Live.06『誤解したまま終われない! ~I PERSUADE HIM~』

「……なんか戦う気十分って感じだね……」

『仕方ありません。対話からしてあちらは最初から戦うつもりのようでしたし、遅いか早いかの違いですよ』


 現状にため息をつくカタリ。それもそのはず、今まで画面の奥でしか見てこなかったアーマード・ドレス三機を相手にすることになったのだ。こうなるとはついぞ思うまい。


 ゼスランマからの不意打ちを食らった後、バーグの指示で実力を推し量るためにあえて戦いを挑んでみたわけなのだが、あちらの方が一枚上手だった。ノベライザーは見事にカウンターを食らい、みすみすアウタードレスのとどめを潜伏していた他の二機に奪われるという結果に。


 だからと言って損失に繋がるわけではないが、それでも獲物を奪われたという事実は少しだけ悔しさが込みあがる。


「なにも栞の継承資格があるかどうかを今調べなくても……。そういうのは後でもいいと思うけど」

『合法的に相手の力を見るには、実際に手合わせするのが一番です。ほら、来てますよ』


 あんまり理不尽な物言いに呆れるカタリ。モニターにはゼスランマが刀を手に接近している映像が映っている。

 とにもかくにも、今は現状をなんとかしなければなるまい。諦め半分で迎撃に入る。


 幸運にも視聴してきた動画でスケバン・ゼスランマの動きは大方把握済みだ。あの竹刀のような武器を駆使して放つ必殺の“抜刀一閃・灘葬送”の威力は先ほど身を持って体感している。ここからは真の本気だ。


「技の構えじゃない。ランマの剣は……右上から入る!」


 冷静になりつつ敵の動きを予測。動画で見続けてきた攻撃の癖を見切り、その太刀筋を受け流しつつ硬化させた大爪で掴んだ。


《何っ!?》


 傍受される驚きの声は気にしない。刀を離して逃げられる前に──


「ランマの攻撃は怖いから、ちょっと離れててもらうよっ!」


 襟元の装甲を掴み、先のお返しと言わんばかりに機体を遠くへ投げ飛ばした。

 ただ投げるだけでなく、ノベライザーはその剛脚と高速移動を生かして吹き飛ぶ機体の真横まで肉薄、そのまま押し出すような蹴りを食らわせる。


 さらに能力を作動。ゼスランマが衝突するであろう位置に先ほどの戦いで使用した硬化粘着剤を創造する。


《うッ……って何ともない……? いや、機体が動かないだと!? クソッ!》

《ランマ!? くっ、このぉ!》


 謎の物体に埋まり、抜け出せない様子のゼスランマを見て、今度はMARiKAが乗るゼスマリカがこちらに迫ってきた。


「MARiKA……。MARiKAはちょっと格闘戦が得意っぽいから……こうかな?」


 こちらも動画で動きは確認済み。“ワンダー・プリンセス”と呼ばれるあの姿が放つキックの威力は侮れない。接近戦は禁物だ。

 連続してくるパンチやキックをスレスレでかわしていき、その隙を伺う。そして回し蹴りをした際に隙を見いだした。


《わっ……!?》


 蹴り最中の足先を掴むと、そのまま前へと押し出す。後方にバランスを崩されたゼスマリカはそのまま尻餅を付いてしまう。


「隙ありっ!」


《うわっ、なんだこれ!? ホッチキスの針!? ぬ、抜けない……!》


 瞬間、こちらにも能力を発動。巨大なステープルのような物体を複数創造すると、それを放り出された脚を挟むように打ち込んだ。

 地面にはりつけにされ、動けなくなるゼスマリカ。いくら脚力に自身があれど、地面深くまで打ち込まれた金具に拘束されては抜け出すのに時間を要するだろう。


「MARiKAはこれでよし。後は……」


 ちらりと見やる先にはゼスモーネ。

 三人の中で最も長くアーマード・ドレスに乗っているのはモネだということは、いつぞやに見た動画で耳にしている。それ即ちモネという人物の実力は先の二人よりも高いと推測。下手な手は打てないだろう。


