「本当だって。」といいながら少し顔を後方に下げる。眼からとても強い圧力がかかり、私は苦笑いを浮かべる。

「……取り敢えずは信じます。それで不本意ながらの初めての戦闘はどうでしたか?」

ふぅっ、と深く溜息をついた後ゆっくりと昨日の事を聞かれる。

「怖かったし、緊張した。何より痛かったし昨日はもう二度とモンスターなんかと戦いたくないって思った。」

昨日の情景を10秒前に起こったことのように覚えている。赤く濡れた地面に、倒れるモンスター。もしかしたらあそこに倒れていたのは私だったかもしれないと何度も思った。でも、

「でも、今日顔を洗ってる時思ったんだ。そんな怖い思いをしている人がこの世界には沢山いるって。私はモンスターとは戦いたくないと思ってるけど……。」

深呼吸を挟み、言葉を続けた。

「だけどそれ以上に、そんな人達を助けてあげたい。とも、思ったんだ。」

「そう……ですか。」

どこか嬉しそうな表情でそう呟くロニエ。

数秒間黙りこくった後、静かに私に問いかけてるきた。

「護る力が欲しい?」

「……うん。チヅレを、街の人を。そしてロニエも護れる力が欲しい。」

その応答にロニエは驚いた表情を浮かべた後、ゆっくりと笑みを見せた。

「分かった、なら教えてあげる。チヅレ君を、街の人を。そして私を護れる様になる為の『魔法』を。」

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