悪魔のお守り

読天文之

第1話悪魔との出会い

私の名前は天野六蔵、六十六歳。私は今日までのことをここに手記として書き上げようと思う。私は小学四年の時にお守りを手に入れた。といってもただのお守りではなくなんと、悪魔の力が込められたお守りでありその力は守護でありながらとてもおそろしいものである。

「お守りの力を持つ者に危害を与えたり、軽蔑する者に魔の裁きを下す」

とお守りの中の小さな紙札に書いてあった。魔の裁きというのは、大切な物を消したり、命を奪ったりといろんな効果がある。私がお守りを手にしたとき、「パラディン・ブラット・デーモン」と名乗る悪魔と契約した。それ以来私は多くの人を、報復の念で死なせてきたのである。まず私がパラディン・ブラット・デーモンと契約し、悪魔の力を初めて目にしたことを書こう。

あれは小学四年の一月二日のこと。私は妹と一緒に犬山の神社にお参りにいった日

の帰り道で・・・。

「六蔵、お菓子買って。」

「いいよ、じゃあ一緒にお金を出し合って、、」

「いや、六蔵がおごらなきゃやだ。」

 また始まった・・・。妹の清美はすぐに私を頼る。清美は生まれた時から父母・祖父母にかわいがられているので、我が家の内弁慶になっている。私は清美が生まれてから、「兄だから我慢しなさい」と言われてきた。嫌というと文句の言い合いになり面倒なので、結局私が払うことにした。店に入ろうとすると、急に目の前が暗くなり、何か嫌な気配がしたかと思うと悪魔が現れた。

「我が名はパラディン・ブラット・デーモン。このお守りの主である。」

 私はきょとんとしたあと黒いお守りを手に取った。このお守りは神社で買った・・いや、もらったと言ったほうがいい。本当は合格祈願のお守りを買おうとしたのだが、売り切れていたので巫女さんからお詫びにと、ただで手に入れたのだ。

 「何、どうなっているの・・・。」 

 「あなたは私を選んだ。我と契約し共に生涯を生きよ。」

 「そんな・・・一生なんて嫌だよ。」

 「嫌ならお前の魂をいただくまで・・。」

 慌てた私は契約に応じると言ってしまった。恐怖の眼差しで私を見つめる悪魔は、紙札を差し出し、ここに手形を押せと言った。手形を押した私は、「なぜ僕と契約するの?」と声を震わせながら聞いた。すると彼はこう答えた。

「我が力の源は人がもたらす絶望と命だ、集まれば集まるほど強くなる。これまで多くの人と契約し力を得てきた。もし我を満足させる程、力を与えるのならお前の望みを何度もかなえてやろう。」

要は力が欲しいだけのようだ。しかし私は悪魔の力に興味があることだけしか頭に無かった。そこで「君は何ができるの?」と尋ねるとこう答えた。

「いいだろう、契約した記念に見せてやる。見たければ、お前の妹の言うことを聞け、いいな。」

 それを言い残して彼は消えた。いつの間にか、売店の入り口の前に立っていた。

 「早く入ってきてよ。」

 清美の声で私は店の中に入った。清美は店に入るなり、商品を選び私のところへ持ってきた。しおりにハンカチ、高そうなお菓子まで。私の所持金は五千円、これらを買ったら残りは数十円になってしまう。正直払うのは嫌だったが、悪魔の力見たさに払ってしまった・・・。

 「六蔵は買わないの?」

 そう言う清美に「うるさい」と答えるしかなかった。店を出てから十分程歩いたことだろう、近くにコンビニのある交差点についた。信号は赤、私と清美はとまっていた。ところが突然、清美が不意に歩き出した。とっさに清美の左手をつかみ「赤信号だよ。」と言ったが・・、清美は無言で私の手を振り払った。あっけにとられる私をよそに清美はあるいていったが、また不意に横断歩道の中央で止まった。

 「おーい、早く戻れ! 轢かれるぞ!」

 私は叫んだが、清美は馬耳東風で、石像のように動かなくなった。するとそこに、優しそうな老人が現れた。

 「何で、叫んでいるんだ?」

 「僕の妹が赤信号なのに渡っていってしまったんです!早く戻さないと、轢かれてしまうというのに。」

 横断歩道の方を見た老人は驚いた。そして、「私が連れ戻してくる!」と言って飛び出そうとした・・・その時!