《なるほどなるほどー。結構やるね君ィ? 異界の侵略者ってのはここまで理性的に戦えるんだ。──でも》


 モネの発言はしっかりと聞こえている。あちらもあえて聞かせるように大きな声で皮肉めいた賞賛の言葉を送ってくる。

 だが最後の呟きのトーンが一つ下がったのを聞き逃さない。ぞわりと感じる嫌な予感を感じつつ、その言葉の先を待つ。


《あたしは二人ほど甘くはないよん☆ ──ドレスアップ・ゼスモーネ♪》


「来る……ッ!」


 嫌な予感は的中。カタリがモネを警戒していたのは、ゼスモーネが持つもう一つの。その名を──


換装完了コンプリート、“ウエスタン・ガンマン”! ……さぁ、、顔面文字野郎》


 ドッ……と重くなるモネの口調。ごく最近の動画にあったゼスモーネ単騎でのLSBで初登場し、現状ではそれ以外に使用されたことがないのがこの形態。

 このゼスモーネが相手にしたアウタードレスは文字通り撃破された。正確に弱点を狙った銃の早撃ちは何度再生し直しても目に追いつけない、まさに神業とも言うべき能力。


 実のところ勝てる自信がない。カーニバル姿ならともかく、たった一度だけ使われて、さらに戦闘時間がごく短い。少なくとも真っ正面からぶつかっていくことに特化した神牙フォームでは勝てないのは分かっていた。


「バーグさん」

『はい。あの機体による早撃ちは目測でも0.30秒前後。物を創造するよりも遙かに速いです。下手な隙を見せるのは控えるべきかと』

「だよね……! なら──って、うおぁっ!?」


 すると唐突に機体が突き飛ばされた。何事かと思い後ろを確認すると、ぶつかってきた物の正体が判明する。


換装完了コンプリート、“ネコミミ・メイド”! 獣には獣だ! ふしゃー!》


「しまった、メイドのやつ……! これにも気を付けないと」


 粘着剤に埋め込んだはずのゼスランマはゼスモーネ同様姿を変え、強行突破した模様。

 そしてメイド服姿のゼスランマは格闘能力、俊敏性に特化した形態。特に格闘能力においては神牙フォームと同等──速さに至っては以上の性能を持つとバーグとトリは睨んでいる。故に動きを止めたのだが、計算が外れたようだ。


《にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ──ッ!!》


「うおっ! やっぱり速い……」


 接近戦に持ち込まれて早々、獣のような連続攻撃を食らい続けるノベライザー。そのスピードは確かに今の手持ちで勝てるフォームはないだろう。防御に徹することしか出来ない。


