Live.14『もう何も着ていない? ~WILL THE NEW POWER BE THE TRUMP CARD?~』

「……昨夜“ネガ・ギアーズ”から共闘を結ぶ連絡が来た。すでにカタリ君と嵐馬君には伝わって──いや、本人たちから直接話は聞いているネ?」


 翌日、早々に支社へ呼び出されたアクターとカタリの四人。

 内容は昨日の邂逅で話していたことと変わりなく、二つの対立組織が共闘するという異例のタッグを組むことになる。


 ウィルフリッドからの重々しい問いにしっかりと頷いて肯定を示すのは、紅匠と直接出会ったカタリと嵐馬だ。

 だが、ここで一番気になるのは匠の言っていた条件というもの。それの内容によってはこの話を蹴ることも視野の範囲内にある。


「それで、相手からの条件って何なんですか?」

「うむ。だが、その前に一つ言わねばならないことがある。先日、本社のラボで秘密裏に製造されていた六番目のインナーフレームが輸送中に消失した」

「消失? それってどういう……」


『……はい、検索出来ました。どうやらネガ・ギアーズの手引きによって事実上の譲渡が成された可能性が高いです』


 他の一同が疑問に思う中、バーグはインカム越しにこっそりと教えてくれた。

 つまり今のネガ・ギアーズにはゼスシオン、ゼスタイガに次ぐ三つ目の機体を保有しているということだ。


「条件の一つに言い渡されたのは、その六番目となるインナーフレームの所有を認めろという旨の内容だった。これを私は認めようと思っている」

「正気か? 敵に塩を送るようなことしてるって、アンタが一番分かってんだろ?」

「勿論だ。そもそも機体はすでに敵の手に落ちている。奪還は全ての始末が終わってからでも遅くはないだろう。そう思っての判断だヨ」


 手に持つタブレットを見ながら一つ目の条件を口にする。

 その内容は最新鋭機の譲渡。一発目からとんでもない内容の条件を突きつけてきたものである。


 数でこちらと並び、さらに最新鋭機ともなれば総合的な戦力に差が付くことになる。もっともすぐに敵になる訳ではなさそうではあるが。


「二つ目だ。バーグ君、対エターナル用の作戦はどこまで出来上がっているかネ?」

『メインプランなら今すぐにでも実行可能です。一応サブプランと“ネガ・ギアーズ”と共闘するか否かで作戦を切り替えたり変更したり……の場合を考えての予備作戦はレベッカさんらと作成中です』

