友達の恋の花
@hiroma01
前編
現実は、漫画やゲームのようにうまくいかない。
異性の幼馴染なんてものは少しずつ会う機会が減っていき、次第に会話すらしなくなる。
もしも幼い頃に恋心を抱いたまま成長したとすれば、それはどんな風に変化するのだろうか。
とある異性と幼稚園の時に出会い、恋をしてその想いを抱いたまま大人へと近づこうとしている少年がいた。
だがすでに【恋】を忘れてしまった【恋】をしている高校二年生の彼、東山 正(とうやままさ)。
昔好きだった人、そう思ってしまうようになってしまった彼は今もまだ現在進行形だということに気づかない。
一方、その相手である西田 友紀(にしだゆき)は彼への想いが恋だということをはっきりと理解している。
幼い頃からの気持ちを誰にも相談することができず時は流れ、彼とはすれ違うときも挨拶をしない仲となってしまった。
そんな二人が今、動き出そうとしていた。
「おい正、起きろ!」
「んぁ…?」
揺れているのではなく揺さぶられていることに気がついた正は口元についたよだれを拭きながら身体を起き上がらせた。
どうやら2時間目はすでに終えて休み時間に入っていたようだった。
彼を目覚めさせたのは隣のクラスの友人、南 孝(みなみたかし)。
中学からの付き合いで、高校に入ってからは何かと彼と一緒に行動することが多くなっていた。
「孝か…何のようだ」
孝は何かあるとすぐに報告してくるクセがあるが、大半は聞き流してしまうほど内容の薄いものばかり。
「好きな子ができた」
「は…なんだそれ」
大きくため息をついた正は席を立ち扉を開ける。
「大事件じゃねぇかぁあぁぁぁ!!」
「驚いてくれて何よりだが…何で掃除用具入れ開けて言った?」
驚きのあまり不可解な行動を取ってしまっていた正であった。
昼休み、正は誰もいない屋上で孝から詳しい話を聞きだしていた。
どうして彼がここまで驚いたかと言えばこの二人、少しの悪さはするものの色恋沙汰の話は全くと言っていいほどないからである。
「で、相手は誰よ」
「…恥ずかしいな」
「女子かお前は」
彼は顔を赤らめる孝を殴ってしまいそうになっていた。
「四組の…北田」
「ん?誰だっけ…えっと…」
人のことにはあまり興味がない正でも聞き覚えのある名前だった。
北田真美(きただまみ)。
少し内気そうなイメージがあり、見た目は真面目で可愛らしい感じの女子。
幼馴染の西田友紀が中学の時から仲良くしている女子だからこそ彼には覚えがあったのだ。
中学に入ったあたりから正と友紀は接触することがなくなったため、真美とは一度も会話を交わしたことがない。
「俺さ、デートに誘いたいんだ」
「ほう!詳しく!」
「でも…勇気がないんだ」
「だから女子かお前は」
中学からずっと想い続けてきた孝、今やっと友人に相談できたことにほっとしていた。
孝が正にしたかったのは報告ではなく相談、デートに誘いたいが今はまだ好意を匂わすようなことはしたくないとのこと。
「北田といつも一緒にいる西田って子、お前の幼馴染だったよな?」
「ユ…あぁ、確か言ったことあったな」
昔は仲が良かった女子、として孝には言った覚えがあった。
「正が俺で、西田って子が北田で頼む!」
「いろいろはしょりすぎてわからん」
孝が取り出したものは遊園地の入場料がタダになるチケット4枚。
そこでやっと彼が何を伝えようとしているのか理解した正。
このチケットを正が受け取って友紀を誘い、彼女に真美を連れてきてもらう作戦。
ということは友紀にも共犯になってもらう必要がある。
「いや…俺はあいつとはもう…」
「頼む!お礼は身体で払うから!」
「いらぬ!」
正の勘違いについて。
日ごろから友紀の事が気になっているのは幼馴染だからであると思い込んでいた。
成長して不仲になってしまった兄妹感覚だと勘違いしていた。
