第4話

 真っ暗な部屋、煌々と灯るスマホのバックライトだけが、僕を照らす。


 今夜もベッドで横になり、ネットの海を巡回している。青い鳥に誘われるようにして、何度も画面を上下にスクロールするうちに、文章が生まれて、投稿してしまった。


 また、知らないお方からリツイートを頂いてしまった。ありがたいな、とプロフィールを確認する。イラストを描く人みたいだ。かわいい絵だな、と頬が緩み、心臓もとくんと鳴って、また眠りから遠ざかったことを自覚する。


 どうせ今夜も、ほとんど眠れない。明日も、学校を休むだろう。もしくは、始業から遅れて高校に到着し、保健室でほとんどの時間を過ごすのだろう。同級生が嫌いだとか、勉強が嫌だという訳ではないけれど、どことなく、合わないまま、年月が過ぎようとしている。


 居場所を求めるかのように、気付いたらTwitterを始めていた。Twitter上では数十人しか繋がっていない。だけど、詩人だったり、物書きだったり、みな言葉を愛する方々だ。とても優しくて、繊細な生糸どうしみたいな絡み合いに、心癒される。


 どうせ夜に眺めるからと、Twitterは「夜間モード」にしている。普通の表示とは違い、黒い背景になっていて、電気を消した部屋にはちょうどいい。さっきはネットの海と言ったけれど、暗い夜空なのかもしれない。宇宙の合間で、言葉の星を拾って歩く旅人だ。


 ふっと、画面に仄暗い惑星の明かりが浮かんだ。いや違う、工場の夜景だ。真っ暗闇の世界に、青白い光が溢れている。ソリッドで、複雑で、力強い。安心感を覚えるのは、これが夜しか現れない光景だからか。あるいは、工業地帯という普通の人間の暮らしと隔絶された場所だからか。


 少し躊躇ったけれど、いいねのボタンに人差し指で触れる。このアカウントは言葉のことでしか基本的にいいねしないけれど、特例ということで、自分を赦そう。


 目を閉じてみる。夜の浜風が、体を冷やしていくようだ。煙の匂いが、流れてくるようだ。タービンの音が、聞こえてくるようだ。


 久々に、生身の世界の感触を、心が楽しんでいるようだ。


 変なの、と笑ってみた。無機質な夜景、無機質な液晶。感じ取った生身の世界はただの妄想だ。だけど、これも指先の繋がりのある種の発露なのかもしれない。布団に潜って、声を殺して、一人きりで、くつくつと笑い続けている。


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