~Sky Clouder~ スカイクラウダー:白き世界の雲取人

Naoya

序話 ~ある言葉、そして白き世界~ 

 ――白き星に生きる、全ての者たちよ。

 ゆめゆめ、空からの恩恵を忘れる事なかれ。


 この星に生まれ行く汝らは、その各々が海や陸に生まれ、育ちしも。果てに還る場所は、あまねく空である。


 願わくば。空晶くうしょうあおき加護が、永久とこしえに我らの同胞に降り注ぎ、この世界の尊き繁栄とならん事を。 



(――R・F・ヴェンマット訳「白天録 : セルナスの神話」より

                             冒頭の言葉を抜粋)



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 今日も、また。『白き世界』の空を、機械仕掛けの翼が飛ぶ。


 常日頃より、その表面積の大部分を分厚い雲がおおっている世界――名を、セルナス。途切れる事なく広がる広大な雲海を、数多の『雲取人(クラウダー)』が縦横無尽に切り裂き、駆け抜けてゆく。


 雲の内部に生まれ、無数と形成される、万能有機エネルギーの集積体『スカイ・マテリアル』。それを見つけ出し、採集し、時には激しい争奪の果てに勝ち取って、地上へと持ち帰る事が彼らの役目である。 


 決してたやすいものでない仕事を成し遂げる為、地上から常に周辺一帯の情報を送ってくれる『ナビパートナー』と、己が手足となる専用小型飛行機『飛雲機(クラウドプレーン)』に信頼を置き、彼らは空と地上を絶え間なく往復する。


 百年を優に超える歴史が紡がれていく中で、クラウダーにまつわる数多の伝説や英雄譚が生み出されており、それらの一つ一つに眼を輝かせる子供は決して少なくない。


 大陸の北部に位置する、海沿いの中規模市街『ルーセス』。

 この静かな街の一角にも、クラウダーという世界に足を踏み入れた少年が一人、仲間達と居を構えている。

 かつて飛雲機を駆っていた両親の姿を見て成長し、その雄々しさに憧れて日々の訓練に明け暮れる、未だ職歴半年に満たない十七歳の新米クラウダー。


 今日もまた、彼は練習用の機体に乗り込み、街の上空へと上がって行く。相棒のナビパートナーと共に必死に羽ばたき、今はまだ見えぬ遥か高い頂を目指す。

 だが。その内に抱える心は、若さゆえに頼りなく不安定で、現状に対する戸惑いと焦りを隠せない。


 感情の揺らぎをなるべく押し殺し、少年はただひたすらに、飛雲機の操縦桿を握る指先に神経をとがらせる。

 そして、目の前で流れ行く光景をじっと見据えて、スロットルを吹かしにかかり――

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