Live.11『滅亡の糸は織り始める ~FATE CONVERGES IN ANOTHER WAY~』
正体不明の敵の出現。それにより逃走を図ろうとしていた“ネガ・ギアーズ”組も一旦止まってしまう。
上空を旋回する謎の繊維状の敵。アウタードレスとはまた違った異質さを持つ存在『エターナル』。それが妙に気になってしまうからだ。
《あれが、世界を滅亡させる敵?》
《タクミが言ってたやつね……。そんなのはマリカスらに任せとけばいいわ。今は戻るべきよ》
紫苑と大河、二人の上司たる『タクミ』からLSBの新メンバーの事情をいくつか得ている。それは勿論、この世界に現れた天敵のこともだ。
エターナルの撃破は二人の任務には当てられていない。故に共闘する理由もないため、戦線の離脱が最も優先される。
大河の言葉で動くゼスシオン。戦闘不能となったゼスタイガを抱え上げて密かに逃げ去ろうとする──が、闖入者はそれを許さない。
──キャアアアアアアアアァァァァァァァッッ!
《なっ……!》
《タイガ、あぶない!》
オズ・ワールドのドレスを無視し、急遽“ネガ・ギアーズ”組を標的に襲いかかる。
蛇の様なぬるぬるとした動きで素早く迫り来るのを、ゼスシオンは咄嗟に
奴の標的はゼスタイガ──先端の紅く発光する部分が口のように開き、機体に噛みついたのだ。
そのまま上空高く連れ去られ、あっという間に数十メートルの位置で旋回を再開させる。
《うぐぅぅ、離せっ! 気持ち悪いってのよ、この野郎ォ!》
《あいつ、ドレスを食う気か!?》
《そんな……いくら“ネガ・ギアーズ”であってもそんなことはさせない!》
『あっ、エターナルへの無闇な接近は危険ですよ、鞠華さん!』
嫌な予感が鞠華を突き動かす。エターナルという完全に未知の敵が起こそうとしている結末を防ぐべく、制止を振り切ってゼスマリカはステッキに跨がって空を飛ぶ。
ゼスタイガが拘束から脱しようと足掻いている様子が確認出来るが、エターナルの特殊な身体は触れようとしても水中の砂を掴むかのように手から溶けて離れていく。
鞠華はエターナルと併走して先端部分へと向かい、そこで藻掻く機体に手を伸ばす。
《大河ーッ! ボクの手に!》
《なっ、誰がマリカスの手なんか! あんたの助けはいらないわよ!》
《相手は世界を滅ぼす敵なんだぞ! こいつが本格的に動いたら動画どころの話じゃなくなる。そんなわがまま言ってる場合じゃないだろ!》
《うるっさい! マリカスは黙ってなさいよ!》
救出をしようとするも大河のプライドは空気を読まずに発動する。
差し伸ばす手を払い退かし、聞く耳を持たない。説得も意味をなさないままに、ゼスタイガはドレスを召喚する。
その瞬間、ドレスの能力により曇天の空から集められる力が傘に集い、エネルギーの塊をそのままエターナルにぶつける。
《“
《ぐっ、この頑固者ぉッ……!》
その威力は先ほど使用したものとは威力が落ちているものの、ゼスマリカを吹き飛ばすには十分の威力を誇っていた。
繊維状の身体のエターナルは、その一撃を内部から受けると、まるで内部から裂けてしまうかのようにその姿を霧散させてしまう。
姿を消失させたエターナル。拘束から解放されたゼスタイガは傘を開いて滞空する。
《ふんっ、マリカスの助けなんか最初からいらないってのよ!》
《エターナルが……やったか!?》
《あっ、嵐馬くんそれデジャブだよ!》
「フラグを立てちゃうのか……」
が、地上では嵐馬が余計な一言を口走ってしまっていた。
『反応……消失していません! エネルギーの反応を検知……って、ミュウト級なのにどうしてここまで膨大なエネルギーが……? ダメです、あれを食らったらいくらドレスを着ていてもタダでは済みません!』
《そんなっ……! 大河、逃げろッ!》
《え──》
────キャアアアアアアアアアアァァァァッッッッ!!
