Live.19『継承、ゼスマリカフォーム! ~HEROES ALWAYS SHOW UP LATE~』

《タイガ!? どうしたの?》

《な、何やってんだァッ!?》


 たった今、目の前で起きた現象に誘導組の二人は驚かざるを得ない。

 ゼスタイガがいきなり倒れると、そのまま戦闘不能を意味する強制排除ドレスアウトとなってしまったからだ。


 ああなってしまえばしばらくは動けない。否、それ以前に大河自身にも異変が起きているのは明らかだった。


《あ……ぐ、うぅ……。な、んなの、……!? 急に身体が動か、ない。気持ち悪い……、心臓が痛い……》


ヴォイドエネルギーが尽きた……? でも“カンゴク・ロック”は……》

《ヴォイドを使ってないって言ってたよな。でも何で──っうおぉっ!?》



 ──キャアアアアァァァ……!



 謎の現象に戸惑う中で、ふと見せてしまった僅かな隙。エターナルの体当たりを間一髪のところで回避出来たものの、罠の範囲内から逃してしまう。

 突然のノックアウト。さらに体調悪化までもを訴え始め、もはや訳が分からない。


《何々どうしたの!? エターナルがこっち来てるけど!?》

《悪ィ、大河の野郎がしくじりやがった。とにかく今はサブプランに移行するぞ!》

《嘘でしょォ!?》


 事態の変化に気付いた鞠華にことの経緯を簡潔に説明し、第二プランへの移行を指示する。

 ノベライザーが居なくなってから起きた謎の現象。それを解明出来る暇も力も無い今、やるべきことをやるだけである。


《匠はまだドレスと戦ってる。ボクらと紫苑でやるしかない!》

《ああ、やるぞ!》

《オッケー。ちょっとこっちのアームに異常出ちゃってるケド……気にしちゃいられないよね!》


 それぞれが覚悟を決め、エターナルへと向かう。

 ノベライザーが戻るまでの辛抱。それまで何としてでも耐えるのだ。






 移送のミッションを終え、急いで戦場へ戻るノベライザー。だが、状況は芳しくないことを悟っていた。


『……まずいです。大河さんが拘束に失敗したようです』

「え!? なんで?」

『理由は現在不明です。ドレスも消え、一目見て分かる戦闘不能状態にあります。もしかするとやられてしまったのでしょうか? とにかく状況は良くありません』


 得られた情報に驚愕するカタリ。憶測も曖昧なものばかりで信用に値しない。

 たった数分間離れただけで戦況は徐々に劣勢へ傾きつつある。ドレスだけではエターナルをどうにかすることは出来ない以上、一刻も早い到着が求められる。


 ノベライザーのスピードをさらに上げ、現場へと向かう。すると見えてくる蠢く黒い糸束とそれを追いかける四機のアーマード・ドレス。


『皆さん、お待たせしました!』


《あっ、やっと来た! バーグさん、大河が──》


『状況は分かっています。すぐに調べて対策するのでもうしばらくエターナルを引きつけておいてください。カタリさん』

「うん、行こう!」


 到着早々現場を鞠華らに任せ、作戦が失敗した原因の究明に急ぐ。

 倒れるゼスタイガの下へ近付くと、すぐに問いかける。


『大河さん? どうかしたんですか!?』


《……っぅ、全身が、とにかく痛い……死にそう……》


『一体これは何の症状でしょうか。本人には大した病歴も前兆もなかったのに……。昨日の症状の悪化? いや、それにしてはあんまりオーバーというか何と申しましょうか』


 弱々しく発する声はとても痛々しいもので、あの高慢な人物像はどこにも見られない。それほどまでに症状が強いのだろう。


 これが昨日から起きている体調不良が原因なのではないかとすぐに思いつく。

 しかし、それにしては症状の勢いがあまりにも強すぎる気がしていた。違和感とも言うべきか、それが真の理由ではないと察する。


 何故にいない間に起きてしまったのか。その答えを先に導き出したのは──


「もしかして……。バーグさん、大河もエターナルの媒介者ベクターなんじゃ……?」

媒介者ベクター……! そうか、そういうことなら辻褄が合います! 大河さんは最初に爆破された時にドレスを奪われ、そして意識を失っていた。それは追い剥ぎの被害者らと症状が酷似しています。うはぁ、何でこんな簡単なことに気づけなかったんでしょう私は!』