 「キキーー、バーン!」

 という音で、大型バスが清美を跳ね飛ばした。清美は、五メートル程飛ばされ頭から落ち、大量出血した。清美のもとへ向かおうとする私を老人は止めた。

 「今遺体に触ってはいけない、私が119番に通報するから、両親に早くこのことを知らせるんだ。」 

 私はうなずくと全速力で家へむかった。家について玄関を開けるとまた、目の前が暗くなり彼が現れた。

 「どうだ、さっきの惨劇は?」

 「君がやったの?」

 「お前は妹のせいで、お金のほとんどを失った。それにより、お前は妹に恨みをもった。我はその恨みを力にして、嫌いな妹を消したのだ。」

確かに私のお金はほとんどないし、これまで清美のことを嫌いになったことが多い。だけどそれで、命まで奪うのはいかがなものか?と、私は思った。

 「僕は清美が死んで悲しいよ・・・。」

 すると、彼は言い返した。

 「お前は甘すぎる、その甘さが人の悪心をのさばせるのだ。そして自分の本心に嘘をつく、大変よくないことだ。そもそもお前は、妹の死を「悲しい」の一言で理解していいのか?まあ、答えは後々わかることだ。」

 そう言い残し、彼は消えた。ハッとすると、元の玄関のドアの前に立っていた。私は玄関のドアを開けて、大声で両親を呼んだ。

 「父さん、母さん大変だ!」

 「どうしたんだ、六蔵。」

 ただならぬ私の声に、父寛助が真っ先に反応した。

 「清美が・・・バスに轢かれた。」

 「何!、いったいどこで?」

 「コンビニがある交差点の横断歩道で。」

 「清美は今どこに!」

  寛助は私の体をゆすりながら尋ねた。

 「偶然出会ったおじいさんが、119番してくれたから今は、病院にいると思う。」

 「そんな・・。」

  私と寛助の会話を聞いていた母花之は、座り込んでしまった。

 「とにかく現場へ!」

  寛助は風のように家を飛び出した。私も走ってその後に続いた。現場では大勢の人が取り囲み、あの老人が警察からの聴取を受けていた。

 「おーい!おじいさーん。」

 「おう、来たか。」

 「ではこの子が、一緒にいた男の子ですか?」

 「はい、間違いありません。」

  このあと私も警察からの聴取をうけた。私は見たその時のことを、明確に伝えた。その間、寛助と老人は会話をしていた。

 「この度は、迅速な対応をしていただきありがとうございました。失礼ですが、どちら様でいらっしゃいますか?」

 「私は丸井健というものです。あの時もう少し早く現場についていたら・・・。」

  丸井は悔しそうに顔をしかめた。

 「あの・・清美は今どこの病院に?」

 「救急隊員によると、ちかくのI病院です。」

 「わかりました。」

  寛助は丸井と話し終えると、丁度聴取を終えた私に言った。

 「I病院だ、行くぞ!」

  寛助はまた風のような速さで家に向かい、私も寛助に続いた。

  花之は玄関の近くで座りこんだままだった。

 「I病院へいくぞ!」

  花之は寛助の言葉にハッとし、腰を上げた。車のキーを持った寛助は、車に乗った。私と花之は後部座席に座った。

 「あなた、安全運転でね。」

 「ああ、わかっているさ。」

  花之が寛助を落ち着かせると、寛助は車を発進させた。

 「母さん、清美生きてるかな?」

 「今は祈るしかないわ。」

  花之も私と同じく、清美の生死のことで頭がいっぱいだった。花之はまるでクリスチャンのように、手を合わせ強く清美の無事を、祈っていた。二十五分後I病院に到着。寛助は車から降りると走って病院の中へ入った。

 「おい!、ここに清美が搬送されたそうだがどこにいる?」

  マナーもそっちのけで、寛助は怒鳴った。

 「清美ちゃんのご家族ですか?手術室へ案内します。」

  看護師の案内で私と両親は手術室へと向かった。丁度手術が終わり、医者が手術室から出てくるのを見た寛助は医者に尋ねた。

 「先生、清美は・・清美は!」

  怒鳴るように問う寛助に医者は、俯きながら首を横に振った。

 「手は尽くしましたが、出血と脳へのダメージが酷く、残念ながらご臨終です。」

  寛助は落胆したあと、「うわあああああああーっ。」と絶叫した。花之は号泣し、私は言葉を詰まらせたが涙をこぼした。お守りの主の彼のせいで、清美は死んだ。私は彼が許せなかった。しかし悪魔である彼に復讐なんて怖くてできない。心の中で復讐心と恐怖心が戦っていた。しばらく唖然としていると、両親の姿がないことに気づき、病院から出た。すると、駐車場のところに両親の姿があった。

 「何してたの?」

 「実家と学校に清美の死を連絡していた、帰ってこれからどうするかを考えよう。」

 車に乗っている間、私も両親も黙っていた・・・。  


 その後の一月十日、清美の葬式が行われた。この時一番泣いていたのは祖母の秋子だった。それは葬式の会場に強く響き、I病院で花之が見せたやつよりもすごい号泣だった。私は清美の棺に、清美が好きだった漫画と清美の担任の先生から渡されていた花束と清美のクラスメイトが書いた色紙を、中に入れた。そして清美の棺は霊柩車に乗せられ、火葬場へと向かった。私は霊柩車を見送りながら、もう清美と会えない気持ちを噛みしめた。


  

   


 

 

    

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