第6話正義の報復
さて、手記の完成も近づいてきた。ここでは私が味わった人生のどん底と、私の人生の中で最も大きな復讐劇の事を書こうと思う。おそらく壮大な話故、書き上げるのにかなりの時間がかかることだろう。それでもこの手記を私は完成させなければならない・・・。
私が三十代後半の頃の話、私はやりたい研究ができて人生に満足していた。そしてついに私の研究が発表され、世間から注目されるようになった。しかも当時大手銀行の「大黒寺金融」がスポンサーになり、心置きなく研究を続けることができた。しかし、ここから私は人生の下り坂を下りることになった。私の研究が発表されて一年後の事、わたしが研究に夢中になっていると助手が私を呼んだ。
「天野教授、大黒寺金融の方がお見えです。」
「ああ、すぐ行く。」
私は白衣を脱いでゴーグルを外し、きちんとした服装で応接室へ向かった。応接室では大黒寺金融から来た二人の男性がいた。
「こんにちは、それで今日は一体どういう話ですか?」
「実は大変申し上げにくいのですが、スポンサー契約を解約させていただきたく参りました。」
男性の一人が言った。私はショックで五秒間、言葉が出なかった。
「一体どういうことですか?まだ契約の期間はあるというのに・・・。」
「実はG大学とのスポンサー契約が決まりまして、それに伴い申し訳ないのですが支出削減のためあなた方との契約を、急きょ解約することが決定になりました。」
G大学は私との大学とはライバル関係で、お互いに切磋琢磨しあい成果を上げてきた。
「それではG大学の方が、私の所よりも画期的だというのですか?」
私はむきになって言った。
「いいえ、大黒寺金融ではもう何百もの会社・企業・大学などの支援をしています。しかしこちらとしてはそれによる出費を抑えるのと、本社の精神に則り契約を打ち切らせていただきたいと思います。」
どうやら不景気による保守的な行動のようだ。その後の話し合いで、一週間後に契約終了という事になった。
「なんてことだ、これから研究を続けていけるのだろうか?」
私は重い足取りで、研究室へ行った。研究室に入ると助手が訪ねてきた。
「教授、一体大黒寺金融とどんな話をしていたのですか?」
「実は大黒寺金融が、スポンサー契約の打ち切りを要求してきた。」
助手は絶句した。
「そんな・・・、もうすぐ実用化される時も近いというのに・・・。」
「契約終了日は一週間後だ、それまでに進めなければならない。こうなったら、最後まで研究あるのみだ。」
私は好きなことを諦めたくない気持ちから、その考えに至った。でも本心は、やり足りない気持ちでいっぱいだった。その日の七時半に家に帰った、家では波が夕食を作っていた。
「六蔵君、今日は早いわね。なにかあったの?」
「ああ、でも今はご飯が食べたい。」
「今日はエビフライよ、楽しみにしててね!」
波は結婚してから十年以上もたつのに、いつも明るく振る舞う。
「そういえば、鉄幹はどうした?」
「二階に居るわ。もう最近はご飯の時以外、顔を合わせなくなってしまったの。」
鉄幹はもう中学二年生、私もその頃は家の中で一人だった、だからとやかくは言わないことにしている。そして夕食の時間になり、波は鉄幹を呼びに行き私は一足早く食事をとった。
「はあ、この時のご飯は少し味がおちるなあ・・・。」
「父さん、何言ってるの?」
急に鉄幹から声をかけられた。
「実はちょっと・・・、残念なことがあった。」
「ふーん、父さんも大変だね。」
鉄幹は私の向かいの椅子に座った。やはりこの年頃になると、自分の両親についての関心は皆無になるようだ。
「ねえねえ、学校でなにかあったの?」
「別に。」
鉄幹は素っ気なく言った。
「最近、私に声もかけないじゃない。本当は悩みとかあるんじゃないの?」
波は同級生のように話しかけるも、鉄幹はうっとうしい顔で波から視線をそらす。最近はいつもこう、お互いに見慣れてしまい空気のようになってしまう。鉄幹は一番早く食事を終え、「ご馳走様。」というと足早に食器を台所に置いて、二階へと行ってしまった。
「なんで話してくれないの・・・?ちょっと前まで、いろいろ話していたのに・・。」
落ち込む波を見て、私は悩みを話すことにした。
「あのさあ、実は波に話したいことがあるんだ。」
「珍しいね、何なの?」
「実は研究の事で困ったことになった、今まで資金援助をしていた大黒寺金融が突然、一週間後に援助を打ち切ると言ったんだ。」
「えっ!どうしてなの?」
「ライバルのG大学とのスポンサー契約を結んだことで、大黒寺金融が支出を抑えようとしているらしい。最近は不景気というし、仕方ないなあとおもっているけど・・・?」
「それはどうかな?なにか裏があるかもしれないぜ。」
彼が現れて言った。
「うーん、君の言いたいことはわかるよ。でもG大学とは友好関係だし絶対とは言えないけど、そんなことは無いと思う。」
「どうかな、人間の心は世界みたいなものだ。わからないことだらけだぞ。」
私は彼の言葉にも一理あると考え、明日G大学の知り合いに尋ねる事にした。
そして翌日、大学へ向かおうと歩いていると、例のG大学の知り合い・樫幸太郎に会った。
「やあ、六蔵君。奇遇だね、こんな時間に会うなんて。」
「ああそうだね、実は君に話したいことがあるんだ。」
「いいよ、歩きながら話そう。」
私と樫は二人並んで歩き出した。
「それで話というのは、何?」
「実はね、私の研究が頓挫してしまうかもしれないんだ。昨日大黒寺金融が大学に来て、近いうちに契約を打ち切りきりにすると言ったんだ。それで大黒寺金融からの話を聞いていると、G大学の事が出てきたんだ。おそらくG大学は私のとこよりも、実用的な研究をしているに違いない。だからどんな研究をしているのか、教えてくれ。」
すると樫は目を輝かせる私の顔から、視線をそらして言った。
「ごめん、この研究は絶対秘密だと理事長から言われているんだ。申し訳ないけど、教えられないんだ。」
「そうか・・・、なら仕方ない。」
その後私と樫は雑談しながら歩き、私の大学の門の前で樫と別れた。すると彼が現れた。
「あの樫という男、本当は何か隠しているんじゃないか?」
「うーん、確かに私から視線をそらしてしたし、何かあると思うな。」
「とにかく、今後あの男には注目だな。」
私は樫の挙動に疑問を抱きながら、大学の中へと入った。私はこの時、自分の身に降りかかった不幸を呪うつもりは無かった。ただ、前を向くことに精神を集中させていた。
それから二日後、珍しく私に手紙が届いた。しかも差出人は、樫幸太郎だ。
「樫から手紙が来た。」
「ほう、手紙とは・・・・これは口では言えぬことが、書かれているかもしれん。」
私は封筒の封を切って、手紙を読んだ。
天野六蔵様、実はG大学のスポンサー契約については裏の取引がありました。私はその取引について知っているのですが、話したら強制的に大学から追い出されてしまう為、この手紙で伝えることにしました。
私の大学に大黒寺金融が来たのはもう十日前のこと、私はその場に立ち会いスポンサー契約の話をするのかと思いました。しかし大黒寺金融は『この大学のライバル大
学と結んだ契約を解約するために、一つ手を貸してほしい。』と言ってきました。それは私の大学に七百五十万円を無償であげる代わりに、解約する理由のために大学の名義を貸してほしいというものでした。私は反対しましたが、理事長が「ここで約束をしないと、君の研究チームを解散させる」と脅され、やむなく取引を成立させてしまいました。
私はあなたから大黒寺金融の事を聞かれたとき、自分の立場を守ることに必死になり事実を隠してしまいました。あの後私は罪悪感で胸がいっぱいになり、悩み苦しんだ結果、事実をこの手紙であなたに伝えることで、多少罪滅ぼしになるのではないかという答えになりました。もう私はあなたの前に現れる資格はありません、どうか最後まで研究が続けられることを、心から祈っています。
樫幸太郎
私は手紙を読んで愕然とした、まさか大黒寺金融がこんなことをしていたとは・・・。
「やはりな、俺は最初から何かあると思っていたんだ。」
「樫君、君の気持ち受け取った。こうなったら、大黒寺金融を訴えてやる。」
「それはいいけど、今はよくないよ。」
彼は私の怒りに、水を差すことを言った。
「どうして?」
「奴らの事だ、訴えたら悪評をさらすかでたらめを流すか面倒なことをするかもしれない。動くのは、あんたの研究が終了してからだ。」
私は大黒寺金融への怒りを抑え、樫からの手紙を捨てずに私の部屋の机の引き出しにしまった。
そしてとうとう大黒寺金融とのスポンサー契約終了の日が来た。私はそれでもいつもと変わららず、研究に時を費やしていた。
「天野教授、辛くはありませんか?」
助手が声をかけた。
「私だってつらいさ、でも人生は基本前にしか進めないからね。」
「そうですね、研究費も私達で補い合いましょう。僅かですが続けられると思います。」
私は再び顕微鏡に目を通した。それからしばらく時が経った頃、私は大学の理事長に呼び出された。私が理事長室に入ると理事長の鬼山が、重苦しい顔をしていた。
「鬼山理事長、一体何の話ですか?」