「いつの間に……」


 不意に話を振られるも、それにしっかりと求められた回答をするバーグ。

 知らぬ間にレベッカらと共同で作成しているエターナル用の作戦プラン。それが大方完成済みということらしい。


「共闘を結んだ場合、作戦会議などにあちら側のアクターも参加するそうだ。その際に、拘束や逆探知などの行為は禁ずる……つまり身の安全を約束することらしい」

「まぁー、そうなっちゃうか。仮にも敵の領地に来るわけだしぃ? まぁまぁ予想してた通りね」


 二つ目は味方をしている内はこちらも相応の対応で接するというもの。

 百音の思っている通り、これは予想の範囲内にある。こればかりは仕方ないとばかりに諦めるしかない。


 ちっ、と嵐馬から舌打ちが聞こえ、内心の気持ちを読み取れてしまう。敵を一掃出来る千載一遇のチャンスを対策され、悔しさが募っているのだろう。


「……最後はノベライザー、つまりカタリ君らに宛てられている。私ではなく君らの許可がいるのだ。これを読んでどうかを答えてほしい」


 するとウィルフリッド。タブレットをカタリへ向けてスワイプすると、バーグの元にメッセージが届く。

 支社長にではなくカタリらに向けられた条件とは一体何なのか。もしや昨日のスカウトの件をそのまま出してきたのだろうか。


 届いたメッセージを開き、その内容を確認する。


「これは……えーっと、う~ん。ど、どうする? 僕はいいけど」

『ぬぬぬ、ちょっとこれは、いえ私個人としても構いませんけど……。これは技術的な問題ですね』

「え、どんなの? ちょっと見せて」


 内容を確認した途端、二人の表情はいやに歪む。口では許可をほのめかす発言をしているものの、どこか乗り気ではない様子。

 それが気になった鞠華。横からタブレットをのぞき込んでみることに。


「……の作成!? 何ソレ!?」


 少なくとも、ここにいるドレス関係に属する人間にはこの条件はあまりにも意味不明な内容が綴られているのだった。











 数日後、浦安市。

 ここへ来るのは前回のLSB以来数日ぶり。相変わらず被災当時の生々しい痕である瓦礫があちこちに散乱している。

 だが、ここにはつい最近新しい戦いの跡が生まれた。そこが今回の待ち合わせ場所である。


「……ところでだけど、本当にボクで良かったの?」

『うーん、そうおっしゃられると不安な気もしてこなくもないですね』

「ちょっとバーグさん。それ少し失礼じゃない?」

『冗談です』


 狭いコックピットの中、鞠華はいつになく不安げな様子で今回の同行を疑問に感じている。


 何故ここに鞠華がいるのか──と問われると、先日の条件内容にオズワールド組から一名を同行させるよう記載されていたからだ。

 結果として組織の代表に選出され、こうしてノベライザーに乗せてもらっているということである。


 しかしながら基本一人乗りでの稼動を想定している本機体。二人だと密着して乗らねばならないため、自ずと肌と肌が近くなる。


「鞠華って思ってた以上に女の子の匂いがする……」

「え? 何か言った?」

「いやいや! 何にも言ってないよ! うん、何も」


 ぼそっと小声で呟いてしまった本音。危うく本人には届かなかった様子。

 いくら同性とはいえそのような言動を聞かれてしまえば引かれてしまうのは確実。難聴の奇跡に感謝している中──


『じー……』

「……はい、ごめんなさい」


 バーグからの冷ややかな目。彼女あいかたには聞かれてしまっていたらしい。

 軽蔑にも等しい目線が痛い。発言は全て筒抜けなのではないかという疑惑が生まれているのを確信するのであった。




 そんなこんなで目的地へ到着。瓦礫の海にぽっかりと開けたクレーター。その中に目印と言わんばかりに二機のアーマード・ドレスと、その下に二人の人物が立っている。

 片方はインナーフレーム姿のゼスタイガ。もう一機は見たことのない機体──それが六番目のアーマード・ドレスであることは一目見て理解出来た。


 瞬時のスキャンによってかの機体の名称が《XESーTINY》と表記される。


「もしかしてが……」

『ええ。例の六番目“ゼスティニー”で間違いなさそうです』


 黒地に赤いラインのインナーが纏うドレスはまるで軍服を彷彿とさせる意匠をしており、武器にもなるであろう軍刀を帯刀している。モチーフは軍人──といったところ。

 最新鋭機から放たれるくオーラはまだ一戦もしていないであろうにも関わらず、歴戦の機体にも劣らない気迫を感じ取れる。


 そんな機体らの前にノベライザーは着陸。バーグによる操作で二人のパイロットを地面に降ろす。


「よく来てくれた。カタリィ・ノヴェル、リンドバーグ、そして逆佐鞠華。ここに来たということは条件を全て飲むということで間違いないな?」

「ああ、支社長さんも条件を飲むって。これが証拠だよ」


 対峙からの問答。鞠華は懐から一枚の紙を取り出し、それを掲示した。

 これは支社長がサインをした“ネガ・ギアーズ”との協定を結ぶ契約書。三つの条件を認める旨の内容が記載された書類だ。


 出された書類の確認のためか匠は一行に接近。一瞬身構えてしまうも、何をされるわけでもなく、ただ書類のみを取られてしまう。

 それに目を通し、改めて条件を容認したことを認む匠。書類を仕舞うと後ろを振り向いた。


「では早速だが本題に移ろう。飴噛、こっちへ」

「はいはい、今行きますよーっと」


 後方で待機していた大河を呼び出すと、言われた通りにやってくる者がいる。

 黒いゴスロリ服に身を包んだ茶髪の美少女──否、女装少年。彼がゼスタイガのアクター、飴噛大河である。


 本人を目の前にするのは勿論のこと、言葉を交わすのだって初めてだ。

 性格面のことを含め、鞠華にも勝るとも劣らない女顔びぼうの持ち主を前に緊張の面持ちで会話に望む。


「アンタがゼスバーグの本当のアクターね。アタシが飴噛大河よ。敵に情けをかけられたなんて正直腹立たしいケド……まぁ、アンタのおかげでこうして生きれてるわ。一応感謝はしとく。……でも勘違いするんじゃないわよ! あの時はアンタに負けた直後に襲われたからやられただけで、完璧な状態の時なら勝てたんだから!」