その報が全機に伝えられた瞬間──散り散りとなったはずのエターナルは身体を再構築させて姿を現し、再度ゼスタイガに噛みついた。
《うぐうううッ……!? な、何なのよォ……!》
目で追うのも困難を極める程のスピードで空を駆け巡り、機体へ凄まじいであろう圧をかけていく。
そして──数百回にも及ぶ旋回の後、機体を解放。中空に放り投げるとその真下からアッパーカットの如き体当たりを決め、そのままゼスタイガを中心にエターナルが纏まり始めた。
元々糸束のような身体をしていたそれは、まるで毛糸の玉でも作るかのように巨大な球体を形成していく。
曇天の空に現れた球体。それにアクターたちが何も出来ずにいる中、バーグの解析で予測の結論を弾き出し、結末の回避を指示する──が。
『カタリさん、早くゼスタイガを──』
その瞬間、世界が一瞬光に包まれた。
†
「痛っつぅ……、皆大丈夫?」
《ああ、俺らも無事だ》
《いったぁーい、もう何が起きたのぉ?》
それが起きてから、ゼスマリカは瓦礫の中から姿を現した。どうやら僅かばかり気を失っていたらしい。
嵐馬も百音も同じく先ほど起きた現象の被害を被り、こうしてお互いに安否を確認している。
一体今しがたに何が起きたのか──それを再度理解しようとしたところで、ゼスバーグことノベライザーがどこにも見当たらないことに気付く。
が、それはすぐに杞憂に終わるのだが、それとはまた別に驚かされることとなる。
『……っ、これでどう?』
『いえ、大河さんの心音は微弱のままです。このままだと心肺停止は避けられないでしょう。もっと回復のイメージを込めて』
瓦礫の山を乗り越えると見える広大な大地の窪み。その中心に二つの機体があった。
青の姿はノベライザーのノーマルフォルム。そして、その目の前で結界のようなうっすらと輝く膜の中に黒の機体が横たわられている。
それはゼスタイガ──なのだが、その姿はドレスを纏っていないどころか手足が欠損し、ほぼ全壊の状態だった。これには鞠華らも驚きを隠せない。
「バーグさん、カタリ君! これって……」
《ひでぇ……。ほとんどブッ壊れてるじゃねぇかよ》
『仲間である皆さんを無視してしまったのは申し訳ありません。ですがエターナルの爆発を食らってしまった大河さんは瀕死の状態にあります。いくら敵とはいえ無視は出来ませんから』
『生き物の回復のイメージが中々掴めなくて苦戦中だけどね……。他のみんなは大丈夫?』
「うん。でもまぁ、生きてて良かった。もし死んじゃったら大河のファンも悲しむだろうし」
《鞠華っちは優しいねぇ♪ そういうトコ、アタシは好きだよっ☆》
見るも無惨な姿となったゼスタイガのアクターはまだ生きていることを知り、一応は安心する鞠華。
悪の組織の一員だとしても、人が死ぬのを黙って見てはいられない。今、この場に異世界の放浪者であるノベライザーがいたことを心から感謝しておく。
それはそれとして、バーグが口にしたエターナルの攻撃方。それは爆発である。
ゼスタイガを中心に巨大な球体となったエターナルは、身体そのものを爆弾としてエネルギーを放出。それにより浦安の瓦礫地帯は一掃され広いクレーターを作り出した。
全員の現在地は爆心地の真下。空で爆発したにも関わらず、大地をここまで大きく抉る威力をゼスタイガは直撃で受けた。完全に消し飛ばされなかったのは奇跡的とも言える。
《それで、今エターナルは?》
『……ゼスシオンが引きつけています。上空を見ていただければと』
「紫苑が……!?」
報告を受けると、鞠華らは空を見上げる。
ゼスタイガによる影響が消え、晴天に戻った空の上には黒い蛇のようなエターナルの相手をする白いアーマード・ドレスが空中を跳び回っていた。
全ての機体がデフォルトで持つ機能によって作り出せるバリアの足場を作ってはそれに飛び乗り、注意を引きつけている。
大河の回復を条件に協力しているのは明らか。もはやこの状況、敵味方の区別をつけるのは無粋ということだ。
「……ッ、紫苑だけ危ない目に合わせるわけにはいかない。ボクも行く!」
『お願いします。ご武運を』
すると鞠華。再び機体をステッキに跨がらせ、飛行させる。
無論、それをカタリたちは止めない。ここにいても出来ることがない以上、向かわせるのが道理だと判断したからだ。
一人で戦うゼスシオンとの共闘戦線。鞠華は迷わず向かう。
「こっちだ、エターナル!」
《……っ、まりか!?》
最接近からの挑発。これにより先端の赤色がゼスマリカへ向けられ、注目を奪うことに成功する。
ヘイトを集めた今、次にすることは全力で逃げること。下へ降りさせないよう注目を保ちつつ、ノベライザーが戦線に復帰するまで耐えるのだ。
「紫苑。君が“ネガ・ギアーズ”だったのは驚いたけど、今はそんなこと気にしちゃいられない。色々言いたいこととかあるけど、世界の危機が迫ってるからね、今だけは協力してよ」
《……ふふ、まりかは優しいなぁ》
「それ、さっきも言われた」
小さなやりとりをし、お互いに共闘の意志を見せる。
鞠華にとって紫苑というアクターの正体を知ってしまったのは
捕まれば最後、ゼスタイガと同じ結末を辿るのは確実。
繊維状の身体に触れないよう気を付けつつ、敵の注意を引きつける。隙を突いては攻撃を繰り出していき、着実にダメージを重ねていく。
《“
ゼスシオンの攻撃。鋭利な爪から繰り出される黒い衝撃波をぶつけるも、まるで効いていないように悠々と空を泳ぐ。
アウタードレスですら一撃で葬りさる攻撃すら通じない相手。注意を引き続けるだけでも精一杯なのだが、そんな中で予想外のことが起きてしまう。
──キャアアァァァァ……!