「天野教授、申し訳ないが会議の結果、研究チームを一時解散することにした。」
私は当然の結果と覚悟していたが、突きつけられるとやはりつらさが身に刺さる。
「そうですか・・・・、わかりました。」
「私も君の研究を助けたいとは思う、しかし今後の予算を考えるとバックアップがなければ不可能だ。しばらくは大学を休むことになるだろう、研究生たちに伝えておいてくれないか?」
「わかりました、そう伝えておきます。」
「約束しよう、もし採算の目途が立ったらまた、チームを再結成させて研究をつづけさせてやろう。それまで待っててくれ。」
鬼山の仏頂面が、悔しさを引き立たせる。鬼山は私が大学に来た時から、私の才能を見出して支援してくれた。だから研究チームの解散は、鬼山にとって苦渋の決断だったに違いない。私は研究室に戻り、鬼山理事長からの話をみんなに伝えた。
「そんな、どうしてもチームを解散させなければならないのですか!」
いきりたって理事長室へ向かう助手を、私は抱きしめた。
「つらいのはわかる、だがそのつらさに訴えても事態は変わらないままだ。だからここは希望を信じて待とう、君たちは私の仲間でありよき理解者だ。今まで協力してくれて、本当にありがとう。」
最後の言葉の所で私は泣いた、助手も私の腕の中で泣いた。その日は気分を癒すために、早々にチーム全員を家に帰し、私も家へ帰ることにした。
「カッコイイことを言うぜ、自分だって辛いのに・・・。」
「でもこれで大黒寺金融を、訴えられる。」
「ふーん、もし我の力が必要なら貸してもいいぜ。その代わり、見返りはしっかりもらうからな。」
「わかった、もし私の我慢が限界にきたら君の力を借りよう。」
私は決意を固めて、家路に着いた。家に入ると鉄幹が家に帰ってきた。
「鉄幹、今日は早かったんだ。」
「父さん・・・。うん、今日はね早退してきたんだ。」
「えっ!お前熱でもあるのか?」
「違うよ・・・。」
鉄幹はまるで悲しそうだった、私はこの機会に鉄幹と話すことにした。
「なあ、最近波から聞いたけど何か悩みがあるのか?じゃあ、あるかどうかをおそえてくれ。」
鉄幹は頷いた、やはり悩みがあったのだ。
「実は俺、いじめられているんだ。国枝勇人とその弟の悠馬にね、もちろん俺だけじゃなくみんなやられている。」
「その兄弟はホントに酷いのか?」
「酷いというものじゃないよ!あの兄弟は学校を自分たちの城だと思っているんだ。授業には参加しないくせに、生徒先生を問わずに威張り散らしている。しかも暴力行為は日常茶飯事、僕なんか悠馬に目をつけられて弁当を毎日取られているんだ。」
最近鉄幹は夕食を多めに食べていると思っていたが、そんな理由があったとは思わなかった。
「それは酷すぎる!先生の中にガツンと言える先生はいないのか?」
「いないよ・・・、校長も国枝の親父には頭が上がらないんだ。国枝の親父はあの大黒寺金融の社長なんだ。学校行事の時には費用を支援してもらっているから、あの兄弟が調子に乗れるんだ。」
鉄幹は怒りを込めて言った、大黒寺金融はこの地域の経済的支援に全力を注いできたので、地域の住人から有難く思われている。でもだからといって、それをかさに威張るのは間違っている。
「実は私も大黒寺金融に痛い目にあった、私は今まで大黒寺金融の支援のおかげで研究を続けてきた。でも大黒寺金融は私の研究に可能性を感じなくなったのか、G大学の名義を利用して支援を打ち切ろうとした。そして今日が支援終了の日だ・・。チームは一時解散され、しばらくは大学における席が無くなった。」
「そんな・・・、じゃあ父さんは無職ということじゃないか!」
「ああ、これから再就職するつもりだ。でも私は負けない、私は大黒寺金融の不正を訴えるつもりだ。」
「父さん、大黒寺金融と戦うんの?」
「実はG大学の知り合いから、不正の内容が書かれた手紙をもらったんだ。だから私は大黒寺金融に、私の研究の支援を再開させてもらう。」
私の思いに、鉄幹は一目惚れしたかのような顔をした。
「父さん、俺応援するよ!だから負けないで、頑張って。」
「ありがとう、鉄幹。」
すると玄関から波のただならぬ声がした。
「誰か救急箱を持ってきて!」
「母さん!」
「どうしたんだ、波!」
玄関で波は息を切らしながら、鉄幹と同い年の少年に肩を貸していた。その少年は右足を怪我していた。
「あっ、君は・・・。」
「鉄幹、知り合いなの?なら、早く救急箱を!」
鉄幹は言葉を返さず、リビングから木製の救急箱を持ってきた。波は救急箱を受け取ると、少年の怪我しているところを消毒し、器用に包帯を巻いて処置した。私は鉄幹の言いたかった事について尋ねた。
「鉄幹、あの少年知ってるの?」
「ああ、あいつが国枝悠馬だよ。どうして家に来たんだろう・・・。」
「ほう、仇の息子か・・・。こいつは使えるかもしれんな。」
彼がニヤニヤしながら現れた。
「うわあーっ!」
「ちょっと、こっちへ!」
私は鉄幹と彼を連れてリビングから出た。
「父さん、悪魔だよ!逃げないと!?」
「大丈夫、この悪魔は私の従者だ。」
私は鉄幹に、彼との出会いについて話した。
「じゃあ父さんが子供の頃から、ずっといたんだ。」
「そうだ、お前にもいずれ正体を明かすつもりだったがな。」
「それにしても、どうして急に出てきたんだ?」
「それはだな、あの仇の息子を人質にして大黒寺金融に、再契約しろと脅せばいいだろと思ってな。」
「それじゃあ、後がやばくなる!私が大学から追い出されてもおかしくない。」
私が彼にキッパリと言った。すると波が鉄幹に、「あの少年が君と話したいと言ってるから、話してあげて。」と言った。鉄幹は不満ながらも、波に従った。悠馬は鉄幹に、いつもより控えめな声で言った。
「君の母にたすけてもらった、ありがとう。」
「ふーん、学校だと威張っているのに人の家の中だとおとなしくなるとは・・・、猫を被るとはこのことだね。」
「君に何を言われてもいいさ、でも兄貴には怒られるだろうな・・・。」
「勇人のことか?」
「そうだよ、『いらない借りをつくりやがって!』てね・・・。でもこれでいいんだ、これから一人でいればいいから。」
「ちょっといいかな?」
私が二人の席に入ってきた。
「父さん、急にどうしたの?」
「鉄幹をいじめていたことは許されないけど、君は人をいじめることを本当は避けたかった、というより嫌だったんじゃないか?」
「・・・・うん、そうだよ。でも兄貴には逆らえなかった。学校にいる間、僕は兄貴の子分で正直今までの素行も、強制的にやらされたんだ。」
「つまり本当は悪くないというのかよ・・・、気持ちはわかるけど君は実行犯なんだぞ!」
鉄幹が叫んだ時、私は鉄幹の頬をビンタした。
「父さん・・・、どうして?」
「自分が非を受けたからって、相手を一方的な見方で責めるな。まず相手の全てを聞いて、考えを決めるんだ。」
「わかったよ。それで悠馬は、兄貴に反発したりとかはしなかったの?」
「少しだけしたことがあるけど、すぐに言い負かされ殴られてしまうんだ。それに正式には勇人とは義理の兄弟なんだ、だから立場的に弱くて、家の中では端っこに置かれているようなものさ。」
「どういうことなの?」
鉄幹が聞いた。
「僕と血がつながっているのは母の方なんだ、僕の本当の父はアルコール依存症になってしまい、ある日急性アルコール中毒で呆気なく死んだ。母は当時クラブで働いていたんだけど、その時に客として来ていた今の父と恋仲になって再婚した。勇人は今の父の妹の息子で、両親とも事故で死んだのをきっかけに今の父の養子になった。母は今の父の財力の虜になって、本当の子である僕の事なんかちっとも愛してくれない。だから生きていくには言うことを聞くしかなかった。」
悠馬は悲しそうな顔で言った。私と鉄幹は悠馬の過去を知ったことで、気が重くなり恨みの気持ちが失せてしまった。
「君も大変だったんだな、今まで酷い目にあってきたからただの不良だとおもっていたよ。」
「そう思ってもいいよ、みんなをいじめてたことで僕も気を晴らそうとしていたんだ。だから僕は本当に最低さ・・・。」
「もし君が反省しているのなら、今からでもやり直せるさ。ここで鉄幹と友達になって、二度といじめはしないと誓えるかな?」
「父さん・・・・、恥ずかしいけど本気で反省するなら、父さんの言う通りにしたほうがいい。」
「わかった、鉄幹。お互いに過去の事は水に流そう。」
「ああ、これからよろしく。」
鉄幹と悠馬は握手した、私は友情の芽生えに笑みを浮かべた。
「あーあ、お前が余計なことするから復讐する機会が無くなってしまったじゃないか。」
彼が現れた。
「これでいいんだ、私はもう一度大学で研究ができることになれば、復讐を果たしたことになる。」
「ふーん、安い奴だな。」
彼はそう言って消えた。その後悠馬は自宅に連絡をして、午後七時半に迎えに来ることになった。その日はいつもより早い夕食にすることにした、メニューは五目御飯と味噌汁と唐揚げ。悠馬は涙をこぼしながら夕食を食べた、聞けば家では母がお盆に料理を乗せ悠馬の部屋まで運び、悠馬がその部屋で食べるという、いわゆる孤食が日常茶飯事だったようだ。そして定刻どおりに悠馬を迎えに母親と勇人が来た。
「母の国枝真昼です、この度は悠馬が御世話になりました。」
