文字ラジオ準備中

第1話 ロストジェネレーション


 生まれた時はオイルショック、中学卒業時にバブル崩壊、高校卒業時に就職氷河期、技術を身に付けようと入った専門学校へ進学。景気はまったく回復せず、卒業して何とか入った会社はブラック企業。前後の世代は比較的就職が楽だったのに、何故か俺たちの世代は貧乏くじを引く世代。俗に言うロストジェネレーションって奴らしい。


 専門学校卒業なんて言うけれど、世間的には高卒となる。能力は有れど正社員の道は遠く、体力と資格を生かして何とか職に就いていたものの全て非正規社員。厳しい労働条件が続き、俺は体を壊してしまった。


「体が言う事を聞かん……体さえ大丈夫ならバリバリ働けるのに……」


 仕事と健康を失った俺は全てが嫌になり、自ら命を絶った。まぁあとはお決まりの三途の川を渡り、閻魔大王に謁見して地獄に行くか天国に行くパターンやと思ってたんやけどな……。


「ええっと、仲嶋なかしま 弘志ひろしさんですね……あれ?少々お待ちください……おい、仲嶋さんの資料を……えっ! あっちゃ~。これヤバいっしょ?」


「赤鬼さん、顔が青いで。真っ青やんか、まるで青鬼やで。何が有ったんや?」


 近頃は閻魔大王さまが直で謁見する例は少ないそうで、基本的に部下である鬼が処分を言い渡す最近の地獄事情。なんでも凶悪事件とか、地獄放送のニュースで放送される程でないと基本的に鬼が担当するんやって。人間を捌くのに罪悪感を覚える若鬼は血の池地獄の温度管理や針山地獄の研磨などの裏方仕事に就くらしい。


「すいません、こちらの手違いでして……早速生き返らせますので手続きを」

「いや、もう焼かれて墓の中やし。それに生き返らせてもろうてもなぁ……」


 俺の身体はとっくの昔に焼かれて骨になっている。自分の葬式を見るのは奇妙な体験だったし、両親が泣いている姿を見て心が痛んだ。この世に未練が有るから成仏出来ねーのかなと思っていたら死んで一週間後にお迎えが来て今に至る。


「ええっ?! どうしてそんな早くに火葬を?!」

「迎えが遅かったからや」


 汗を拭き拭き平謝りする老鬼には悪いが、現世に未練は無い。それにとっくの昔に焼かれて骨になっている。迎えの死神の到着が遅かったからじっくり見てしもたわ。死神も人(?)手不足とは思わんかったよ。お役所仕事やからチンタラしてると思ったけど、あの世とこの世の境目でもいろいろ事情があるらしい。


「実はあなたの不幸もこちらの手違いでして、はい、自殺に至るまで全てがもう運命課のミスでして……申し訳ありません……」

「むぅ……まぁ誰しもミスはあるわな」


 正直な所、『申し訳ありませんと違うわ、どないしてくれるねん』と怒鳴り、喚いてから鬼をシバキまくろうかと思ったが、まぁこいつがミスした訳ではない。ミスした時に大事なのはリカバリーだ。その結果次第でどう動くか判断させてもらう。


「ほな、生き返らせんでええから、こっちで生きていく(もう死んでるけどな!)から就職先をあっせんしてくれ。そしたら文句は言わん」


「イイんですか! 助かりますっ! ううっ……地獄で仏とはこの事……」

「どんな仕事があるんや? 今度は体を壊さん仕事がエエ」


 今さら体を壊すとか心配しなくて良いと思うが、ブラック企業はもうたくさんだ。出来れば俺に苦痛を与えて来た連中に復讐できる仕事を希望する。そして、贅沢を言わせてもらえるなら隔週で週休二日が良いんだが……これは欲張りか。


「体的には楽なんですよ、完全週休二日で休日出勤したら代休が出ますし、でも、若い子がやらないんですよ。精神的に辛いって言いまして」


 そう言いながら赤鬼が印刷して寄こしたのは求職票。


「ハローワークみたいやな」

「何年か前に地獄にも取り入れましてね、一応公務員ですから福利厚生はしっかり出来ていますよ。でも、成り手が無いんですよねぇ……ハァ……」


 あの世に週休二日とか福利厚生の理念があるとは思わなんだ。


「エエよ、でも、住む所はどうするんや? アパートとか有るんか?」

「アパートは有りますけど」


「有るんかいっ!」


 思っていたより現世と近いんやなぁ。 


「出張が多いですから無駄になっちゃうかもしれませんよ」


 出張が多いとはいえ住所不定では問題だろう。


「敷金・礼金も用意しなきゃいけませんけど、仲嶋さんは来たばかりで無一文ですよね? こういう前例が無いので……もしよろしければ私の実家が空き家になっているんですが使われますか? 家具も残ってますから即住めますよ」

「家賃次第やな」


「家は住まないと傷んでしまいますので、家にかかる税金を負担していただければそれで結構です。多少修繕が必要かもしれませんがリフォームOKです。更地にすると税金が跳ね上がるんでどうしようか悩んでいたんですよね」


 何処かで聞いたような話だが、地獄にも事情があるらしい。幸いな事に俺は日曜大工が比較的得意だ。休日の良い暇潰しになるだろう。


「じゃあ商談成立」

「もしもお仕事を続けて行けるようでしたら買い取りもOKですのでよろしく」


 ここからの老鬼の対応は素晴らしかった。真っ青だった顔は紫になった後で元の赤に(リトマス試験紙かw)戻り、「これで首が繋がった」「嫁に叱られずに済む」と感謝をされて俺は新しい仕事に就くことになった。


「じゃあ仲嶋さん、あなたは今日から現世の名前を捨てて、この名前を名乗ってください。これが名刺です」


 赤鬼からもらった名刺には『死神十三』と印刷してあった。


「十三か、縁起の悪さが良いな」

「あ、それは十三と書いて『じゅうぞう』って読むんです」


「なんじゃそりゃ? 『サーティーン』じゃないんか?」

「はい『じゅうぞう』です。用件は聞いて下さい」


 こうしてワシは閻魔亡者センターに再就職を果たした。所属は地獄部、その中にある運命課・魂回収係……俗にいう『死神』や。


……というKACに出した死神のおっちゃんが主役の話を途中まで考えつつ、行き詰っております京丁椎です。


 さて皆様、このジメジメした時期をいかがお過ごしでしょうか。学生は夏休みに入った所かな? 京は最近体の調子がおかしくて弱っています。暑いからって訳じゃないと思うんですよ。眩暈がしてねぇ。調子が悪いから早めに準備を始めちゃいます。


 次回の『京丁椎の真夜中MIDNIGHT∞』は7月27日(土)22時~24時の予定です。京がグダグダと語りつつ、届いたお便りは本文にてご紹介します。お便りの締め切りは23時30分。それ以降のお便りは個別にお返事か翌日の『締め切り後のお便りピックアップのコーナー』にてご紹介。


 では皆様、月末の忙しい時期ですがよろしくお願いします。

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