 カタリの推測はバーグが悶々と抱く違和感にぴたりと当てはまったようだ。

 概念に干渉できるエターナルならばアーマード・ドレスを脱がすことで間接的に大河を媒介者ベクターにすることも可能。機体に守られているという前提の裏をかいた完全な盲点だ。


 今の症状はおそらく、132名もの媒介者ベクターからの接続を遮断した結果、隠された最後の一人である大河に全員分の負担が集中してしまったからだと考えられる。

 このままではいずれどうなってしまうか分からない。すぐに裏世界へと移送する。


『大河さん。あなたはどうやら最後の媒介者ベクターだったようです。残念ですがここで戦線から離脱していただきます』


《……そう。なら仕方ないわね》


『意外ですね。私の予想ではゴネるかと思ったんですが、違ったようです。ちょっと見直しました』


《ほんっと発言の一つ一つが失礼ね、アンタは。さっきよりかはマシとはいえ、気分が悪いことには変わりないし、それにここに居れば安心なんでしょ? 世界が滅んでアタシのことを誰も注目しなくなる未来が来るよりかだったら、ここで黙って次に繋げる方が良いことくらい分かってんだから》


 裏世界での待機を命じると、意外なことに大河は素直に聞き入れてくれた。

 思っていたよりもすんなりと受け入れたことに意外性を見るバーグ。どうやら世界の危機を前にしては、いつもの高慢さも鳴りを潜めるようだ。


 ゼスタイガから“カンゴク・ロック”を回収すると、ノベライザーは急いで現世に戻る。

 大河の脱落によりメインプランは失敗してしまったが、まだ第二、第三の作戦は残っている。それでエターナルを仕留める他にない。






『皆さん、お待たせしまし──って、まさか……!』

「うわぁっ! な、何だこれ!?」


 現世に戻るや否や、ノベライザーは陰る。それは比喩ではなく、文字通り大きな陰が街全体を覆い尽くすほどの巨大な物体に光を遮られていたのだ。

 そう、エターナルの切り札である文字化爆弾化。それが始まっていたのだ。


《あっ、戻ってきた! 大変だよ、エターナルが!》


『そんな……内部のヴォイドが急激にエネルギー変換されています。このままではあと数分で爆発してしまいます!』


 瞬間解析により、現状がどれほど危機的なのかが判明する。

 エターナルは最初の時と同様に巨大な毛糸玉を思わせる球体へと身体を纏め込ませ、風船のように大きく膨らんでいる。その直径はすでに100mを越え、さらに倍増していく。

 ヴォイドの供給は止めたものの、既に手遅れだったようだ。


《バーグさん、どうすればいい? こんなに大きいともうボクらじゃどうしようもないよ!》


『あの大きさの前では“カンゴク・ロック”の拘束攻撃はゴミ当然です。爆弾する前に押しきらなければドカンとなって世界は文字化されてしまいます! こうなったら致し方ありません。切り札を使います。嵐馬さん!』


