世界に咆える

死因:暇過ぎて死

第0話「メザメ」

そこには街があった。大きくはなかったが 繁栄していた街だった。

町の名はメルボ

とびかう人々の声、酒や料理の匂い、ところ狭しと並ぶ店の数々。

誰がみても活気に道溢れた良い街だったであろう。

しかし、今やそれらは消え去り代わりに、逃げ惑う人々の悲鳴、道に転がる死体が放つ死臭、焔に包まれ崩れていく店の数々。

そんな一つの地獄と称するような場所になってしまっていた。そしてそんな一つの地獄に立っている者がいた。

その瞳は他のなによりも禍々しい色をしながら、純粋過ぎるほどの美しい涙を流していた。

その背には光すら呑み込みそうな黒い翼を生やしていながら、激しくもか細く弱々しく見えた。

その腕は返り血によって赤黒く染まっていながら、一人の女性をまるで宝石を持つかのように優しく抱えていた。




これはこの世界の「罪」が生み出した物語。この世界に対して怒り、憎み、妬み、恐れながらもこの世界を愛そうとした愚かで偉大な者の物語。

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