「気にしないでください、とてもいい子でしたよ。」
「それではこれで失礼します、皆さん今日は本当にありがとうございました。」
悠馬が天野家一同に最敬礼して靴を履こうと身を低くしたとき、勇人が突然悠馬の首元を殴った。
「何するんですか、人前で!」
真昼が注意したが、勇人は悠馬を見下ろすように言った。
「悠馬、お前が凄く恥ずかしい事をしたという自覚はあるのか?」
「・・はい、でもこれからはこのようなことが無いようにします。」
勇人は鉄幹を睨むと
「今日は弟が世話になったようだが、これをかさに大きな顔をするんじゃないぞ。」
と捨て台詞を吐いて車へと行ってしまった。真昼は二度・三度頭を下げると、悠馬を連れて行った。
「悠馬の兄さん、どうなっているの?助けてもらったことが、どうして恥ずかしい事なのかしら?」
「借りを作ってしまったんだよ、これで僕はあまりいじめられなくなるとおもうけどね。」
「おお、これは!」
彼が何かを感じたようだ。
「どうしたの?」
「近い、復讐の時が近いぞ!お前も我も万々歳だ。」
彼は一人で万歳をした。それを私と鉄幹と波は、不気味なものを見た顔で眺めていた。
翌日私はハローワークへ行って、なんとか仕事を見つけた。そこは大曾根にある印刷業の小さな会社で、私は経理担当になった。当然収入は大学の教授時代よりも大幅に安くなってしまったが、無職でいるよりはましだ。ハローワークから帰ってくるとあり得ないことに、鉄幹が学校から帰ってきていた。
「あれ、鉄幹。今日はやけに早いじゃないか、一体何があったんだ?」
「実は昨日から教頭先生が行方不明になったんだ、今学校に警察が来ているから特別に生徒は、早退という事になったんだ。」
「本当か!それでどうして、教頭先生が行方不明になったんだ。」
「同行していた先生から聞いた話なんだけどね、教頭先生は主張先へ向かう途中でトイレに行きたくなって、コンビニに寄ったんだけどそれっきり戻ってこなかったそうだよ。」
「うーん、かなり怪しいなあ?」
「だろ、僕もそう思うんだ。どう考えても逃げ出すために、車を停めさせたかったとしか思えない。」
「だとしたら、どうして逃げ出したかったんだろう?」
私と鉄幹が首をひねっていると、彼が現れた。
「ふふふ、復讐へのカギが一つ開かれたな。」
「復讐へのカギ・・・、もしかして大黒寺金融が絡んでいるのか?」
「どうだかな・・・。それよりも、大黒寺金融に復讐する気があるのか?」
「もちろんさ、ただ私は後が面倒になることと復讐の標的以外の人が傷つかぬように、したいだけさ。」
彼は相変わらずだなという顔をして、消えた。その後鉄幹は友達と遊びに行き、入れ違いに波が帰ってきた。この日波は父の徹の様子を見に、老人ホームに行ったのだった。
「お帰り、徹さん元気だった?」
「実はね、そのことで話があるの。お願い、あなた。」
徹さんの事については、波との縁結びで御世話になっていたので断れなかった。
「いいよ。」
「ありがとう。たこ焼きを買ってきたから、食べながら話しましょ。」
私はお茶を入れて、波が皿にたこ焼きを並べた。
「それで徹さんが、どうしたの?」
「実はね父さんの居る老人ホームが、今凄く危ないことになっているの。」
「どんなふうに危ないの?」
「潰れるかもしれない。」
「それはまずいな・・・。」
「去年、老人専門のアパートが近くにできた頃から老人ホームの入籍者が減っているけど、父さんによると潰れそうなのは大黒寺金融が絡んでいるからなの。」
「本当か!?それは確かなのか?」
「何言ってるの?私の父さんは、元記者よ。」
「ああ、そうだった。」
前に波から聞いた話だが、徹は元々新聞社の記者として働いていたがこの時から五年前に新聞社を定年退職した。徹は定年後も記者として活動していたが、定年退職から二年後取材中に交通事故にあい、不運にも両足が不自由になってしまった。それから車椅子生活になり、家よりも設備が整っている老人ホームに入ることになった。
「それで大黒寺金融がどう絡んでいるんだ?」
「実は父さんの知り合いが大黒寺金融から借金してしまったの。大黒寺金融は老人ホームを潰して支店を建てようと企んでるんだけど、大黒寺金融の罠にはまってしまったようなの。」
「なるほど、入籍者に借金をさせてその保証人をその老人ホームの管理人にでもすれば、老人ホームを手に入れられるな・・・。」
「だからお願いなの、あなたの悪魔の力で大黒寺金融を不幸にして!」
その言葉が出るとは思わなかった。私は考えた、理由は違えど復讐心は一緒だから手を組んだ方がいいと思う。それに、徹はとても頼りがいがある。
「わかった。五日後仕事がやすみだから、その日に行くことにするよ。」
「やったー、ありがとう!絶対に父さんの老人ホームを守ってあげるわ。」
波は意気込むと、皿のたこ焼きを一気に食べた。
「ふーっ、満腹。」
波はそう言うとソファーの上で、ライオンのように寝転がりお腹をさすった。これは昔からの癖である。
「それはそうと、お前に聞いていなかったことがあった。樫からもらった手紙、いつ使う?」
彼が現れた。
「あれは大黒寺金融からすれば爆弾だ、頃合いになったら使う。」
「それから我の不幸をどうやって、大黒寺金融に送る?」
「僕が大黒寺金融で預金口座を作るから、そこに入れるお金に不幸の暗示をかけてよ。」
彼は頷いて、消えた。
そして五日後、私は波の案内で老人ホームに行った。そして待合室で五分ほど待っていると、介護福祉士の若い女性に車椅子を押してもらいながら徹が現れた。徹とはもう二年ぶりである。
「久しぶりだね、六蔵君。」
「はい、お父様もお変わりないようで。」
「ずっとここに居るからなあ・・・。あの時もし事後に遭わなければ、退屈せずにすんだというのに。」
「父さん、実は六蔵くんも大黒寺金融に酷い目にあったの。」
「ほう、その話聞かせてくれないか?」
徹の顔が、記者の顔になった。
「いいですよ。」
私は徹に、大黒寺金融のせいで研究が続けられなくなった事を話した。
「そうか・・・、それは残念なことだ。」
徹は事故で仕事を辞めた自分と、私の話に同じ境遇を見出したようだ。
「それで実は大黒寺金融の悪事について、樫幸太郎という知り合いから手紙で知りました。」
「なるほど、確かにそれは大黒寺金融にとって喉元のナイフだ。これならいけるぞ!」
「所でこの老人ホームが大黒寺金融によって潰されそうだという話を聞きました、その詳しい話を教えて下さい。」
「わかった、あれは去年の秋頃だったかな・・・。」
徹は次のような話をした。
徹と同じ頃に入った人に、秋山太郎という男がいた。秋山はお金持ちだったが、実家での居場所を失い嫌気がさしたのでなんと自ら、この老人ホームに入籍した。入籍した当時は金に余裕があったのか、職員に内緒で老人ホームを抜け出してはパチンコや競馬に、明け暮れていた。しかし所持金が無くなると、流石にパチンコと競馬は止めた。そんな秋山の事を知った大黒寺金融は、なんと秋山に好条件で十万を貸した。その金を秋山はパチンコや競馬で倍にして返すと約束したが、そうは上手く行かず結局は大黒寺金融から借りてしまう。実はこれこそ大黒寺金融の罠、金を借りるときの契約時に保証人の印に老人ホームの管理人・樋田博の印を押させていた。これにより樋田は自身の承諾抜きに、借金の保証人にされた。秋山が金を借りれば借りる程、樋田の借金は膨らみ、気づいた時には千五百万になっていた。樋田にはそんな金は無く、勝手に印を使った大黒寺金融に怒りを感じ訴えようとしたが、結局は逆に評判を落とすぞと脅され何もできなかった。今現在は事態を知った秋山の息子が一千万払ってくれたので五百万になっているが、この金を全額返すにはやはり老人ホームとその土地を売るしかないという。
「なるほど、その五百万の返済の目途が立ってないという事だね。」
「樋田は秋山に自己破産を勧めたそうだけど、申請しようとしたら大黒寺金融に雇入れられたチンピラ風の男らに、老人ホームの入り口でやられたらしい。どうして自己破産しようとしたことがバレたのか、樋田と一緒に調べたらここの警備員を買収して、夜中に盗聴器を仕掛けさせていたらしい。今はその警備員はいないし、盗聴器も見つかったけど・・嫌がらせの重なりで多くの職員が辞めていってしまった。」
確かに施設の大きさ大きさにしては、どうも職員が少ないと思った。
「酷いな・・・・、それにしてもよくこれだけの情報を集めましたね。」
「昔からの癖でな、渡辺さんには苦労をかけてしまった。」
渡辺さんはいつも徹の車椅子を押している介護福祉士で、この老人ホームを残したいと思う同志のひとりである。
「大丈夫です、ここは本当に落ち着けるいい環境です。それを潰そうとする方が変ですよ。」
「確かにそうだ、未来のためにもここは残すべきだ。」
すると樋田が徹の所へ来た、樋田は深刻な顔をしている。
「徹さん・・・、もうだめかもしれません。」
「今更何を弱気になっている。大黒寺金融に借金を返して、訴えてやると言ったのはあなたじゃないですか?」
「その借金が・・・、倍になった!」
樋田は苦痛に耐えながら言った。
「そんな・・・、まさか大黒寺金融が無茶なことを!」