 おまけに攻撃に転じようとすれば、遠くから弾丸が襲い来る。ゼスモーネの遠方支援が反撃の芽を徹底的に潰しにかかってくる。

 状況は絶対絶命。いくらノベライザーでもこのままでは危うい。


《ふにゃ──ッ!!》


《なんだ、なんて言わねぇ。悪いが倒れさせる隙も与えさせねぇよ》


 強力な蹴りで本日三度目の吹っ飛び。派手にビルへ激突し、煙が舞う。だがゼスモーネはその間も射撃で怯む暇すら与えない。

 流石は多くのLSBを経験してきた者たち。敵への容赦の無さがカタリの三人に対するイメージに大きく影響を及ぼさせる。だが──


『すばらしい攻撃です。ゼスランマ、ゼスモーネ、動画で得た情報より何倍も強い! ……ですが、私たちも


 賞賛の言葉を言い放つバーグ。その刹那、煙の中から複数の何かが飛んだ。

 高速で現れたそれは、紅い粒子を纏わせながらゼスランマへ一直線に向かい、虫のようにすばしっこく動き回る。


《にゃんだこれ? 遠隔操作系の武器か!?》


 飛んできた物体に困惑しながら邪魔くさそうに追っ払っていく。だが、その裏で着々と進められていく準備にいち早く気付いたのは、百音の方だった。


《嵐馬くん、それに惑わされちゃダメ! 今すぐ避けて!》

《え──》


「ランマに恨みはないけど、ごめんっ!」


 瞬間、ゼスランマの身体を紅い一閃が貫いた。レーザービームが機体を貫通したのだ。


《がはぁっ……!》


 倒れるゼスランマ。同時に着ていたドレスは霧散し、戦闘不能を意味する状態となる。


《ランマ──ッ!!》


 ステープルの除去作業に専念していたMARiKAも、この事態に手が止まる。搭乗者の名前を叫び、その衝撃度合いをあらわにした。

 そして煙中から現れたのは紅白カラーのノベライザー・メディキュリオスフォーム。対物狙撃銃にも似た大型銃を担ぎながら、MARiKAらに初めてその姿を見せつける。


『安心してください。ランマさんは死んでいません。ただ眠っただけなのでご安心を』


 ゼスランマのコックピットに向かって撃ちだした光線は特別製。ノベライザーの力を以てすれば非殺傷の催眠光弾にすることだって容易いこと。


 神牙フォームには複雑な物を創り出せないデメリットがあるため、より制限の少ないメディキュリオスフォームに切り替える必要があった。そのためのノベライリングである。


《姿が変わった……!? そんな、あっちもドレスアップを!?》

《“虚無世界ヴォイド・ワールド”からの使者ならありえなくもないかもねぇ……!》


『だから私たちはヴォイなんとかの使いでは……。まぁいいでしょう。ではカタリさん、この戦いを終わらせて、さっさと誤解を解きにいきましょう』

「うん。全員眠らせればいいんだね」


 またもあらぬ誤解を招いてしまい、若干呆れるバーグ。どうやらこの世界はそれほどまでに外界からの来訪者を拒む理由があるのだと察する。

 ともかく創造の制限が緩くなった今、アーマード・ドレスに対抗できる手段は増えた。もう先ほどまでの苦戦はしないだろう。


「スレイブビット、展開。そしてゼスモーネに突撃!」

『操作は私の仕事なんですけどね~』


 計六つのビットが戦場に展開された。紅い粒子を纏ったそれは、指示通りにゼスモーネへと向かう。

 しかしあちらも実力者。リボルバーで素早くスナイプしていくが、その威力はスレイブビットを止めるまでには至らない。あっという間に懐に入られ、手足を拘束された。


《くっ……。ナメんなぁ! ドレスアップ・ゼスモーネ!》


 戦法の変化に負けじと再度カーニバル・ゼスモーネの姿に変化させ、拘束を無理矢理解く。両手のタンバリンに炎を纏わせながら、ビットを叩いていく。

 だが、その隙を逃さない。ビットに気を取られている間にノベライザーは透明化し、気付かれぬ内に接近。そして創造した銃に催眠のイメージを込めて発砲した。


《しく……じったね……。ごめん鞠華、っち……》


《モネさ──ん!! くそっ、お前、よくも二人を!》


 ゼスランマ同様、コックピットの位置に催眠弾を撃たれ、戦闘不能となるゼスモーネ。最後に残ったMARiKAが再び叫ぶ。

 ここで脚を拘束するステープラを外し終え、ノベライザーの前に対峙する。マゼンタ色の機体からは、目に見えて分かる殺気を感じ取れた。


《許さない……お前は倒す! ドレスアップ・ゼスマリカ! 換装完了コンプリート“マジカル・ウィッチ”!》


 ゼスマリカも形態変化を行い、派手なお姫様の衣装から薄い桜色の魔法少女のような、またベクトルの違う可愛らしさを持った姿となる。

 “マジカル・ウィッチ”。これも動画で予習済みだ。魔法を操る変幻自在の攻撃は予測が困難。戦法の自由度はどのドレスよりも高いだろう。何より──


《“其の幻影は、世界をも魅了するイリュージョン・マギア”!》


「来た……! MARiKAの大技ッ!」


 MARiKAのアーマード・ドレス、マジカル・ゼスマリカ。この機体が放つのは何も攻撃魔法だけではない。百体にも及ぶゼスマリカの分身を出現させ、相手を翻弄する特殊な技も持っている。