《な、俺か!? 切り札とか何も聞いてねぇんだが!?》


 逼迫した状況を逆転するための打開策として、嵐馬を呼ぶ。

 すでに例の物は渡している。そのこともすでにカタリを通じてバーグとトリに伝えていた。


 そう、今こそ継承の儀を行い、この世界の力を受け取るのである。アーマード・ドレス“ゼスランマ”の力を。


『あなたにはカタリさんから受け取った栞を持っているはずです。それに願いを──』


《ちょ、ちょっと待て。栞なんて持ってきてないぞ?》


「え……、えぇ──!?」


 が、ここで更なるハプニングが発生。

 なんと前もって常に持っておくことを伝えていたはずの栞。それを嵐馬は気にせずどこかに置いたままにしていたらしい。


 この事態にバーグ、そしてカタリもLSB中継中であるにも関わらず大声を上げてしまう。

 これでは継承が出来ない。おまけにどこにあるかも分からない以上、戻って取ってくるなど無謀を極める。


『どどどど、どうするんですか!? もう時間ありませんよ! 何で持って来ないんですかぁぁ!』


《俺のせいかよ!? 普通余計な物なんて持ってこないだろ!》


 予想外の出来事にパニックを起こすバーグに言い訳がましく反論する嵐馬。

 このままでは世界の終わりは止められない。代わりの栞を渡す暇もすでにない。


 その間も膨らみ続けるエターナル。もはや絶望のゴールを前に誰もがこう思った。



 ここまでか──、と。




 だが、そこにたった一人だけ諦めない者がいた。それは──




《うおおおおッッ!! “聖なる壁よ、我が障害となる全てを阻めウォール・マギア”ッッッ!!》



 桃色の軌跡が空の爆弾に向かっていく。そして展開される巨大な魔法陣バリア。しかし、それでもエターナルの全幅の半分にも満たない。

 “マジカル・ゼスマリカ”が持つ大技が一つ。力の全てを魔法の障壁に変換し、それで文字化を止めようとしているのだ。


《やらせない、やらせるもんかッ! この世界を終わらせてたまるかッ! まだ出来てないこと、やりたいことはたくさんある。それが出来ないまま終了だなんて嫌だ!》


 思いの丈を爆発させるかのように吐き出しながら、鞠華は魔法陣の維持を継続し続ける。

 この世界に生きる者の一人として、何も分からない存在に世界を破壊されるという結末を全否定するのは当然。例えやっていることが無駄であろうと気付いていても、これを止めて諦めるという選択肢など鞠華の中にはない。


《動画の再生数一億とか出してみたい! コラボ商品のレビューだってやりたい! コミサのリベンジだってまだなんだ! ……それに──》


 バリアは徐々に膨らんでいくエターナルによって圧迫。さらにヴォイドを吸収されて脆弱さを増していく。

 それでもなお、鞠華は諦めない。世界崩壊への絶望が目の前にあっても、その恐怖を押し退けて叫ぶ──



《ボクは……日本で一番の女装ウィーチューバーで、LSBのアクターで……、そして今は! 世界を護るヒーローなんだあああぁぁッ!!》



 その瞬間、どこかで何かが瞬いた。

 閉じられていた封印を破り、限界まで張り詰められた弦から解き放たれた矢の如きスピードでゼスマリカのコントロール・スフィア内に異物が入り込む。


《……!? これは……!》


 目の前で急制動したそれは栞。青と水色をした括弧の符号が描かれた見覚えのある物。

 そしてすぐに思い出す。これは嵐馬から渡された小説に挟まれていた──。


『なっ、栞!? 何故鞠華さんに……そもそも自動で継承者の下へ行くなんて──いや、追求は無しです。もう時間がありません。鞠華さん、その栞を手にしてください! 今のあなたなら使えるはずです!!』


 驚きを見せるバーグの声。それに動じることなく言われた手順に応じる。

 浮遊する栞を掴む。すると、その絵柄に変化が生じ始めた。


 括弧の絵は消え、代わりにピンクのお姫様を模した機体の姿が浮かぶ。それはノベライザーにも同一の栞が生成されていた。


「……来た! バーグさん、行こう!」

『はい、ノベライリングです!』



 カタリも同様に栞を掴むと、それを目の前のスロットに挿入。モニターに映る設計図プロットはメディキュリオスフォームとも神牙フォームとも違う新たなフォームのノベライザーの姿が。

 想いは形となって、世界の救世主たる少年の下へと受け継がれていく。



「──ノベライリング・ゼスマリカッ!!」



 新たな力が承認された刹那、エターナルを目の前にするゼスマリカからピンクの鎧にも似た影が出現し、ノベライザーの下へと向かう。


 同時にノベライザーは自らその影へと接近していく。それを求めるかのように手を延ばすと、その青い巨腕に影は装着された。

 そしてさらに複数のパーツに別れた鎧は脚や胴体などに合着。青の身体に煌びやかなドレスとなって実体を顕現させていき、ティアラを象った頭部装甲を戴く。


 最後にバイザーの『ゼスバーグ』の文字は『ゼスマリカ』のショッキングピンクの五文字へと投影し直された。



 栞に描かれたロボット『ゼスマリカ』。その力が今、スロットを介してノベライザーへ継承されていく。



『ノベライザー・ゼスマリカフォーム、完成! いざ、進出です!』

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