「違う、私の母が借りたんだ・・・。大黒寺金融から!」
「どうしてそうなったのですか?」
私は樋田に聞いた。
「母がネットショップでショルダーバッグを買ったんだけど、届いたら頼んだものと違うという事で返品しようとしたんだ。もちろん返品できるという事は私も確認してはいたけど、そうしたら返品処理に五万円必要と言われて渋々払った。その後も母がネットショップをするたびに返品が行われたので、私はもうネットショップは止めてくれと母に強く言った。母は反省して止めてくれたけど・・・、今日母から電話があって『ネットショップの営業担当の人が来て、私の口座に五百万を振り込んでみませんかと勧めたの。私はつい契約書にサインをしまったけれど、連帯保証人の名前が私だったという事に気づいて知らせた。借入先の名前を尋ねたら、大黒寺金融だったそうだ・・・。』と言った。一千万なんて、もう払えないよ・・・。」
樋田は諦めを受け入れきれずに落ち込んでいる、私は大黒寺金融のやり方に腹が立った。
「これはネットショップのオーナーと大黒寺金融がグルでなければ考えられない。」
「そうだとも、私はこのネットショップについて調べようと思う。だから希望を捨てるな。」
徹は車椅子よりも低く頭を下げる樋田を慰めた。そして私は家に帰る前に、例の作戦を決行することにした。
「こんなにも早く君の力を借りることになるとは、思わなかった。」
「そういうな、こちらは何時でもいいぜ。」
私は近くにある大黒寺金融の支店に向かった。駐車場に車を停めると、車を降りて支店の中へ入ろうと歩く私に、波が尋ねた。
「大黒寺金融の支店なんかに行ってどうするの?」
「私はこれから大黒寺金融全体を呪う、そのための準備だ。」
「大黒寺金融全体を・・・、どうやって?」
私は波に作戦を伝えた。
「何だか変わってるわね、でも面白いわ。」
「さあ、行くぞ。」
私は平然と支店に入ると、受付の人に預金口座の新規作成を申し出た。受付の指示に従い、意外に早く私は通帳を手に入れた。
「これでよし、さあ次は君の出番だ。」
そう言った私は、財布から五千円を取り出した。
「では行くぞ!」
彼は呪文を唱えた、すると私からどす黒い何かか出て持っていた五千円に、しみ込んでいった。
「これでこの五千円札には、お前の呪いがしみ込んだ。後はこれを預金口座に入れるだけだ。」
ところが私にとってこれが人生初の、ATMの操作だった。ぎこちない私を波が助けてくれたので、なんとか呪われた五千円を預金口座に入れることができた。
「これで成功だ、後は何度か一連の動作を繰り返せばいい。」
「でももし大黒寺金融が呪われて潰れたなんてことになったら、あなたのお金は無くなるかも・・・。」
「気にするな、復讐のための対価を払ったと思えばいい。」
達成感に笑みを浮かべた私は、波と車に乗って家に向かった。
それから翌日の朝、私が新聞を取りに行くと封筒が入っていた。切手が貼っていなかったので、おそらく夜中に何者かが入れたものに違いない。
「しかし、私に手紙とは・・・。」
私が手紙を見ると、短くこう書かれていた。
あの手紙をG大学まで持ってきて渡せ、渡さないと家族が不幸になる。
これでは手紙というより速達である。だが手紙と一緒に同封されていた、一枚の写真を見て私は、愕然とした。
「そんな・・・、まさか樫がやられるなんて。」
そこにはリンチされ全身がボコボコになっている樫の姿があった。しかも、胸には大き目のナイフが刺さっていた。私が重い足取りで家に入ると、波が声をかけた。
「ねえ、その写真何?私にも見せて。」
私は「これはあまり人に見せるものじゃない。」と言って二階へ上がった。
「どうやら連中が、目の上のこぶに気が付いたようだな。」
彼が現れた。
「ああ、こうなったら樫のためにも大黒寺金融に勝つ!」
私は大黒寺金融への闘志に燃えた。そして私は新しい職場である、印刷会社に来た。
「おはようございます。」
「おはよう、今日も張り切っていくわよ。」
印刷会社の社長・穂見が言った。この会社は企業の広告の印刷を主な仕事になっている。穂見は面倒見がよいおばさんで、お得意の企業がたくさんあった。お昼直前のこと、印刷会社にスーツ姿で三人の男性が入ってきた。穂見が自ら対応して、話し合うことになった。私はこの時精算していたのだが、やがて三人の男性と穂見との会話の声が大きくなって、気が付いたときは怒声になっていた。そして三人の男性は機嫌悪くなってドスドスと歩くと、出入り口の前で「覚えてろ!」と捨て台詞を言って去った。穂見も機嫌が悪く、自分の机に肘を着きながら黙っていた。昼食を食べている時も怒った顔をしていたので、私は穂見に尋ねた。
「あの、三人となにかあったのですか?」
「あら、わかっちゃった?」
「ずっと、機嫌がふてぶてしくて変でした。」
「実はね、印刷代を安くしろともうしつこく言われてもう頭に来てたの。こちらも仕事ですから無理に安くできないというと、「俺たちは大黒寺金融で働いているんだ、お前たちの給料を誰が預かっているというんだ?この辺りの企業は、大黒寺金融に大きな顔はできないんだぞ!」と言ってさあ、もう「はあ、それがどうした?」って言ったら三人の中で背の高い奴が私の胸ぐらつかんで、「そんなこと言うと、お前の預金口座今すぐ凍結させるぞ!」と言ったんだ。それからはもうなにを言ったのか分からない程もめたわ・・・。」
「あなたも、大黒寺金融に口座をもっているのですか?」
「仕事で持っているわ、でも変えようかしら?」
穂見の機嫌はすっかり落ち着き、職場に緊張感が無くなった。
その後家に帰ってくると、鉄幹から驚きの情報を聞くことができた。
「実は悠馬君から聞いた話なんだけど、あの教頭先生が大黒寺金融から内緒で金を借りていたらしいんだ。」
「本当か!どうして、金を借りたんだ?」
「実は教頭先生、趣味が競馬で負けが続いて酷い金欠になった時に、大黒寺金融から勧められていたんだって。」
「何をやっているんだか・・・、それで大黒寺金融から借金を重ねてしまい返しきれなくなって、逃げ出すことを決意したという事か。」
「ちなみに行方不明になった日、教頭に大きな用事は無かったそうだよ。」
「やはりそうか・・・。それで、教頭先生は見つかったのか?」
「まだ、警察も大黒寺金融も捜してるけどね。」
「えっ、大黒寺金融も?」
「大黒寺金融もこのことがバレたらヤバいからね、悠馬君によると義父が探偵を雇って探させてるらしいよ。」
私は大黒寺金融を呪った方法を鉄幹に聞かせた。
「呪われた金を預金させるなんて凄いね。でも、それだと呪うごとに金がかかるよ。」
「いいんだ、復讐のためなら全財産投げ出してやる。」
私はもうこの方法を信じて、大黒寺金融を追い詰めるしかないと思った。
それから二日後、私は思わぬ人と出会った。その日は仕事帰りに波から「今日は親戚のお通夜でかなり遅くなるから、家に着いたら鉄幹と二人で外食してきて。」といわれたので、家に帰ると食費を預かった鉄幹を連れて「ラーメン道Dチーム」というラーメン店に行った。変わった名前でラーメンのみしかメニューが無く、近所では有名だ。
「すいません、味噌ラーメンお願いします!」
「僕は豚骨ラーメン!」
「アイアイさー!」
店長のこの了解のときの喋り癖は、店長が自衛隊員のころからの産物である。カウンター席でラーメンが出来上がるのを待っていると、とあるフードを着た男が店員に文句を言っていた。
「すいません、この店はラーメン一筋なもので・・・。」
「なんだよ!チェーン店でも個人営業でも、ギョーザやチャーハンぐらいでるぞ!お前たちは、ラーメンしか客に出せないというのかよ!」
どうやらサイドメニューが全く無いことが不満のようだ、私やお得意のお客さんは「どっか行けよ。」という顔で男を見ている。しかし鉄幹だけはなぜか、男の方をじっと見ている。
「鉄幹、なにか気になるのか?」
「うん、どこかで聞いたことのあるこえなんだよな・・・?」
しかし男はなおも店員にくってかかる、ついに我慢しきれずに店長が動いた。
「大変申し訳ありませんが、「ラーメンしか出さない。」というのがこの店のモットーです。もしこれに理解不能というのであれば、他のお客様の迷惑になりますの出ていってください。お代も払わなくて構いません。」
「なんだとーっ!来てやっているお客を追い出すなんて、あんたはそれでも人間か?」
男のなんという傲慢なセリフ、だがそれと同時にフードが頭が取れてハゲ頭が店内に晒された。それを見た鉄幹が、大声で言った。
「あーっ、教頭先生だ!」
「えっ、本当か!?」
男はハッとしてフードを被りなおすと、慌てて店から飛び出した。それを鉄幹が追いかける、私はさらにそれを追う。
「俺に任せろ、あいつを捕まえられればいいんだな?」
彼は現れると、男に暗示をかけた。すると男は何もない道で、自然に転んでしまった。
「教頭先生、大丈夫ですか?」
「やめてくれ。借金の返済なら私の全財産をあげるから、もう関わらずにほっといてくれ!」
「あのー、私は取り立て屋じゃありませんよ。私は天野六蔵、こっちが息子の鉄幹です。」
「えっ?てことは、私の学校の生徒と父兄の方でしたか。なんだ、よかった・・。」