 目の前にまで移動してきた大河は、感謝の言葉を述べてから一転、ビシッと指先をこちらに向けるとそのまま負け惜しみにも等しい発言をする。

 一通り言いたいことを言い終えるとそのままふんっ、とそっぽを向かれてしまった。


 これに対し画面の奥のバーグは鞠華共々無言で肩をすくめて呆れてしまう。

 どうやら今の発言はプライドの高い本人にとって非常に屈辱的に感じるようだ。本当は万全な状態であっても倒せない相手だとは分かっているはずなのにこの言いよう。


 命の恩人という人物の前であってもその高慢さは直らない──直せないのだろう。それがよく分かる一幕だ。


「でも元気で何よりだよ。改めて僕がカタリィ・ノヴェル。よろしく、大河さん」

「なっ、このアタシと握手なんて二万年早いわよ。でもまぁ……特別に、超特別に? 仮にも命の恩人でもあるわけだし? してやらないこともなくはないわよ。……ホラ」


 ともあれ挨拶をされたからには返さなければ無礼と言うもの。カタリも自己紹介と同時にスッと手を前に出す。


 すると大河。何やらぶつくさと言いながらも何だかんだでこの握手に応じてくれる。

 人との友好を示すハンドシェイク。繋がった手を固く握り、やはりただのツンデレなんだなぁ~という再認識をするのだった。



「先日の礼はこれくらいにしておけ。いい加減本題を話し合わなければならないからな」


 そして今まで沈黙していた匠がついに話を切り出してくる。

 ここにカタリらがいる理由、それは『ドレスを作る』ため。それの理由はまだ聞かされていない。

 もっとも──大体の理由はゼスタイガを見れば分かるのだが。


『常々気になってはいましたが、そちらの機体は──』

「フッ、理由は大方察しはついているのだろう。ゼスタイガのドレス“ブラック・ローゼン”は失われたのだ」

「ドレスが失われた……?」


 匠の発言に首を傾げるのは何もカタリだけではない。鞠華もその言葉の意味を理解出来ていなかった。

 そもそもドレスというのは自立稼動しなくなったアウタードレスだ。換装ドレスアップによる出し入れは可能でも勝手に動いて失踪するなどということはあり得ない。つまり──


「エターナルに奪われた……ってこと? でもそんなことありえ──」

『ますね。どうやらエターナルは人だけでなく、アーマード・ドレスさえ追い剥ぎの対象にするようです』

「……あー、そっか。そういえばそうだったね」


 バーグの頭脳はこの不可解な現象をいち早く解明していた。釣られてカタリも意味を理解する。

 この世界で起きているもう一つの現象。服だけを奪う変質者の話はエターナルが一連の事件の犯人であると判明している。

 トリの水面下の活動により被害者は“東京ディザスター”の被災者に限られていることもそう。ヴォイドの塊であるドレスも対象内なのは新発見だ。


『となるとこちらも対策をしなければなりませんね。ドレスを奪う力がある以上、普通の物では対処のしようがありませんから』

「同感だ。異世界の力とやらでエターナルに奪われることのない強力な一着を頼もう」

「このアタシに相応しいドレスに仕立ててちょうだい。そうねぇ……“美しさと強さを兼ね備えた最強のドレス”ってトコかしら?」

『いや別に要望とか訊いてないんですけど……』


 相手方はずけずけとリクエストを申し出てくるのを、呆れ半分になりながら不満げに突っ込みを入れる。

 しかしながらエターナルに奪われないというのは重要だ。後々の作戦でそれは大いに役立つことだろう。


 最強のドレス──というのは流石に難しいものの、エターナル対策という意味では最高の物を作り上げることは同意出来る。

 リクエストはそこそこに参考にしつつ、まずはアイデアを出していく。


「最強……うーん。服ってあんまり関心ないからなぁ」

「ボクのはお姫様プリンセスと魔法少女、ランマのは女番長スケバンとメイド、モネさんはサンバとウェスタン……」

『ネガ・ギアーズ組は軍人、ミイラ、ゴスロリですね。う────む……』


 話し合う三人。それぞれが所有するドレスを思い出しながら考えにふける。

 流石にモチーフ被りは大河本人が文句を言いそうなため、なるべくオリジナリティの強い服装をイメージする。そんな中でノベライザーは突如として機能を停止し、コックピットから何かが降下してきた。


