狂った

negero.bom

包丁を向けてきた誰かが、僕に何か言っていたよ。

僕からしたらどうでも良い事を、ヒステリックに。

叫ぶみたいに。

耳鳴りみたいだった。しかしそれ以上に煩わしい高音で、

ただ不快感を煽ってくる。

何だか分からないけど、「お前はおかしい」って言い

たいみたい。素直じゃないね。

僕は目下の危ない片腕を掴んで、自分の方に引っ張った。

やっぱり、素直じゃないよ。

僕を刺したいなら力を入れる方向が逆だ。

引っ張っても僕に届かなかった。

僕はあまり触りたくない人の身体の一部を無理してまで

触ったことを後悔した。

あれはどうやら僕を刺す目的じゃないらしい。

なら、あの切っ先の意味は何だろう。変だね。

僕からしたら、おかしいのはみんなだ。

僕なんてただ素直なだけで、脳みそに無駄な情報が少な

いから円滑に回りすぎるだけの、所謂馬鹿で。

そんな僕の反対側にいる人は一人残らずおかしいよ。

「狂った」

あ、思っていた事が丁度聞こえた。

ひとまず平静を取り戻したけど、やっぱり煩わしい高い音だ。