「よかったじゃないですよ!急にいなくなって学校に迷惑をかけるし、ラーメン店の店員に失礼な事を言うなんて・・・。」
鉄幹が大人びた事を言った。
「これは大変申し訳なかった、ご迷惑をかけたことについてお詫びさせてください。」
「別にあなたが謝ることはありません、ただ聞きたいことがありますので付き合っていただけませんか?」
「わかりました。」
教頭は立ち上がると私や鉄幹と一緒にラーメン店に戻った、そして店長に事情を説明すると教頭はカウンター席に座って、ラーメンをすすりだした。
「それであなたは競馬のために、大黒寺金融から借金したんですか?」
「ああ、でも私は自ら大黒寺金融に頼んだのではない。大黒寺金融から私に言ってきたんだ。」
「本当ですか?」
私が教頭を見つめると、教頭は頷いた。
「ああ、『金に困ってないか?もしOKしてくれるなら、極秘に金をかしてあげよう。』とな、ここで断るべきだったのだが私は誘惑に負けてしまった・・。それですきな競馬で成功して返そうとしたんだけど、思うように勝てなくていつの間にか借金が大きく膨らんでしまった。とうとう私は大黒寺金融から、借金の返済をせまられてしまいどうしようかと悩んだ。そんな時、大黒寺金融の者がこんなことを言った。『もしこの学校の土地の権利書を渡してくれたら、あなたの借金を帳消しにしてもいいですよ。』・・・・私はこの時ハッとした。大黒寺金融の狙いはこの学校だという事を知った。でももし校長にこの事を伝えたら、私が内緒でしていた借金の事も公表されてしまう・・・。私は正義感よりも自分の事を優先してしまい、この学校から逃げ出すことにしたんです。」
その後教頭はコンビニで車から降りて逃げ出すと、近くの古着屋でスーツを売ってフード付きの洋服を手に入れた。そしてそれからはネットカフェと公園を交互に寝泊まりする生活になった。しかし所持金もわずかになり、もうほとぼりも冷めただろうと警察に行こうかと思って、このラーメン店で夕食を食べようと入った時に、偶然私と鉄幹に出会った。
「そういう事だったんだ・・。でもやっぱり逃げ出すのは間違っているよ!」
「鉄幹の言う通りだった・・・。あの時少しでも正義をとる勇気があれば、校長の逆鱗に耐えて学校を追い出されてもいいと思えたのなら、私もみじめで辛い生活を続けることはなかった。」
「教頭、私は大黒寺金融に復讐しようとしています。でも潰すつもりは無く、ただ前の状態に戻してもらいたいのです。」
「それはどういうことですか?」
「僕の父さんは大学の教授だったんだけど、大黒寺金融が援助をやめてしまったせいで研究が続けられなくなって、今は新しい仕事をしているんだ。」
「なるほど、それで私に何をしてほしいのだ?」
「警察に行って、今言った大黒寺金融の企みを話すのです。そうすれば、奴らの弱みが世間に晒されます。」
「なるほどな。それがせめてもの償いにになるなら、私は行こう。」
「教頭先生、今度こそ勇気を出してください。」
「今を失っても、明日へのリスタートをすればいいんだ。そうすれば未来の今は失った今よりも、いいものになります。」
教頭は泣きながら私に抱き着いた、自分より年上の人を抱くのは不思議な気分だ。その後会計を済ませると、教頭は真っすぐに私と鉄幹とは逆の道を歩き出した。
「ムフフフ・・・・、これで一つの復讐が成功した。」
彼が現れた。
「ええ、明日大黒寺金融はどうなっているのかな?」
私は内心、悪ガキのように笑った。
そして翌日、やはり教頭が見つかったことと大黒寺金融の悪事が世間に晒された。朝のテレビニュースのトップで次のように報道された。
「昨夜午後八時十六分、小牧警察に九日ぶりにE中学教頭の馬淵勲が姿を現しました。馬淵は校長に『主張へ行ってくる』と嘘をつき、一緒に同行した教師に学校から八キロ程離れたコンビニまで車で送ってもらい、車から降りて行方をくらましました。警察によると当時馬淵は現金五万円とスマホしか持っておらず、車から降りた後、近くの古着屋でスーツを売って新しい服を購入しすぐに着替えました。そして昨日までネットカフェと公園を行き来する生活を続け、昨日近所のラーメン店・ラーメン道Dチームで馬淵の学校の生徒とその父親が発見したという事です。さらに逃げ出した動機について・・・、「自分の欲望に負けてしまい、大黒寺金融にはめられた。」と供述しました。警察は大黒寺金融が馬淵とどんな取引をしたことについて、詳しく捜査していく方針です。」
私はこれを見て、とりあえずはスッキリした。
「父さん、これで大黒寺金融も終わりだね。」
「それはどうかな、これだけでは大黒寺金融を追い詰めたとは言えない。」
「そうなの、父さん?」
「あいつらは海千山千だからな・・・、次は何をしてくるか。」
すると電話が鳴った、私が出ると受話器の向こうから男の低い声がした。
「お前、天野六蔵だな。」
「はい、そうですがご用件は?」
「とぼけるんじゃねえぞ!前日、あんたに手紙とあんたの知り合いの樫ってやつの無様な写真を、送ったはずだ。貴様、約束を破ったらどうなるのかわかっているのか?」
「なるほど、それがあなた方のやりかたですか・・・。ではこうしましょう、今日この写真をG大学へ持っていきます。その代わり、私の大学の資金援助を再開させてください。」
「それは無理だ、お前らの研究など人類の役に立つと思うのか?もし金が欲しけりゃ、人の役に立つ研究をしろ!」
「そうですか・・・、わかりました。次にあなた方にどん不幸が起きても知りませんよ。」
私は静かに受話器を置いた。
「さて、二回目の預金に行きますか。」
私は早々に朝食を済ませて仕事に向かった。通勤の途中にコンビニに寄って、ATMに彼が呪った一万円を預金をした。
「さて次はどうなるかな・・・?」
私は期待を膨らましながら、職場に向かった。職場に着くと、彼が言った。
「おい、お前つけられていたぞ!」
「本当か!でもどうして私を、襲わなかったのだろう?」
私は虫の知らせを感じた。私が仕事を始めてから三十分後、穂見が銀行に利益を預けに行ったので、会社の中が静になった。するとあのスーツを着た三人組がやってきた。
「穂見さんは、いらっしゃいますか?」
「いません、銀行にお金を預けに行きました。」
「いないのか?仕方ない、帰るとするか・・・。穂見さんが帰ってきたら、俺らが来たこと伝えなよ。」
三人組はそれだけ言うと帰っていった。穂見さんが帰ってきたときにそのことを伝えると、「私と何を話すつもりだったのかしら・・・、まあ、印刷代の値切りはお断りだけどね。」と特に気にする様子は無かった。しかし一週間後の給料日に私が職場に行くと、職員全員が落ち込んでいて、穂見は机の上で困った顔をしていた。
「一体どうしたのですか?」
「・・・言いづらいんだけど・・・、給料を払えなくなってしまった。」
「それは大変じゃないですか!?でもどうして急にそうなったのですか?」
「昨日、社員全員の給料を振り込みに行ったんだけど、暗証番号を入れても私の当座が開かないの。最初は間違えたのではと思ってたんだけど、正しい番号を入れても開かずにロックがかかってしまったの。」
穂見はもうだめだという顔をした。
「あいつらが反撃してきたようだな。」
彼が現れた。
「もしかしてあいつら・・・。」
もしもあの三人組が、大黒寺金融の手先だとするなら全てつじつまが合う。
「ロックがかかってしまったの対処法を聞いたけど、メールを送るまで待っていてくださいと言われたの。今日中に来ればいいんだけど・・・。」
おそらく大黒寺金融は私が樫からの告発文を受け取ったことを知り、告発文を隠滅するために、私に樫の遺体写真とあの短文を送った。しかし私は無視したので昨日電話で脅し、勤め先の印刷会社が自分たちの所に当座預金を作っていたことを知っていたので、内部からパスワードを変更して意図的にロックをかけさせたのだろう。
「そういえば穂見さん、今日もあの三人組が来ていましたよ。」
「そう・・・、それでどうしたの?」
「あなたがいないことを伝えると、何もせずに帰りました。」
「あの三人、確か全員大黒寺金融の者だったわね。明日きたら、私の預金の事聞いておかなくっちゃ。」
こうして穂見と社員たちは仕事に戻った。その日の帰りに私は現れた彼に言った。
「大黒寺金融にこちらの目的が知れているようだ、今度あいつらに不幸が起こるのはいつなんだ?」
「おれは不幸は起こせるが、いつ起こるかは分からない。でも起こるとしたら・・・、もうしばらくだな。」
彼はそういうと消えた、私は気長にまつことにした。
家に帰ると、リビングの机の上で波が怯えていた。
「波!一体何があったんだ?」
私はただ事ではないことを察した。
「鉄幹が・・・、誘拐された!」
「誘拐!?連絡はあったのか。」
「さっきヤクザらしき男から『息子は預かった、返してほしければ手紙を持って来い。』と言われたの、手紙なんて知りませんと言ったら、『夫に聞けばわかる、とにかく午後八時までに近所の公園に来い!』と言って電話を切ったの・・・。」
「誘拐か・・・、汚いことを!」
私は怒りを隠せなかった。
「手紙って、なんの事なの?」