「お話は訊いています。新しいドレスの作成なら私に良い案があります」

「うわっフクロウ!? が、喋ってる!?」

「あれ、鞠華さんってトリさんを見るのは初めてだったっけ?」

『支社長さんとレベッカさんは知ってますけど、考えたら他のアクターの皆さんには会わせたことはありませんでしたね』


 現れたのはトリ。その存在を知らなかったのか、鞠華は信じられない物を見るかのような目で降りてくる小動物に仰天する。

 思えば出撃時以外は外で情報の収集やエターナルの捕捉などを担っているため、鞠華たちとは行き違いになっていたのだ。それではいるものも分かるまい。


 そんなトリは手早く鞠華や他のアクターたちに挨拶を済ませると、早速その良い案とやらを提唱する。


「大河さんはファッションはお好きですよね。その着こなしからして相当なセンスの持ち主とお見受けします」

「あら、鳥のくせによく分かってるじゃない。そうよ、アタシは天才。まずゴスロリファッションなら誰にも劣ることのないセンスを持ち合わせて──」

「なので過去に流行ったファッションスタイルなどを参考にするのはどうでしょう」

「人の話聞きなさいよ!?」


 褒めつつスルーというテクニックで翻弄しながらの提案。それにバーグは軽く考え込む。


『良いですねそれ。では早速過去数十年間の若者の流行りを──はい、調べました』

「早っ。それはそれとしてどう? 何かあった?」

『ええ、少しばかり古いですが、ドレスにすれば最強クラスの力になりそうな物が見つかりましたよ!』

「へぇ、それは楽しみね。で、どんな服装なのよ」


 超高速検索を発揮し、高らかな謳い文句で太鼓判を押すバーグの言葉に、大河本人も若干の興味を示す。

 掘り出したゼスタイガのニュードレスのアイデア。それは一体何のファッションなのか。それは──


『じゃん! “ヤマンバ・ガングロ”ファッションです!』

却下ボツ──────!!!!!!!!!!」


 ばばん! とおまけのようなSE付きでおすすめされる画像。

 真っ黒に焼いた肌にまるで妖怪、あるいは未開の民族化粧じみたドぎついアイメイクをした女性の写真。


 もはやお洒落というよりかは威嚇のための化粧なのでは? と思わせるほどの強烈な一枚。現若者世代の鞠華やファッションに疎いカタリも思わずギョッとしてしまう。

 そんなアイデアを見て大河、光の早さで却下。


「何よソレ!? ほぼバケモノじゃないの! 真面目に考えなさいよ、フザケてんの!?」

『何を言いますか! 四半世紀も前のものですがこれも歴とした若者文化ファッション。だって見るからに強そうじゃないですか! それにゼスタイガの黒とガングロってそう変わらないですし』

「アタシのゼスタイガとそんなのを一緒にしないでちょうだい!? 絶対バカにしてんでしょ!」


 僻地のクレーター内でぎゃあぎゃあと騒ぎ立てるAIと女装少年。

 まるでカラスのやかましい鳴き声の如く、耳をふさいでしまうほどの口喧嘩が勃発。匠とトリ大人組も「収拾がつかなそうだ」と言わんばかりに呆れたご様子。


「いい? アンタはアタシのために強いドレスを作るの。それには今回の協定条件も含まれてるんだから大人しくアタシの言うこと聞きなさいっての!」

『それを言うなら設計デザイン造形モデリングの担当は私なんですよ! 添えられない要望もあるんですから、そちらこそワガママを押し通そうとしないでください! お子様ですか!?』

「なにを──ッ!!」


 我の強い者同士である二人の相性はかなり……否、最悪であることは一目瞭然だった。

 そして、肝心のドレス作りはその二名による意見の衝突によって遅延による遅延を繰り返したのは言うまでもない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る