カツカツさん

 さて、題にある『カツカツさん』とは何か説明しないと訳が分かりませんね。『カツカツさん』とは趣味や娯楽の場で真剣になり過ぎる人を示す表現の一つです。今は『ガチ勢』って言うのかな? いや、『ガチ勢』とはちょっと違うか、『カツカツさん』は行き過ぎたマニアって感じ。


 京はバス運転手をする以前はRCカーを趣味としておりました。サークルと言うかクラブに入ってサーキットに出掛けたりしてました。バス運転手になって勤務が不規則になったり早朝に乗車する様になったのを機に辞めたんだけど、それは言い訳でして、本当の所はカツカツさんが嫌になって辞めたんですよ。


 京がRCカーを走らせていたのはツーリングカーブームが始まった頃からドリフトが流行り出していた頃です。ツーリングカーってのは日産スカイラインGTRとか、セリカGT-FOURとかの乗用車の形を模した十分の一サイズのRCカーです。リアルさと軽量さを兼ね備えたポリカーボネート製ボデーをバギーカーのパワートレーンを使ったシャシに乗せたのが始まりです。八〇年代のバギーブームが終わった後の九〇年代に登場したジャンルだったかな?


 バギーカーの頑丈で防塵性の高い駆動系、ジャンプや荒れ地の走行に耐える頑丈さ、道路を走ってたクルマを忠実に再現したボデーが当時の若者に受けました。


 レースでスカイラインGTR、ラリーでスバルインプレッサ・三菱ランサーエボリューション・セリカGT-FOURなどが活躍したのと相まってヒットしました。ポリカーボネート製ボデーは実車を忠実に再現していたので自分の愛車と同じ見た目にしたりして楽しんだ人も多かったし、レーシングカー好きは走る模型として楽しんだり。京はメカ好きなのでシャシを改造したりして楽しんだりしていました。


 改造は好きだけど操縦センスが無かったのは悲しいところ。


 最初の頃はバギー譲りの頑丈で埃や小石などの影響を受けにくい駆動系や四輪駆動システムのおかげで壊れず走行場所を比較的選ばなかったので、駐車場や広場へ持って行って車好きな友人とワイワイと楽しく走らせておりました。


 ところが、最初は走る模型だったツーリングカーはいつの間にかレースで速さを競う様になり、速さを金で買う様な感じになって行ったんですよ。金をかけた者が勝つみたいな感じにね。そして、そのうち速い者以外はお断りみたいな雰囲気になって、初心者やRCカーを気楽に走らせている連中が排除されるようになって行った感じがします。


 メーカーもレースでの速さを意識していきまして、シャシは駆動系は駐車場で走らせれば小石や砂に弱いサーキットじゃない所で走らせれば壊れる物になり、リアルで実車を再現していたボデーはいつの間にダウンフォースとか空気抵抗とかを重視するのっぺりした何だか車種が解らないボデーに変わり、好きなボデーを乗せて走らせると『空力が駄目』とか、『そんな車を走らせるな』とか言ってくる困った人が出て来ました。


 この何だかんだと困った事を言うのが『カツカツさん』って奴です。語源はメーターを振り切って針がストッパーに当たる状態から来てるとか、とことん突き詰める様子が語源とか諸説あるけれど、真剣になり過ぎて眉間にしわを寄せて趣味をやっている様な人ね。この手の人が幅を利かすようになると初心者は近寄らず、下手の横好きな人はどんどん離れて行ってしまいます。


 京は自分で車体を作るのが好きで、FRP板でシャシを切り出して、四輪駆動のミニクーパーとか変わったRCカーを作ってたんだけど、カツカツさんに言わせると『そんなものはレースのレギュレーション違反だから駄目』なんだそうな。レースとは関係なく作って走らせるだけなんだけど、その人曰く『サーキットがけがれるから走らせないでください』ですって。


 で、しばらくしたら『カツカツさん』から離れてパーキング走らせていた人が『ラジドリ』と呼ばれるツーリングカーを使ったドリフト走行を始めました。


 カツカツさんがタイヤを目一杯グリップさせて『グリップ走行』でサーキットのラップタイムを縮めるのが最大の目標だとすれば、ラジドリをやっている人はタイヤを滑らせての『ドリフト走行』でパフォーマンスを披露する事かな? タイヤを滑らせてテールを降り出してカウンターステアを当てるなんて事をしています。


