『寝ても起きても』


 ふと目覚めると、隣に玲がいない。

 時計を確認すると、まだ夜明けまでは時間がある。


 と、ドアが開いて手にコップを持った彼女が寝室へ入ってきた。

 当たり前のように全裸である。


「あ、起こしちゃった?」


 床のそこここにある本の山を器用に避けて歩いている。


「ああ、もう、君は……」


 まだうまく開かないまぶたをこすりつつ、手の届くところに脱ぎ捨てていた寝巻きのTシャツを拾い上げて、彼女へ向かって投げつけた。わ、と言いつつも彼女はコップの中身をこぼすことなく、それを受け止める。


「風邪ひくよ、裸でうろうろしないの」

「ちょっとの距離だったし」

「うっかり君の裸見ると、こっちの心臓に悪いんだよ」

「えー。昨日だって散々この体で楽しんだくせに〜」

「うるさいよ。早く着て」


 はいはい、と彼女が言ってコップを手近な棚に置いたのを見届け、再びベッドに潜り込んで目をつむる。


「これ……穂高さんの匂いがする……」


 彼女のつぶやきに首だけ向けて見れば、襟ぐりを鼻の上まで持ち上げて、玲はどことなくうっとりとしている。


「あーごめん、今新しいの出すから……」

「別に不満はないっていうか、嬉しいなぁ、の気持ちだったんですけど……」


 残念そうな声は無視して、薄いタオルケットを胸に巻きつけてクローゼットへ向かう。



 買おう買おうと思いながら、玲のための寝巻きを購入できていない。大きめのTシャツと、楽ちんなレーヨン地のワイドパンツと、あとは下着を取り出す。下着は上下ともに彼女のものがすでに何セットも我が家にある。不思議だね。

 着替えをひと揃い用意していると、私はやつのお母さんかよ、と思って笑えてくる。


 すると、後ろから抱きすくめられた。

 タオルケットを押さえていた片手が彼女の手に絡め取られて、体を覆っていた布がずり落ちそうになる。


「ちょっ……」


 慌ててタオルケットを掴むが、


「あなたは意外と恥ずかしがり屋だよね」


玲の声が、耳をくすぐる。


「……どこかのモデルさんと違って、見せびらかすような魅惑のボディを持ってないので」

「私は魅了されてるけどなあ」


 彼女のもう片方の手が布の内側へするりと伸びてきてまさぐり始めた。

 なおも彼女は私の耳へ口を寄せて囁く。


「……まだ付き合う前。去年の秋、あなたと二人で初めて旅館に泊まったとき」

「……うん」

「夜中に一度、起きたでしょ」

「……」

「あなたの浴衣がはだけて、ここも全部見えそうだったのに、あなたは全然恥ずかしがる素振りなんかなくて」

「……ッ、……」

「――犬っころに胸、見られたって、恥ずかしくないもんね?」

「そういう、わけじゃ……」


 耳を甘噛みされる。


「………、、」

「悲しかったなあ。……でも今は恥ずかしがってくれるだけ、ありがたいと思わなくちゃね」


 たまらず、身をよじらせて口を重ねた。

 タオルケットなどもうどうでもよくなって床に落とし、貪るように唇を合わせながらベッドへ向かう。



 ベッドの上に横たわる玲へ覆いかぶさって、ふと我に返った。


「……私は君に服を着せようとしていたはずなのに」

「残念でした」


 彼女は艶っぽく微笑んで、歌うように言った。

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