 目測だけではほぼ見分けはつかない。だが、攻略法は見えていた。


 目を閉じ、心を落ち着かせる。ノベライザーの力はカタリの願い想像を形にしてくれる。望むのは──


「……そこだッ!」


 きらりと鈍く輝くバイザー。その刹那、カタリは直上に向けて銃を放つ。まさかの大暴投──などではなく。


《うわぁっ!? な、もうバレた!?》


『なるほど。無数の分身に気を取らせつつ、本物は空の上……。確かに普通なら気付かれるはずないですね。これは相手が悪かったとしか言えませんね』


 ノベライザーの力で本物の機体がどこにいるのかをあぶり出したのだ。

 惜しくも光弾はゼスマリカを乗せるステッキに当たり、眠らせるまでには至らなかったが、本体を地面に降ろさせることに成功する。


 同時に分身も消え、場は再び振り出しに。だがこれでノベライザーの前に小細工が通用しないことを覚えたことだろう。


『MARiKAさん。もうやめましょう。何度も言いますが私たちはあなた方の敵ではありません。実力も十分に理解しました。少なくとも私たちにはもう戦う理由はありません。どうかお聞き入れていただければ……』


《くっ……、そんなこと言って、ランマや百音さんに手をかけたのは事実だろ! 二人のためにボクはっ……!》


「MARiKAって思った以上に仲間思いっていうか……」

『ええ、頭の固い人物です。仕方ありません。少々手荒な手段に出ることにします。これ以上の戦闘はトリさんにも負担をかけてしまいますので。ではカタリさん、彼のコックピットに……』


 再度の説得も失敗に終わり、強行手段に出ることを決めるバーグ。カタリにやり方を指示すると、ビットの操作でゼスマリカを拘束、ビルに打ち付ける。

 そしてノベライザー、アーマード・ドレスの操縦席であるコントロール・スフィアに手を触れさせる。


《や、やめ──……ッ!?》


 に打って出ることにした。











 鞠華が目を覚ました時、そこはコントロール・スフィア内ではなく、真っ黒な空間の中だった。

 夜になったのかと一瞬想像したが、夜中にしては自分の魔法少女コスチュームははっきりと見えている。言ってしまえば明るい闇の中に鞠華はいた。


「どこだ、ここ……」


 困惑する中、ここに来る最後の記憶をたどる。脳裏に浮かぶのは手足を拘束さた状態で姿の変わった“カイジュウ・ハザード”に触れられた時のこと。それを思い出して鞠華ははっとする。


「ってことは、もしかしてここはアイツの中なのか……? それとも“虚無世界ヴォイド・ワールド”の……」


『はぁー、何度も言いますが私たちは“虚無世界ヴォイド・ワールド”なんて物とは一切の関わりはありませんよ』


 すると、唐突にその声が聞こえた。“カイジュウ・ハザード”のアクターの声。


 その姿がどんなものかをこの目で確かめてやろうと振り返ると、意外なことにそこにいたのは鞠華よりも年下であろう異国風な少年と、その人物が持つタブレットに少女が映されている。


 どちらも人間の形をしており、とてもではないが“虚無世界ヴォイド・ワールド”の生命体には見えなかった。

 自分らとなんら変わらない人の姿。思わず目を丸くする。


「……え、もしかして、君たちが……」

「うん。こんなことになってごめんなさい、MARiKA……さん。僕は正直戦いたくはなかったんだけど、バーグさんがどうしてもって」

『こちらも強行手段に出たことは謝罪します、MARiKAさん。私はリンドバーグ、こちらの方はノベライザー……今し方あなた方と戦っていた機体のことですね。そのパイロット、カタリィ・ノヴェルさんと言います。以後よろしくお願いします』


 二人は礼儀良く一礼をする。この時の鞠華には様々な感情、イメージや状況に対する困惑、そして驚きによって混乱するばかりであった。

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