第3話 思っていたより…(1)
「よーし、大体オッケー。もう大分汚れは落ちたね、チヅレ。」
「わふぅ〜〜。」
毛が濡れて一回り小さくなったチヅレは、汚れが落ちてご満悦の様だ。現在は宿屋のお風呂でチヅレを洗っている。あれから日が暮れるまで大体2時間程街を歩き回ったが、温泉という文化がない様だった。
「はい、じゃあチヅレ。こっち来て。身体が冷える前にタオルで拭かなきゃ。」
お風呂の扉を開け、腰を下ろしタオルを広げる。そこにチヅレが突っ込んでくるのでタオルでしっかりとわしゃわしゃする。この世界には電子機械が存在しない。なのでドライヤーも勿論ないのでタオルを動かす腕がだんだん疲弊してくる。
「あー、疲れるなぁ。チヅレはまだちっちゃいから良いけど成長したら大変だなぁ。私も髪乾かすの大変だし……。」
ブラッシングで毛並みを整えながら、独り言を呟く。ブラッシングが良いのか眠いのかチヅレは口を大きく開け、欠伸のようなものを振り撒く。
「チヅレ、終わったよ。……凄いふわっふわだね。初お風呂はどうだった?」
「わんっ!」
多分よかったみたいな事を言っているのかな。洗ってる途中も逃げ出さなかったし。
そんな事を考えながら、部屋の隅にあるベットまでチヅレを運んでいく。
「ちょっと待っててね、次は私が入ってくるから。良い子にしてて、物を壊さないようにね。」
チヅレをおいて再びお風呂場にくる。今日という1日が凄く長かったと、オジサンみたいな感想を浮かべながら衣服を脱ぎタオルを持って中に入る。掛け湯をして湯舟に浸かり、今日の事を振り返る。
「ふぃ〜。極楽極楽〜。」
情けない声が響き渡る。何かの芳香剤が使われているのか、柚の匂いが辺りに舞い、身体に染みる。
「これからの事も考えなきゃな。まずは私より先に来た人達に会って話を聞きたい。」
そもそも問題解決とは言われてきたが、具体的にどんな事をしればいいのかをティフォからは一切聞いていなかった。
「そもそも私の他の協力者って何人位いるんだろ。そういうのも聞いておけば良かったな。」
まだまだ分からない事ばかり。その中でも私が一番疑問なのが、頭の上に表示されている謎の数字。
「9981って書いてあるけどなんなんだろう。
ティフォ、ちゃんと教えて欲しかったよ。」
ないものねだりをしても仕方ない。この数字は街を歩いている時にも少し他の人の頭上に表示されていた。人によって数字もバラバラで、そもそも表示されていない人が大半であった。
「そういうのは明日、数字が出てる人に聞いてみよう。もう眠くなってきちゃったし。」
もうなんだかんだで結構浴槽に入っているし、そろそろのぼせるかもしれない。そう考えた私は髪を軽く洗い、素早く浴室から姿を消した。
「ふぁ〜、良く寝た。チヅレも起きて。」
カーテンの隙間から太陽の光が差し込み、二度寝の選択肢を潰してくる。私はそんなに朝は強くないので、まだ頭も回っていない。
何とか身支度を整え、外に出るべくフロントに足を進めた。
「おはようございます、よく眠れましたか?」
「あー、はい。とっても。ありがとうございました。」
「左様ですか。それでは代金の方ですが、銀貨1枚になります。」
「………………え?」
「………………はい?」
力の入っていない私の声に困惑しているフロントの男性。ここでやっと頭が正常に機能し始めた。
「銀貨1枚……。あの、すいません。」
「は、はい。なんでしょうか。」
膝を折り、地面に手を付ける。そして、チヅレと同じ位の高さまで頭を下げ一言。
「必ず今日払います。少し待っていただけませんでしょうか……!」
……人生初の土下座であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます