さそりの標本 その中身

※さそりの標本を知らない方はぜひこれの一つ前からお読みください。




 先生に見せていただいた珍しいサソリの標本。開ける担当の子の周りに固まり見守る私たち小学生……。


 言われた通り、そーーーっと紙を広げると……



バタバタバタバタバタバタッ!



「「「「ギャーーーー!」」」」



 中身が!!! 中身が暴れだしたじゃないか!!!!

 サソリ生きてる!! 刺されちゃうよ!!



 逃げる小学生。それを見て先生してやったりの最上級の笑顔。皆もいったん離れて驚きながらも、キャーキャー言いながらそろり、そろり戻ってきます。



「ダメじゃないかー大事に扱わなきゃ」

とにやにやする先生。

 

 もう一度拾い上げ恐る恐る開くと、まだ「バタバタバタバタ!」と動きます。しかし、開き切ったその中身は……




 5円玉でした。




「せんせーひどーーい!」

「なんだよー! 本物じゃないのかよー」

といいつつもみんなでげらげら笑ったその正体。


 仕組みは簡単。5円玉の穴に輪ゴムが2本引っ掛けてあり、そのゴムは台紙の端に止められていました。

 そしてそのゴムで釣るされている5円玉をよーーーくねじって動かないよう、外側の物々しい紙でしっかりと包みます。


「そーっと開くように」というのも、一気に開けると5円玉が丸見えになっちゃうから、見えないうちにバタバタと回転して驚かせるように充分注意させたみたい。

 やられたーーと思いつつみんな面白がって5円玉をねじねじさせてもらっていました。



 そして、その話を誰かから聞いたんでしょう。そしてその子も嘘を伝えたのでしょう。

 隣のクラスの、果敢な小学生(女の子!)が3人ほど「見せてください」とうちの組にやってきました。

 もちろんみんな何も言いません。どんな反応するか楽しみだから。


 案の定、「「「キャーーーーッ!」」」といって放りました。周囲に笑われる3人。その子たちも正体を知って大笑い。




 その少し後のことです。

 学習塾で、ある子が

「ねえねえ、サソリの標本って知ってる?」

 と満面の笑みで話しかけてきました。おそらく私が来る前に先に引っかけられたであろう他の子供も数人にやにやと一緒に。残念ながら知っているので

「あー!知ってる」

 というとすかさず

「いっちゃだめだよ!」

とその子に口止めされました。言うもんですか。

 なので、後にくる子たちに他の子供たちとニタニタ一緒になって「これはすごい」「人生で一度は見ておいた方がいい」「二度と見られない」などと嘘の誘い文句を言い、キャーキャー言わせてました。


 そして、授業が終わって誰かが「先生に見せてあげなよ」と。先生は知りませんでした。

 すっかり信じた男の若い先生。みんながニタニタと見守る中そーーーーっと開けると……



「ウ゛ア゛ァーーーー!!」

と、すっごい声をあげて教室の後ろの方から前の方までダッシュ。目を丸くして何々!?と。

 大人がこんな驚き方をするなんて、小学生たちはもう楽しくて楽しくてげらげら笑いました。


 その子はその後、肩ぐりぐりの刑に処されていました。



 今回は本物の虫のお話ではありませんでしたが、こういうのも小学生って好きですよねーー。

 たとえミイラみたいのが出て来ても見たいって興味。ホントいい先生でした。

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