「なっ……おいっ、こっちだ! 下に行くなぁ!」
するとエターナル。またも唐突に行動を変化させた。
いくら攻撃を当てても意識をこちらに向けてこない。そのままノベライザーがいる方向へと一直線へと進んでいく。
下を見やるがまだゼスタイガの修復は完了していない。邪魔をされれば回復が出来ず、一刻の猶予もない大河自身の命も危うくなる。
「そんなことさせないッ!」
《まりか!》
“
ここまでか──そう思った矢先、またも予想外のことが。
《“抜刀一閃・灘葬送”ォ!》
──キャアアァァァ!!
突如としてエターナルに接近した影。それが持つ刀が相手の頭部に入り込み、そのまま繊維状の身体を切り裂いていった。
これによりダメージを負った様子のエターナル。新たに現れた存在の方へ意識を向け、そちらへと飛んでいく。
この技はゼスランマのもの。つまり──
《何やってんだ鞠華! 敵を引きつけるのが役目だろ!》
「嵐馬!? 来てくれたの?」
《アタシもいるよーん☆》
「モネさんまで!」
嵐馬の声が鞠華を叱咤する。その近くにはゼスモーネもあり、その二機も同じようにバリアを駆使して空中戦に参加するようだ。
絶賛ゼスランマを追いかけ回すエターナル。嵐馬も巧みにバリアを使いこなし、跳躍からの足場生成、そしてまた跳躍……とヘイト役として立派に務めを果たしてくれている。
二人が参加してくれたことにより負担はさらに軽減され、さらに戦いやすくなる。後はノベライザーの復帰を待つのみだったのだが──
《しまっ……!?》
「紫苑!?」
ほんの僅かな隙を狙い、エターナルはゼスシオンに襲いかかった。
そのままゼスタイガ同様、噛みついたまま機体を連れ去り、空を旋回していく。あの攻撃の前兆だ。
このままでは先の二の舞──それも鞠華にとっては因縁の人物。それが大破してしまう未来を予感してしまう。
「やらせるかァァッ!!」
刹那“
機体が捕まる頭部付近へ接近。手を伸ばす。
「紫苑っ!」
《まりか……っ!》
大河とは違い、素直に手を取ろうとする紫苑。だが、僅か数センチのとこでエターナルは挙動を変更。接触を防ぐかのように下方へ位置を修正し、抜き去っていく。
ピンクと黒の尾が交差し、螺旋を描きながら進むデッドヒート。他の二機が追いつけないスピードで繰り広げられる空の戦いは、次第に鞠華の劣勢により差を広げられてしまう。
「うっ、くそっ……! もっとだ、もっとスピードを……」
さらなる速さを求めても、機体はこれ以上応えてくれない。無力さを痛感しながら、それでも諦めず追っていく──が、その時は否応無く来てしまう。
猛烈な勢いで空中を旋回していたエターナルは、ゼスシオンを解放。そのまま機体を中心に再び球体を生成し始めた。
《あ……。ま、まり──》
「紫苑──ッ!!」
球体が巨大になっていくに連れて通信は途絶え、晴天となった空を覆いつくさんばかりのサイズへと膨れ上がっていく。
気付くと身体は動いていた。あの球体に向けて今のゼスマリカが放てる技の限りを尽くす。だが、それでも効いている様子は見受けられない。
もはや手の打ちようがない事態にまで陥ってしまった。それを実感した時、さらなる無力感と絶望に襲われ、何も出来なくなる鞠華。そして──
爆発。それを肌で感じたのは初めてだったが、今の鞠華にとってそれはどうでもよいことであった。
衝撃波に煽られ、大地へ叩きつけられる形となって着陸する。それでもダメージなど気にすることなく空を見上げた。
黒いエネルギーの残滓が雲のように滞空する。あそこがエターナルの爆心地。そして──
「紫苑────ッッ!!」
ゼスシオンの反応は消えていた。
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