アニメで乗り越える実社会生活。

下谷ゆう

第1話 留年男の戰い

 「ヨッシャー!完成だ!」

 

 汚いアパートの一室でパソコンを前にした俺は歓声をあげた。夜通しの作業で凝り固まった肩をバキバキいわせながら伸びをする。

 部屋には朝日が差し込んでいる。壁にかかった時計を見ると午前8時45分を示していた。


「ギリギリだな」


 今から15分後、本日午前9時。

 それが、俺がたった今完成させた『現代文芸論Ⅰ』のレポートの提出締め切りだ。

 俺は都内のR大学文学部の1年生だ。

 ちなみに、去年も1年生だった。

 さらに言うなら、一昨年も1年生だった。

 

 ……これで察して欲しい。そう、俺は2回留年している。

 

 理由は単純。授業に出るのがだるかった。授業に出るくらいなら、お気に入りのアニメをもう一度見たい!と、ずっとアパートに引きこもっていた。

 

 で、この様だ。

 

 そんな俺だが今年ばかりはそんなことも言ってられない。我がR大学の『3留したものは自動的に退学』ルールのせいだ。さすがの俺にも退学はまずいと感じる危機意識は残っている。それに、我が父は2留を知った時、長野の山奥から俺にモンゴリアンチョップを食らわせに来た。退学を知った彼がどうなるか、想像するも恐ろしい。


 と言うことで、今年の俺は進級に必要な単位を集めた。綱渡りのようにギリギリだったが。

 『現代文芸論Ⅰ』も必須科目の一つだ。落第は退学に直結する。そんな科目ならもっと余裕を持ってレポートを書けよ、と突っ込まれるだろうが大目に見て欲しい。そんなまともな感覚あったら2留もしてない。

 まあ、なにはともあれ完成したのだ。

 

 勝ったな。

 

 俺のアパートから大学まで走って5分。ほら、10分も余裕がある!前向きに行こう!希望的観測は必需品さ!


「あとはプリントするだけ!目標コピー用紙センタートレーに入れてスイッチ!」


 俺は意気揚々とプリンターの起動ボタンを押す。


「……あれ?」


 起動ボタンを押す。


「……」


 起動ボタンを連打する。


「…………あ、そうかプラグが抜けてるんだな。そうに違いない」


 プリンターの裏を覗き込んだ。果たしてプラグは刺さっていた。念のために一度抜いて再度エントリーしてみるも変化なし。

 自分の顔面からサーっと音がして血の気が引いていく感覚。喉から震える声が漏れた。


「プリンター……壊れた……」


 なんで!よりにもよってこんな時に!

 恐る恐る時計を見る。


「8時50分、クソっ!大学の老人教授たちが黙っちゃいないぞ」


 あと10分しかない!

 どうする?コンビニまで走るか?

 いや、無理だ。どんなに急いでも片道で10分以上はかかる。


 友達に借りるか?

 いや、だめだ。留年してるから友達いねーんだ!独りはイヤァァァァッ!



 俺は泣きそうになりながら再びプリンターの方を振り返った。その白い直方体をガッと掴む。渾身の力で揺さぶった。



「動け、動け、動け!動け、動いてよ!今動かなきゃ、何にもならないんだ!

 動け、動け、動け!動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動いてよ!

 今動かなきゃ、今やらなきゃ、全単位みんな死んじゃうんだ!もうそんなの嫌なんだよ!

 だから、動いてよー!」


                           『 完 』







 




元ネタ:


『新世紀エヴァンゲリオン』






 *次回予告(嘘)*


 案の定、彼は退学になった。

 その日の顛末てんまつを電話で聞いた彼の父は叫ぶ。

「あんたバカァ!?」


 失意の青年は故郷・松代に帰る。

 そこで彼が下した決断とは?


 次回『ニートのかたち 引きこもりのかたち』


 この次も、サービスサービスぅ!




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