外伝 鉄塔の上の天使(2)
それから僕は「定期便」のためにその鉄塔に来るたびに彼女たちの元に寄るようになりました。
彼女名前は憶えています。遥翔 真紀、まるとまき、呼ばれていました。もっとも、名乗った名前は偽名でしょうが。
反国騎士団の団結小屋を開けると、大抵いつも彼女はそこで待っていて、「よく来たね。」と言って自分の到来を歓迎してくれました。「また来たね。」の時もあったと思います。
そこにいつもいるのいつも不定期にやってくる遠くの「本部」の人たちを除くと、遥翔さんが引き連れた数人の高校生たちでした。
親友の波芭、情報屋の舞浜さん、奈良原さん、そう呼ばれていた三人か、遥翔さんが、そこにいました。まだ子供だった僕は年上の彼らに勉強を教えてもらったり、あるいは彼らの戦いの手伝いとして何の資材かわからないものを動かすのを手伝っていました。
控えめに言って楽しかったと今でも思っています。それが、警察や公安や保安機関「きずな」の記録を読み漁る権利を手に入れて、何を意味しているのか、どんな恐ろしいことをしていたのかを発見しても、きっと変わらないと思っています。
ある日、メンバーのうち、遥翔さんだけが不在の小屋に何のための用途か分からない大量の瓶入りコーラがそこにありました。「飲んでいいよ、むしろ、空にしないと困る。」と言われるがまま僕はコーラ飲み放題を満喫していました。丁度、三本目を飲み干した時、突然波芭さんからこんな事を問われました。
「お前、アイツに恋してるのか。」
下品なげっぷを出しながら、自分で気づきもしなかった感情に悩んでいるうちに彼女は先回りしてその先を僕に伝えました。
「やめたほうがええ、」
その時の僕は手に持っていたコーラ瓶を本当に落としそうになりました。漫画では幾度となくそういうシーンは見ていましたが、まさか、本当にそういうことがあるとは思っていませんでした。
断絶、僕が感じたのは決して超えることの出来ない巨大な崖が目の前に突如現れた、そんな感じでした。向こう岸には天使がいるのに。僕はそこまで渡っていくことが出来ない。
「私らは伊達と酔狂で革命やってるのさ。これは、普通の人じゃ難しい。上手く立ち回れない限り、押しつぶされる。」舞浜さんがそういいました。
「反政府に恋するってのは大変だぞ。どっかに止まって、幸せわん手にするなんて不可能さ。」奈良原さんも補足します
「そう、遥翔や私たちは「こっち」の住人。「普通」の世界のあんた達とは……。」
波芭と舞浜さんはそういって僕を憐れむような視線を浴びせてきました。
「ボクは普通のほうやね。普通の世界でええ学校行って、ええ会社に勤めるがええ。」
答えは返しませんでした。答えないでいました。答えると、彼女らが、遥翔さんが、もっと遠くに行ってしまう様な気がしてならなかったのです。
あんな綺麗な羽根を広げた人は、きっと僕の知らない人生を知っている。その強い憧れに突き動かされていた自分を否定されたような気分になった僕は、あの夕日の中の生き生きとした彼女を思い出しながら黙ってコーラを飲み続けました。彼らも、察してか無言で僕の飲んだコーラの瓶を回収していきました。
それでも、僕は何度もその場所を訪れ、遥翔さんに会って話をしました。それでも、あこがれていた彼女と住む世界が違うという言葉は、僕に胸の中に刺さったままで、遥翔さんと顔を合わせるたびにこの時の傷が痛み出しました。願わくば、一日でも長く一緒に居たい、この傷が癒えるまで、闘いの日々を僕はそう思って過ごしていきました。
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