私は二階に行って、私の部屋の引き出しから樫からの手紙を取り出すと、一階のリビングに戻って波に見せた。
「この手紙には樫が見た大黒寺金融の悪事が書かれている、おそらく鉄幹を誘拐したのは大黒寺金融の者だろう。」
「それじゃあ、あいつらは証拠隠滅をしようとしているのね。」
「これを渡せば復讐ができなくなってしまう、しかし鉄幹の命には代えられない・・。」
「ほう、連中もやるなあ・・。ならこの手を使おう。」
彼があらわると、彼は私に尋ねた。
「この手紙と同じ大きさの紙はないか?」
すると波がリビングの引き出しから、同じ大きさの白紙の手紙を持ってきた。すると彼は白紙の手紙に魔法をかけて、樫からの手紙と全く同じ文章を書きだしたのだ。
「凄い、そっくりだよ!」
手紙を書き終えると、彼が言った。
「それはフェイク・レターだ、三時間後には白紙に戻る。」
「ありがとう、これで鉄幹を助けに行けれる!」
私が家を飛び出そうとした時、電話が鳴った。息子の命が危ないという時に・・・、と思ったので波に取らせた。そしてドアノブに手をかけた時、「六蔵君、悠馬君からよ!」と波が言った。私は靴を脱ぐのも忘れて、波から受話器を受け取った。
「悠馬君だね、鉄幹は無事なのかい?」
「はい、今僕と一緒に三階の階段にいます。鉄幹に代わりますね。」
「父さん、ごめんなさい。俺実は、下校の時勇人に呼ばれたんだ。そしたらいきなり腹パンくらってしまって、気づいたときはもう車の中だった。それで俺は大柄な男から、「今から人質だ、命が惜しくばおとなしくしろ。」と言われて、さっきまで公園に居たんだけどあいつらがコンビニに行っている間に、悠馬君が助けてくれたんだ。」
「そうか、悠馬君ありがとう!」
「いえ、それよりも早く来てください。僕と鉄幹は勇人と男に追われています、中学の屋上で待っていますので来てください。」
「わかった。」
私は受話器を戻すと、猪突猛進で中学校へ向かった。
「鉄幹、無事でいてくれ・・・。」
私は鉄幹の無事を祈りながら走り、そして中学校へ着いた。おじさんとなった私に、階段の駆け上がりはきつかったが私は校舎の屋上に着いた。そこには追い詰められた鉄幹と悠馬、それを追い詰める大柄な男と勇人の姿があった。
「鉄幹に手を出すな!」
私が息も絶え絶えに叫ぶと、大柄な男が私の方を向いた。
「天野六蔵だな、例の手紙はあるだろうな?」
「ああ、これだ。」
私は男に手紙を渡した、男は手紙に目を通すと勇人に言った。
「勇人、行くぞ。」
「鉄幹、とっとと親父のもとへ行け。俺は裏切り者の処刑をしなくてはならない。」
鉄幹は私のもとへ駆け寄った。悠馬は勇人の方をそらさずに見つめている。
「今日で兄弟の縁を切る、お前なんか地獄へ落ちろ!」
勇人は悠馬を屋上から落とそうと襲い掛かった。二人の体が組み合うが、悠馬は小柄ながら、落とされまいとねばっている。
「おい、何をしている!」
「悠馬から離れろ!」
鉄幹と男が飛び出した時、勇人はバランスを崩した。悠馬が横へ避けると、勇人は地面に向かって真っ逆さまと落ちてしまった。
「勇人ーー!」
男と鉄幹と悠馬が同時に叫んだ、私が上から地面を見下ろすと潰れたトマトのように頭から血を流す勇人の無残な姿があった。
「早く救急車を・・・。」
私がスマホを開いたとき、背後から強烈な電流を感じた。そして私はそのまま、失神した・・。
気が付くと彼と悠馬と鉄幹がいた。
「父さん、大丈夫?」
「うーん、ああ何とか。どうして私は、気を失ったんだ?」
「あの男が背後からスタンガンを使ったんだ。」
悠馬が説明した。
「父さん、俺なんかのためにせっかくの切り札を・・・、渡すなんて・・・。俺はなんてドジをしてしまったんだ・・。」
鉄幹は誘拐されたことに酷く後悔した。
「大丈夫だ、あれは彼が用意した偽物だ。本物はちゃんとある。」
「ああ、おそらくは安心しているかあの男が怒られていることだろう。」
「ホント!父さんの悪魔ってすごいや。」
彼は少し照れた、私は立ち上がったが腰が少し痛かった。
「父さん、悠馬君どうする?」
「そうだな、今夜は私の家に入れるか。」
「度々お世話になって、申し訳ありません。」
悠馬は頭を下げた。
その後悠馬は天野家の家族になった、しかし私の職場の状況は良くならなかった。しかも倒産の可能性も出てきたので大勢の社員が転職・退職していき、とうとう社内に残ったのは穂見と私の二人っきりになった。
「もうこの会社も・・・終わりね・・・。」
「・・・はい、もう立て直す手はありません。」
私もやることがあったのだが、穂見の絶望感がうつってしまい手に付けられない。
「こうなったのも大黒寺金融のせいよ!いつまでたってもATMのロックは解除されないし、おまけにうちの社員を引き抜いていくし、挙句の果てには得意先まで持っていかれてしまった・・。」
大黒寺金融が今までやってきたことは私を追い詰めて手紙のありかを教えてもらう為だけのこと、それだけのことに一つの会社が巻き込まれたことについて私は、やりきれなかった。
「大黒寺金融は、私の会社にどんな恨みがあるのだろうね・・・。」
穂見は恨めしそうな声で言った。私は穂見に謝りたかった・・・。
「六蔵、悪いけどこの会社はもうだめだ。だから君には辞めてもらうつもりだ。」
「穂見さん、そんな時が来ることは承知済みです。」
「今日まで本当にありがとう、これは今日の給料と退職金だよ。」
「ありがとうございました・・・。」
私は少し重い封筒を持って会社を出た、結局私がこの会社で働いたのは約十日。これほどの短い労働記録がほかにあるのだろうか・・・。私は大曾根駅で電車に乗って小牧駅で降り、家に帰る途中コンビニで昼食と缶コーヒーを買って家路に着いた。家に入ろうとすると、どこか後ろ暗い女性が近くの電柱の後ろから自宅を見ていた。
「すいません、どなたですか?」
私が声をかけると、女性は一目散に逃げだした。私は首をかしげながら、家に入った。波が声をかける。
「六蔵君、ずいぶん早いお帰りね。」
「ああ、会社が潰れたからね。」
「嘘・・・、だって働いてまだ一年もたってないじゃない!」
「大黒寺金融のせいだよ、あいつら私に圧力をかけるために会社に酷いことをしてきたからな。」
私は波に、大黒寺金融のやり口を話した。
「そこまでやるだなんて、あの銀行は恐ろしいわね。」
「ああ全くだ、このままだと私は再就職すらできなくなるからな・・・。」
ため息交じりに、昼食を食べる私。ここから先は一体どうしていけばいいんだろうか?そして五時間後また悲劇が起こった。テレビを見ていると玄関先から、叫び声が聞こえたのでドアを開けた。するとそこには悠馬を守ろうとする鉄幹、そしてあの女性が包丁を持って鉄幹と悠馬に襲い掛かろうとしていた。
「殺す・・・、殺す ・・・、八つ裂きにする!」
「どうした鉄幹!」
「父さん、この女性が悠馬君を殺そうと襲い掛かってきたんだ!」
すると女性は絶叫しながら悠馬君に襲い掛かった。
「危ない!」
私は飛び出して自分の背を盾に悠馬を守った、しかし私は左肩のすぐ下の所を刺されてしまった。
「父さん!」
「ああ・・、大丈夫だ・・。」
女性は我に返ったのか、包丁を抜くと真っ青な顔でその場から逃げようとしたが・・
「逃がすかよ、狂人が。」
彼は魔力で女性の首元を強く握った、女性は見えないロープで釣り上げられている状態になった。
「お願い、あの人はぼくのお母さんなんだ。助けて・・。」
悠馬が泣きながらお願いした、私は彼に言った。
「私の気は済んだ、その女性を放してくれ。」
「いいんだな・・。」
私が頷くと彼は女性を放してくれた、そして私は波の機転で病院へ運ばれた。入院室で私は彼に言った。
「今度は入院とは・・・、復讐も楽じゃないな。」
「まあ、因果応報という言葉があるからな。これは大黒寺金融を呪った代償なのだろう。」
「これでしばらくはATMにお金を入れれそうにないなあ・・・。」
するとそこへ波と鉄幹・悠馬が入ってきた。
「六蔵君、大丈夫?」
「ああ、でもこれではしばらく就活は無理そうだな。」
「六蔵さん、僕の母がご迷惑をおかけしました・・。」
悠馬は泣きじゃくりながら謝罪した。
「いいんだよ、それより君の母はどうしてあんなことしたのかわかる?」
「鉄幹が誘拐された日の夜に、私の母は一文無しの状態で家から追い出されてしまったそうです。どうしても家に戻りたい母は義理の父に懇願して、僕を殺せば家に入れてやるという条件を飲みました。」
「そんな・・、そんなこと言うなんて許せない!」
波の顔が赤くなった。
「でも僕の母はあなたを傷つけたことに後悔して、警察に自首しました。」
「悠馬・・・、一人ぼっちになってしまったな。」
鉄幹が同情するが、悠馬は笑顔で言っている。しかしそんな悠馬にも、悲しい気持ちは確かにあった。
「そういえば父さん、今日学校で変なことがあったんだ。」
「なんだい、それは?」
「父さんは見たよな、あの時勇人の死体を?」
「ああ、確かに見た。」
「今日学校の朝礼で『国枝勇人が行方不明になりました、もし勇人の姿を見た事がある者がいたら教えてくれ。』と担任の先生が言ったんだよ。」
「それは確かに変だ。」