 スケートで例えるとグリップ走行がスピードスケートでドリフト走行はフィギュアスケートみたいな感じ。


 京もグリップ走行に付いて行けなくなってドリフトを始めました。このラジコンでのドリフト走行は速度が遅い事もあって空力性能に特化したボデーはそれ程意味は無く、電飾を付けたり派手なスポイラーを付けたり、受け狙いでジープやトラックのボデーを使う人まで出て来たり。何でも在りなカオスで自由な世界でした。


 今でもとんでもないクルマでドリフト走行をして楽しんでいる人が居るみたい。

https://www.youtube.com/watch?v=LRv9zXm94Gw


 診ての通りスピードを競うんじゃなくて、あくまでパフォーマンスとかスライド時のコントロールを魅せるって感じかな?


 経営者側も狭い場所でも出来るとあって、ショップ併設のサーキットとかもチョコチョコとありました。メーカーも色々な部品を出してブームになって行きました。


 ところがね、どこの世界にも『カツカツさん』は現れるんですよ。最初は一線級を退いたシャーシを使って気楽にやっていたのに『角度が……』とか『カウンターが……』とか細かな事を言い始めて、空力とか関係が無い低速走行だから変なボデーを乗せて遊んでいたら『それはリアルではない』『実車と駆動方式が違うからダメ』とか懇々と説教する人が。


 シビックのボデーでドリフトをしていた友人がボロクソ言われてサーキットから帰るまで付きまとわれて、一緒に居た京も『トラックなんか走らせるなっ!』って怒鳴られたりした。


 講釈を垂れていかに自分が金をかけた立派なシャシを使っているのか自慢をする人とか、安いシャシだから駄目だとかいう人がサーキットから初心者を追い出して、新規参入者がだんだんと減って行きました。そうなると店舗もサーキットなんてやっても経費が掛かるだけで採算が取れない。サーキットは閉鎖され、RCショップ自体も減って行きました。


 そして、走らせる場所が無くなり、部品を買う店も近所に無い状況になり、色々と面倒になったお気楽RCドライバーだった京はラジドリだけじゃなくてRCカー自体を辞めてしまいました。


 今はRCカーはどうなんでしょう? 子供たちは走らせているんですかね? ドローンとかの方が流行っているかな?


 で、RCカーを辞めた京はしばらく何の趣味も無く仕事をしていたんだけど、だんだんストレスと不規則な勤務の影響で体の具合が悪くなり、周りに趣味を持つ事を勧められてバイクを組み立て始めました。そして、その後はカクヨムなんかも始めて今に至ります。


 カクヨムでもカツカツさんじゃないかなってユーザーは居ますね。誤字が気になって仕方がないとか、文法の間違いがあると読む気が失せると言うユーザーさんね。そんなユーザーさんの応援コメントやレビューを見ていると『初心者を温かく見守りましょうよ』ってRCカーを走らせていた頃と同じ様な事を思います。


 行き過ぎた人が原因で辞めた作家さんは何人かいると思います。多分だけど行き過ぎた人は何処の分野でもごく一部なはず。言ってる事は正しくてもやり過ぎはダメですよね? だからカクヨムでブロック機能が追加されたんだと思います。


 カツカツさんって自分の知識を聞いてもらいたいとか、構って欲しい・褒めて欲しいって寂しがり屋が多い気がします。だから反応してくれる人に付きまとってしまうのかなぁって気がするんだけど、とにかく迷惑で空気が読めないのか読まない人が多い。


 まぁカクヨムに関しては今回のブロック機能追加のおかげでカツカツさんが来てもお断りできるんですけどね。これで京はカクヨムをRCカーの時みたいに嫌になって辞める事は無いはず。


 あ、ミニバイクに関しては今のところカツカツさんには出会ってないです。とある道の駅で出会ったモンキー乗りさんに『間違ったカスタムは整備不良で切符を切られたり、まともに走れん様になる改造。4miniのカスタムに模範解答はあれど正解は無し。正解は人それぞれ』みたいに言われた事を心に刻んで弄っています。


 クソ長いスイングアームを入れようが、絞りまくったハンドルを入れようがキチンと走っているなら良いんじゃないかなぁって思っています。さすがにヘッドライトが点かないとか、真っ直ぐ走らない、他にはブレーキが効かないなんてのは注意するけどね。


 カツカツするのは辞めましょうや、所詮趣味じゃないか。気楽に行こうぜ。


 ではここらで一曲行きましょう。こんな懐かしのナンバーはどうかな?

https://www.youtube.com/watch?v=JSdc--qSMgQ

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