協力(5)

ティフォに転送して貰ってから早10分。転送完了は30分程と言っていたので気長に待つことに。考え事をしながらチヅレに芸を仕込んでいると、ティフォからの連絡が入ってきた。

「あー、あー。聞こえる?優希。早速で悪いんだけど言い忘れてた事思い出したよ。」

頭の中に直接話しかけられ、違和感と嫌悪感が交錯していたが仕方ない。余りその感情を声に出さない様に聞こえている事を伝える。

「そっちの世界についてなんだけど、まずは時間の流れが違うって事を伝え忘れてました。ごめんなさい。」

割と重要な事を伝え忘れているのではないだろうか。ティフォにはもうちょっと頑張って頂きたい。

「正確にはどの位変わるのですか?こちらの世界の1日は向こうの世界の何日ですか?」

「正確に言うには難しいんだけど、優希達が元いた世界の1日がそっちの1ヶ月位。」

よかった。もし時間の流れ方が逆だったら戻った時私が何歳になっているか分かったもんじゃない。そうなっていたら、もう誕生日会の話以前の問題である。

「それでまだあるんだけど、この事は多分察しは付いてるかも知れないけど一応ね。優希は轢かれた時に精神がこっちに来たからその時から時間は止まってる。だからどれだけ時間が経とうとその身体は成長しないよ。」

だから私は19歳って言っていたのか。それも結構重要な情報なんじゃないかな。

「だけどチヅレ君はもう死んじゃってて、私が身体を構築したから成長するよ。はい、伝え忘れてた事はこれで多分無い筈です。すいませんでした。」

さっきから謝罪の言葉が棒読みなんですが。

それでも一応伝えてくれた訳だし、感謝の言葉は告げておこう。

「ありがとうございました、ティフォ。」

「なんか棒読みじゃない?」

こういう時は棒読みでも良いから肯定して欲しいってユリに言われていたのをしっかりと覚えていた。そういえば、メールは送れたのだろうか。曖昧な記憶の中には結局その答えは入っていなかった。

「それでね、基本私はそっちの世界に干渉はしないから向こうに着いたら連絡は出来なくなるよ。向こうの事は先に行ってる先輩達に聞いてね。」

大分投げやりだな。もしかしてさっきの棒読みの件怒ってます?それなら謝るんですけどとか思いながら話を聞いていた。

「……そろそろ着くよ。二人とも、気を付けてね。」

「は、はい。ありがとうございます。」

「わんっ!」

違う。怒っているんじゃない。呆れている訳でもない。声色から把握出来たのは悲しく寂しそうな感情。

「ティフォ。戻ったその時は、一杯話をしましょうね。」

「……!うん。楽しみに待ってるよ。」

ここで優希との通信が途切れた。

「優希……。面白い子だったな。戻ったら…か。」

神妙な顔付きで独り言を放つティフォ。

「『箱庭』を抜け出せた君達がどう生き抜くか……。見せてもらうよ。」

その顔には不敵な笑みが浮かんでいた。


大変賑やかな街へと降り立った。西洋風とでも表現しようか。荷物を乗せた馬車が地面を揺らし、辺りでは活気ある声で商売をしている声が飛び交う。

「チヅレ。改めてコレからよろしくね。まだ右も左も分からない状態だけど。」

「わんわんっ!」

知らない土地、知らない世界に送り込まれ、1人でなくてよかった。チヅレが唯一の私の癒しである。

「街を物色する次いでにお店を探そう。取り敢えず宿屋と……。」

チヅレを持ち上げて再び微笑む。次はしっかりと周りを見て、轢かれない位置で。太陽がチヅレで隠れて光がチヅレから差し込んでいる様な風になっていた。チヅレを生き返らせる為に、誕生日会をする為に。

「……宿屋とお風呂、だね。」

「わんっ!」

……この世界で生き抜く為に。

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