第39話 早紀の新たな発見
「すっごい、楽しかった」
次の日、早紀がキラキラと少女漫画のキャラクターみたいに、めがねの奥の大きな目を輝かせながら、隣りを歩く繭を見た。
「えっ!」
繭は驚いて、そんな早紀を見返す。二人は、駅から大学までの道のりを並んで歩いていた。
「私女子サッカーって初めて見た。サッカー自体初めてだけど、すっごい面白かった。すごいね。みんな、足だけであんなことできるんだもん」
早紀は昨日のことを思い出し、一人興奮していた。
「う、うん」
繭は昨日からずっと早紀の反応が気になっていた。だが、早紀は、あの反則まがいの汚いプレーや宮間たちの大人げない姿を見ても、何も気にしていないようだった。サッカーのことが分かっていないので、気付いていないのだろうか。早紀が天然だからだろうか。とりあえず繭はほっとした。
「繭すごいうまいじゃん。びっくりしたよ。するするってかんたんに抜いていっちゃうんだもん」
「え、う、うん、ありがとう」
「なんか、繭を見る目が変わったよ」
確かに繭を見る早紀の目は、どこか尊敬の光に輝いている。
「私運動音痴だから、なんか羨ましいな。私もサッカーやりたいよ」
「えっ!」
「なんか他のメンバーの人たちも楽しそうな人たちじゃない」
「えっ!」
繭の今持っている世界観とは全く真逆の世界観に繭は心底驚いた。
「どうやったら、あの灰汁の強いキャラクターたちを見て楽しそうと言えるんだ・・」
繭は呟いた。それに繭は自分の周囲でサッカーをやりたいという女子をこの時初めて見た。大抵、繭の周囲ではサッカーをやっている女子など、奇妙な生物レベルで見られるのがおちだった。早紀はしっかりしているように見えるが、やはり天然なのか。繭も早紀を見る目が変わった。
「ん?」
「えっ、いやなんでもない」
繭は慌てて誤魔化す。
「また応援行くね」
「う、うん」
繭はやはり複雑な気持ちだった。
「わっ」
その時、早紀が急に顔を伏せた。
「どうしたの?」
繭が慌ててそんな早紀を見る。
「目にゴミが入った」
早紀はめがねを外し涙を流しながら、慌てて目に手を当てる。
「大丈夫?」
「う、うん」
早紀は、顔を伏せ必死に目をこする。
「大丈夫?」
「う、うん」
早紀は顔を伏せたまま、目に入ったゴミと必死に格闘している。
「ああ、とれた」
しばらくして、やっとのことでゴミが取れると、早紀が顔を上げて笑顔で繭を見た。
「ふぅ~、痛かったぁ~」
「わっ」
その顔を見て繭は驚いた。
「ん?」
早紀がまだよく見えない目で、そんな繭を見つめる。
「早紀ちゃん・・」
繭は茫然とした。早紀は、めがねをとるとものすごい美人だった。その形の良い大きな目は、まつげが異様に長く大きな広告写真に載っているモデルさんの目のように光り輝いていた。また、めがねをかけた一見地味そうな早紀と、めがねをとったとてつもない美人の早紀のギャップがすごかった。
「・・・」
大学が始まってから繭は早紀とは毎日のように会っているが、めがねをとった早紀を見るのはこの時が初めてだった。
「どうしたの?」
きょとんとして、再びめがねをかけ直した早紀が繭を見返す。
「え、い、いや」
早紀は自分が途方もない美人であることにまったく気付いていないらしい。
「早紀ちゃんまつげ長いね」
「そう?」
早紀は尚もきょとんと首を傾げている。
「早紀ちゃん、めがねとった方がいいんじゃない」
「どうして?」
「えっ?いや、その方がなんかかわいいんじゃないかな」
「そう?でも、私コンタクトってなんか怖くて」
「そうなんだ・・」
もったいない。繭は思った。
「あっ」
早紀が叫んだ。
「どうしたの」
「授業遅れちゃう」
「あっ、そうだ」
二人はのんびりと歩き過ぎていた。二人は慌てて大学へ向かって走り出した。この辺、二人とも天然であった。
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