「それで勇人の死体を見たと言ったんだ、そしたら「勝手に殺すんじゃない!」って担任の先生に怒られた。」
「それはあいつらが捜索願いだしたからだよ。」
「何で?あいつらが殺したのにさ。」
「もし警察に通報したら、『何故そこにいたのか?』とか『何をしに来たのか?』とか聞かれることになる。もしその答えが犯罪絡みだったら、警察に言えるわけないじゃないか。」
「そうか、だからあの時六蔵さんを、スタンガンで失神させたんだ。」
悠馬が頷いた。
「おそらく勇人君の死体はどこかでバラバラにされて処分されたのだろう。もしそれを警察が見つけたとしても、捜索願いを出している連中が犯人とは考えにくいからな。」
「どこまで卑怯なんだ、あいつら!」
鉄幹が怒りに燃えていると、医者が入ってきた。
「軽傷だったのが幸いだよ、明日退院できることになった。でも退院してからは無理しちゃだめだよ。」
「はい、わかりました。」
医者は波達にも私の容態について話した。
「それよりも大黒寺金融のこと、まだ苦しめたいのか?」
彼が現れた。
「実はそのことで、とっておきの作戦を思いついたんだ。」
「ほう、それは何だ?」
私は彼に作戦を話した、彼はケケと笑いながら協力に応じた。
それから三日後、ずっとおとなしくいていたので傷が治ってきた。そして今日は徹のいる老人ホームに行く時だ、二日前大黒寺金融から老人ホームに最後通牒の電話が来たのだ。そこで私は例の作戦を実行に移すことにした。
「六蔵君、本当に上手く行くの?」
「ああ、上手く行くかは分からないけどやるしかない!」
作戦を簡単に説明すると、まず老人ホーム内の人全員を逃がして中を空にする。そして連中が内部を見回っている間に、出入り口と裏口を塞いで閉じ込めるのだが、連中と一緒に彼がいてその彼が大黒寺金融を脅して、老人ホームの買収を諦めさせる。もし大黒寺金融が食い下がり続けるなら、思いっきりやっちゃってと伝えてあるのでおそらく、老人ホームの中は大惨事になることだろう。なお二日前に作戦の内容を樋田に伝えてあるので、準備万端だ。中へ入ると樋田、徹、渡辺、秋山を含む十人の老人が待っていた。
「六蔵君、作戦ありがとう。あの後調べて見たら、やはり樋田の母がはめられたネットショップのオーナーと、大黒寺金融が繋がっていたよ。」
「徹さんありがとう、では皆さん今日はよろしくお願いします!」
私が頭を下げると、「教授、がんばれよ!」や「ここまでしてくれてありがとな!」と、十人の老人から声援を受けた。まず十人の老人をショッピングモールへ連れて行く、幸い樋田にはマイクロバスが運転できるとのことだった。十人の老人はマイクロバスに乗り込み、そして私と波に手を振りながら行ってしまった。次にやるのは、この後現れる大黒寺金融の連中を閉じ込めるための作業だ。まず入り口から入って自動ドアの電源を落とす、その後老人ホームのブレーカも落として彼を置いていき、裏口からでてそこのカギをかける。その後昨日手に入れたチェーンを車から出して、大黒寺金融が来るまで待つ。そして大黒寺金融の連中全員が入ったら、急いでチェーンをかけて入り口を塞ぐといったところだ。
「じゃあ、始めますか。」
「頑張ってね!」
私は老人ホームの中へ入ると管理人室へ入って、自動ドアの電源を切った。そして裏口のカギを手に入れ老人ホームのブレーカを落として、彼を呼んだ。
「じゃあ、頼むよ。」
「久しぶりに、腕が鳴るぜ。」
その後私は裏口に向かって走っていった、そしてドアを開けてすぐに鍵をかけた。そして走って波のもとへ戻ると、チェーンを受け取って入り口前の木の影で待ち伏せた。
「何だか、ドキドキするね。」
「ああ、何だか今までにもこういうことってあったよな。」
すると白い軽自動車が停まり、中から四人のスーツ姿の男が現れた。その中に水色のネクタイをして先頭を歩く偉そうな男がいた、おそらく彼がリーダーだろう。
「来た!あいつらだ。」
「さあ、どんな反応をするのかな?ふふふ・・。」
波が小悪魔の笑みを浮かべていると、水色のネクタイをした男がドアに頭をぶつけた。
「いててて、故障しているのか?」
二人の男が、強引にドアを開けた。
「そろそろかな・・。」
男たちが中に入ったのを確認すると、波と一緒に飛び出してドアに向かい、急いでドアにチェーンを掛けた。男たちは中を見回っているのか、姿を見られることなくチェーンを掛けることができた。
「ハア、ハア・・・、成功だね!」
「ああ、そうだ。」
私と波は年甲斐もなく、ハイタッチをした。
「さあ、樋田さんたちの所へ行きましょう。」
「ああ、中で連中が苦しむざまを見られないのが残念だがな。」
私と波は車に乗り込んだ。
大黒寺金融の金山は車の中で、人知れず笑みを浮かべていた。もし借金を返せなかったら老人ホームを大黒寺金融に通じている不動産会社に売却させて、その老人ホームを不動産会社から手に入れた後、そこを大黒寺金融の支店に改装して金山はそこの支店長になるというのだ。
「金山様、今日は機嫌がいいですね。髪型もいい感じです。」
不動産会社の後藤が言った、後藤はゴマをするのが上手い。
「そうか?まあ、今日は大切な日だからな。」
「これまで、金山様はあの老人ホームを手に入れるために容赦なく当たってきました。」
「そうだな、樋田の親にネットショッピングを進めて借金をさせたり警備員を買収させたりと色々、金と時間がかかってしまった。」
「しかし今日は、その苦労が報われます。もしあなたが支店長になったら、ぜひ我が社をよろしくお願いします。」
「ああ、わかっているさ。」
そうこうしているうちに老人ホームに到着した。駐車場に車を停めると金山はネクタイを整えた。
「さあ、ここから私の栄光が始まるのだ。」
金山は先頭を堂々と歩き出した、後藤と二人の部下が後に続く。そして目の前の自動ドアが開く・・・・、と思っていたらドアに頭をぶつけてしまった。
「いててて、故障しているのか?」
「金山様、大丈夫ですか!?」
「ああ、大丈夫だ。しかし今日は、どこか変だな・・・。」
金山は手動でも空くのか試したが開かなかった、しかし二人の部下が全力で押すとドアが開いた。
「何だこれは!」
中へ入った金山と二人の部下、後藤は口が開いたままになった。何故ならそこには老人はおろか、職員の姿もないからだ。
「人気が全く無い・・・・、一体どういうことだ!」
金山は想定外の事態に困惑している。
「金山様、落ち着いてください!とりあえず本当に誰もいないのか、手分けして探しましょう。」
後藤が金山をなだめた。
「そうだな、取り乱してすまない。私は一階を探す、後藤は二階、二人は三階を探してくれ。」
こうして四人は分かれて、行動をした。入ってきたときから老人ホームの中が薄暗いので、廃墟のように気味が悪い。三十歩ほど歩くとある部屋に着いた、ドアを開け中へ入るとそこは、管理人室のようだった。
「ここには誰もいないようだ。」
金山がふと上を見上げると、ブレーカーが落ちている。
「これじゃ暗い訳だ。」
と言って金山は、ブレーカーを入れた。管理人室を出てしばらく歩くと会議室・ミーティングルームと部屋があったものの、中へ入っても誰もいなかった。すると近くでドスンと音がした。
「どうしたのだ!」
音がしたのは入り口側の方向、明るい廊下に金山の走る足音が響く。金山が入り口の手前で見たのは、足を押さえる二人だった。
「一体、何があったんだ?」
金山が後藤に言った。
「何でも、捜索中に突然電気がついたのでビビッてしまい、勢いよく階段を下りていたら、最後の一段を踏み外して転んでしまったそうです。」
金山は二人に頭を下げた。
「申し訳無い!電気をつけたのは私だ。」
「金山様だったのか・・・・、よかった・・。」
「幽霊かと思ったぜ・・。」
「所で三階には誰がいたか?」
「いいえ、各部屋の隠れそうなとこまで探しましたが、誰一人として見つかりませんでした。」
「そうか、後藤さんの方はどうでしたか?」
「二階も同じく、誰もいない。」
「ということは今この老人ホームには、我々しかいないことだぞ!」
後藤は驚きのあまり、大声を上げた。
「ということは樋田は、我々が来る前に老人達を連れてここから逃げたに違いありません。」
「だけど十人もの老人を連れだせるのか?」
二人組の男が首を傾げた。
「できるさ、樋田は老人をそれぞれの自宅に送迎したり、老人たちをつれて旅行に行くために、マイクロバスを持っている。だけど問題は場所だ、自宅じゃ十人もの老人は入らないとなると・・・。」
「後藤様、ここは一度本社に連絡を入れましょう。」
後藤の意見に金山は頷き、出入り口を開けようとした時・・・。
「あーーーーっ!」
金山は叫んだ。
「どうしました、金山様!」
「ドアに、チェーンが掛かっている!」
「ホントだ!?」
二人の男がドアを押し開けようとしたが、チェーンの力にはかなわない。
「誰だ、こんなことをしたのは!?」
金山は激昂した。
「わかりませんが、きっと裏口があります。そこからでましょう。」
後藤は金山をなだめた。
「そうだな・・・、私はいつもこうだ・・。」
金山はトラブルに弱く、そのせいでなかなか昇進が出来ない。金山は半ば自己嫌悪になった。
「裏口の場所は私が知っている、ついてきてくれ。」
