第6話

「でさー、最低やと思わへん?」


 ああ、うん、と気のない返事をしながら、目はTwitterを追っていた。通知が2つも!と思ったら、お父さんのいいねと中身のないコメントだった。ふむどうしましょうかねえ、とニヤついて、牛の絵文字とあっかんべーの絵文字を送りつけた。


「もしもーし、聞いてるー?」


「Oh, What’s up?」


 何人やねん!と手近なクッションを投げつけられた。ごめんって、と言いながら、スマホを机に置き彼女に向き直る。今夜は友人と焼肉の後、二次会は私の下宿に移動して宅飲み中だ。あーあ怒らせちゃったじゃん、父よ、乙女の語らいを邪魔する者め!と思ったけど、そもそもTwitterを見始めたのは私だった。てへぺろ。


 ろれつの回っていない友人の話に相槌を打ちながら、梅酒ロックをちびちびと口に注いでいく。ちなみに、お相手は彼氏に浮気された挙句フラれた直後ということで、盛大にキテおります。酔うわ嘆くわ肩を殴るわ。無慈悲だね。普段はいい子なんだよ。本当だよ。


 私もそれなりに酔っているから、またTwitterにふらりと心を寄せて、スマホにこっそり触れる。今夜のお父さんは工場夜景を撮っていたようだ。素敵な写真だけど、夜の海沿いなんて風邪ひかないかねえ。娘は独り身の父がちょっと心配ですよ、一応。娘も殆ど帰ってこない訳だから、そろそろ恋をしてくれたっていいんですよ?と今度言ってみようかな。長期休暇で帰省したときとかに。こんな失恋話を聞きつつ考えることか?とも思うけど。


 夜はダメですねえ、思考がとりとめもなくなる。ネタでもぶっこみたいですよそろそろ。


「ところで、この猫可愛くない?」


「せやから話聞け!……かわい〜!」


 ちょうど今、いいねを押した猫動画を二人で見る。いつもこの人の猫に密かに癒やされているのだ。ボールとじゃれ合っている白い肌の猫に、彼女の目も釘付け、イチコロだ。


「なあなあ、動物でも飼ったら?実家暮らしだったらさ、OKでは?」


「あー!めっちゃアリ!動物は裏切らへん!えっ、親に相談してみよかなあ」


 良いことをしたと微笑んで、……ああお父さんに恋愛より猫を勧めようか、帰省の度にもふりたいし、と、さっきの返信にこの動画もぶら下げた。娘はしたたかなのだよ、ふふふ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る