HRを終え正はカバンを持って席を立つと教室の後ろの扉前に見覚えのある女子が誰かを待っていた。
茶色の髪にカッターシャツの一番上のボタンを外してオシャレを気取っている友紀だった。
このクラスに友達なんていただろうか、と少し気にはなったが話しかけることなく彼は彼女の前を通り過ぎていく。
「ちょっとシカトしないでよ」
「…ぬぉっ」
久しぶりに聞いた声、友紀は後ろから正の首根っこを掴んでいた。
「ごほっ、なんだよお前急に…」
「ちょっと顔貸して」
「すみません、今200円しか持ってないです」
「カツアゲじゃないわよ」
腕を組んで偉そうにしている友紀、人は変われば変わるもの。
昔は正の後ろを付いて回るような女の子だったのに、と彼はお父さん目線で感じた。
「めんどくさい…」
「いいから来なさい、じゃないとアンタの昔の写真バラまくわよ」
「はっ、そんなものバラまいてもどうってこと…」
「ちなみに全裸よ」
「お供します」
さすがは幼馴染、普通の友人と違って思い出の品が半端なものではなかった。
近くのファミレスにて、二人は適当に飲み物を頼んでテーブル席に着く。
二人きりになるのは数年ぶりでお互い自分がどのように接していたかを忘れてしまっていた。
「お前…変わったな」
「…え?」
「ちょっとスカート短すぎないか?」
「父親かアンタは」
反抗期を迎えた妹のようにやはり身内目線になってしまう正。
「…アンタが」
「うん?」
「アンタが一番変わったわよ」
「は?何でよ、俺全く変わってないだろ」
確かに見た目は変わったかもしれないが、髪も染めてなければ不良になった覚えもない。
何にせよ、友紀に話があった彼にとってはタイミングがよかった。
「アンタの友達に南孝って男子いるでしょ」
「あぁ、俺もそいつの事でお前に話があったんだ」
「…ん?」
「ん?」
お互い顔を見合わせ頭にはハテナマークが飛び回っていた。
「いや…あいつお前の友達に惚れてるらしいんだが…」
「…その男子のことが好きな友達がいるんだけど」
「…」
「…」
南孝と北田真美は両想いだった。
こんなミラクルが起きているのなら作戦なんていらないのではないだろうか。
とりあえず正は事情を説明して、孝から受け取ったチケットをテーブルの上に置いた。
「面白いわね」
「おっと…悪い顔になってるぞ」
チケットを握り締めた友紀の表情は悪巧みを企んでいる少年のようだった。
「私が真美を誘えばいいのね」
「いや、両想いなんだからもう必要なくねぇか?」
「ん~、あの子引っ込み思案系女子だから何かきっかけを与えないと進めないと思う」
「まぁ孝もそんな感じぽかったな」
お互いに想い合っていることを知っているからこそ手を差し伸べてやらなくてはいけない。
どうにかして孝と真美をくっつけられないかと友紀は彼を呼び出したのだ。
二人が付き合えるようにきっかけを与えること、それが正と友紀の目的。
「普通に遊んでいても進展なさそうよね」
「…お前何考えてる?」
普段の生活に飽きてきていた彼女はとても楽しそうだった。
友達の恋の花を咲かせたいのはもちろんのことだ。
「作戦なんだけど…」
「ゆ…西田ってこういうこと好きなタイプだったっけか」
「…」
「ん?どうした?」
「…なんでもないわよっ」
さすがにもう昔のように下の名前で呼ぶのはまずいと思った正と、下の名前で彼に話かけようとした時に苗字で呼ばれた彼女。
彼女の心に刃を突き刺さしたことを正は当然気づくはずもなかった。
「いい?絶対に成功させるわよ」
「…お、おう」
頭を左右に動かしていらぬ邪念を振り払う彼女、今は自分のことよりも親友を優先すべきなのだ。
そう、
これは友達の恋の花を咲かせるための物語。
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