金山の案内で後藤と二人の男が裏口へ向かった。
「ここだ!」
金山は裏口に着くとドアを開けようとしたが、開かない。
「うーーーーーーー!・・・だめだ、カギが掛かっている。」
「てことは、俺たち閉じ込められたということか!」
「くそーーーー!樋田だ、全てあいつが仕組んだ罠だったんだ!」
金山は激昂を通り越して、逆鱗状態である。
「確かに、この老人ホームの管理人の彼なら可能です。しかし、チェーンを掛けることと言い裏口に鍵をかけると言いこれは・・・。」
「何が言いたいんだ、後藤。」
金山がイライラしながら言った。
「これは単独の犯行ではありません、協力者がいる可能性があります。」
「どういうことだ?」
「樋田一人の犯行とすると、マイクロバスで十人もの老人をどこかへ連れ出し、そしてここへ戻るのに時間がかかります。しかし今回の事は我々にとっては突然の事、これは協力者がどこかで我々を見張って実行してるとしか考えられません。」
すると入り口側から靴の音がした、徐々に金山達に向かっている。
「誰か来ます!」
後藤が言うと全員が音のする方を向いた、そしてコートを着たいかにも怪しい人が現れた。
「お前は誰だ!我々をどうするつもりだ!」
金山が大声で怒鳴ると、怪しい人はフヒヒと笑いながら正体を見せた。それは紛れもなく彼だ。
「お前たちはこの私が、悪夢へといざなってあげましょう。」
「お・・ま・・え、そ・・れ・・・は・・・。」
金山は恐怖のあまり、上手く喋れない。
「あなたは、何故こんなことをしたのですか?」
後藤は彼が本物じゃないと思っているのか、堂々としている。
「では教えましょう、私のご主人様は大黒寺金融に強い恨みを持っている。そしてこの建物の持ち主である樋田という男から、大黒寺金融の悪巧みを知った。それでご主人様と樋田が組んで、お前たちをここに閉じ込めたのさ。」
「じゃあ、そのご主人様に会わせてくれないか?話がしたい。」
後藤が彼に哀願したが、彼は言った。
「無駄だ、ご主人様は別の所に居る。場所はもちろん教えない、今から悪夢へと連れて行くからな!」
彼はそう言い残すと消えた、そして当たりの景色が一変した。
「ここは・・・、ジャングルか!一体どうなっているんだ!」
金山が叫ぶと、正面からドスドスという音がした。そしてその正体は、すぐに分かった。
「テ・・・ティラノサウルスだ!」
男の一人が叫んだ、しかし金山と後藤は恐れない。
「どうせ幻だ、気にすることは無い。」
「金山様の言う通りです。」
するとティラノサウルスはさっき叫んだ男に喰らいついた、しかも血潮も噴き出している。それを見た金山と後藤は、百八十度顔色を変えて「ギャー!」と叫びながら走り出した。後ろからもう一人もついてくる。ティラノサウルスがスピードを上げて迫ってきた。
「ヒ~ッ、このままだと私が食べられるーー。」
悲鳴を上げる金山に、後藤はもう一人の男を囮にして金山と逃げる作戦を考えた
「金山様、わきへと逃げましょう。」
「えっ、もう一人はどうするの?」
「今は彼よりも、我々の方が大事です。」
後藤はそういうと、金山の左腕を強く引っ張った。そしてわきへと逃げれたが、もう一人の男は、突然の出来事に止まってしまい、その隙にティラノサウルスに食べられてしまった。
「助かった。ありがとう・・・・って、後藤君!」
「はい?どうしましたか。」
「君、体が・・・透けてるぞ!」
「透けている?ご冗談はやめてください、金山様。」
しかし金山の目には、確かに後藤が徐々に消えていく。そしてとうとう、本人も気づかずに後藤は消えてしまった。
「後藤ーーーーっ!」
金山は叫んだ、しかし後藤は戻ってこない。一人で怯えていると、またあたりの景色が一変した。そこは暗い所だが、一本の光る道が続いている。
「何だ、この道は?」
金山はただなんとなく歩き出した、そして歩いていると鏡が街路樹のように並んでいるところに出た。
「何だここは、どうして鏡ばかり並んでいるのだ?」
金山は気になって鏡の一つを覗き込んだ、するとそこには小学校の頃の金山が映っていた。
「これは、あの頃の私・・。あの頃は頭が良かったが、人気が全く無かった・・。」
金山は辛い過去を思い出し俯いた、そこから金山は他人に好かれるために手段を選ばずに、大黒寺金融の課長にまで上り詰めた。そのたくさんの鏡は金山の過去を映し出していた、人気になるために苦しみ、多くの人を蹴落としたことか・・・。そして金山はありき続け、一つの宝箱を発見した。
「何だ、この箱は?」
すると金山の頭に何かが落ちた、掴み上げるとそれは鍵だった。宝箱と鍵・・・、この二つが金山の欲望を掻き立てた。
「ひょっとすると、何か入っているのか?」
金山は宝箱の鍵穴に鍵を入れて回そうとした時、彼の声がした。
「ちょっと待った。」
「何だよ、お前か?」
「ああ、その宝箱は変わっていてな、差し込んだ鍵をどの方向に回すかによって、中身が変わるんだ。」
「本当か!?」
「ああ、一つは大当たりでもう一つは大惨事だ。」
「どうすれば、大当たりを引けるのだ?」
「そうだな・・、一つ質問をしよう。お前はこの中身が、一億円か消えた三人のどっちがいいか?一億円なら右に鍵を回し、消えた三人なら左に鍵を回すんだ。」
金山は考え込むことなく、右に鍵を回した。
「ほう、そんなに金が欲しいのか?」
「当たり前だ、私は自分が良ければそれでいいのだ。人気でいるには金が必要、しかし金はなかなか手に入らない、そのためなら私は何だってやるさ。」
金山が宝箱を開けると、そこには大量の札束があった。
「一億だ、一億!夢にまで見た一億だ!」
金山が大はしゃぎしていると彼が言った。
「さあ、大惨事の始まりだ・・。」
金山がえっ?という顔をすると、なんと札束が頭蓋骨に変わっていた。
「うぎゃーーーーっ!」
金山が悲鳴を上げると、鏡から黒いヘドロを被ったようなゾンビが次から次へと現れた、その中にはティラノサウルスに食われたはずの二人と後藤の姿もあった。
「な・・・なんだよ・・、何でこうなるんだよ!この悪魔がーーーっ!」
金山が恨みの叫びを上げると、全力で走り出した。あとからゾンビらが追ってくる、しかも少しずつ追いつかれている。金山が疲れだした時、目の前に扉が見えた。
金山は最後の力を振り絞って走ると、ドアを開けてすぐに閉めた。ぎりぎりの所でゾンビから逃げ切れた。
「ハアハア・・・、ん、ここは老人ホームの外か?」
金山は辺りを少し見まわして、ここが車を停めた駐車場だと認識した。しかし出入り口のチェーンが掛かっているのと、あの場所には戻りたくないという事で、金山は一人で車に乗り込んで大黒寺金融へと戻っていった。
老人ホームから離れた私と波は、喫茶店で三十分程時間を潰した後、四人を解放するために老人ホームに戻ってきた。
「あの四人は、どうなっているのかしら?」
「さあな、彼が思う存分痛めつけているだろう・・。」
私は波と一緒にドアに掛けたチェーンを外すと、一人で中へと入っていった。中では青い顔をしてすっかり憔悴しきった三人の男が座っていた。そして彼が現れた。
「お帰りなさいませ、存分に怖がらせました。」
「あれ、水色のネクタイをした人は?」
「ああ、奴なら悪夢の出口を見つけた。そこからこの建物の外へと出たけど、あいつはもうすぐ・・・。」
彼には何かが見えているのか、クククと笑い出した。すると三人のうちの一人が、目を開けた。
「ん・・・・、うわわわーーっ!もう勘弁してください。」
男はビビった様子で、私と彼に土下座した。
「心配するな、この方が私の主人様だ。」
「本当ですか?」
「この私が言っているのだ、それともまだ怖い目に遭いたいのか?」
男は彼に睨まれ、慌てて手を振った。
「私は天野六蔵だ、今回は大黒寺金融からこの老人ホームを守るために、このようなことをした。樋田から君たちの悪事は知っている、もし自首すればここから出してやろう。」
私は低い声で言った。
「もちろんです、私は後藤と言います。ついでにこの二人も自首させます。」
「よし、いいだろう。」
私は後藤と後から目覚めた二人を、老人ホームの外へと出した。
その後の経過を書くとこうだ、後藤の自首で、大黒寺金融の悪質な運営を知った警察が動き出した。私はこのタイミングで樫からの手紙を警察に提出、G大学の理事長と大黒寺金融との結託が世間に晒された。さらに大黒寺金融へと車で戻ろうとした金山は、事故を起こして入院。それから一か月後の事情聴取で、樋田の老人ホームを不正に買い取ろうとしていたことも判明した。一方後藤と一緒に自首した二人の男から、大黒寺金融が暴力団と繋がっていることも判明し、世間を大きく騒がせた。その後も社長の息子の死体発見や、私を追い詰めるための卑劣な行動も明らかになり、ついに大黒寺金融は地獄に落ちるように倒産したのだった。
ちなみに私の研究はG大学と大黒寺金融からの賠償金で再開することができた。樋田の老人ホームは、相変わらず入居者が少ないが楽しくやっている。
さて、ここで私の思い出もお終い。最後に大切な事を書かなければならない・・・。
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