第17話 物語は続いてゆく?
「ハル君お腹すいた」
思い出したかのようにポツリと、体育座りのマミがつぶやく。
「お腹なんてすかないだろ、このゲーム」
「あたしの心のむなしさを言葉で表現してみました。ごめんなさい」
どういう仕組みかはわからないが、睡眠中の夢の中の状態だからかお腹はすかないのだこのゲーム。あのカプセルの中で栄養補給されている可能性もあるかもしれないが、それを聞ける相手は今近くにはいない。
「しかし、まいったな……ここどこなんだろうな?」
「巻き込んじゃってごめんね、ハル君」
ここがシュヴァルツヴァルトの森なのはそうなのだろう。
周りの光景もエリア名も変わっていないから。
問題なのは、パーティメンバーの表示が俺とマミのものしかない。
これはエナとナオと距離が離れてしまっているからなのか?
ああもう、やはり聞きたいことが聞けないというのはもどかしいな。
「でも、良かった」
「何がだよ、マミ」
「ハル君と一緒で」
そう言ってこっちを向きニコリと笑う。
お前な、今二人きりだぞ。
しかもどこなのかもわからん森深くの洞窟の中で、焚火を囲んで体育座りで、今日初めて言葉を交わしたような男と隣同士だぞ。
そんな時に、こんなセリフを言ってしまって、身の危険を感じないのかお前はー!
俺はマミにとても説教したい気分になっていたのだが……
「だから怖くないの、守ってね、ハル君」
その純粋な目、何者も疑ってない目を前に色々なものが崩れていく。
俺やっぱり獣、男ってやーね。
とここまでは、俺も矛を収めかけていた。
「あーあ、どうしてこんなことになっちゃったのかな」
この一言が俺を狂わせる。堪忍袋の方が切れちまった。
「お前なー、お前がいきなり走り出すからだろうが、俺必死で追いかけたけど追いつくまでにかなりかかったんだぞ。このゲーム、スキルか乗り物でも使わない限りは移動速度変わんねーからな! 止まってくれんと追いつけん」
「だって、だって……」
あーあ、もう泣きだしやがった。
ため息つくしかないわ、これ。
運が悪いというか、どうしてこうなったんだろうな、ハア。
ノーライフキングとの戦いを終えた俺達は、元の空間、サンタマリアのお城の鏡の前に戻った。再びの男子トイレ。油断していた女子三人がキャーキャー言っていたのは言うまでもない。ナオとマミの二人はともかく、エナはわかってたと思うんだが、本心なのか演技なのかはさすがに聞けないな。女子のこういうのって俺にはわかんねえ。
そして俺達はエナの背中に続いて城の玉座へ。
ここで場面は『時渡りの鏡』に触れたときのように転換する。
イベントだ。
玉座には王様。
左右にあの二王子。
彼らの真ん前に控える俺達。
その横にいるチャイナ姿の王女が語りだす。
「父上、此度のヌワラエリアの反乱は兄様達の後継者争いに乗じて魔王が我が国を乗っ取ろうと企んだものでした。あの者はノーライフキング。魔王直属の四天王のひとり」
何だってーあいつ四天王とかそんな偉いやつだったのか。
どうりでチート王女でもなかなかライフが削れなくて戦闘が長引いたわけだよ。
「聞いておるよ、ダージリン。そなたの活躍でこの国は救われた」
「いいえ父上、私だけではありません。ここにいる勇者たちが共に戦ってくれたからこそ、勝利を得ることができました」
ここでファンファーレ。
俺達にスポットがあたり、周りがざわめく。
「あの者たちがこの国を救ってくれたのか」
「相手は魔王軍だというぞ。まさに勇者だ」
どこから現れたのか、部屋の中にいるエルフ貴族たちが口々に俺達をほめたたえる。
いいよなこういうの。
……俺、何もしてないけど、いいよな?
「彼らは我が国に来て、いきなり牢屋に閉じ込められるという屈辱的な扱いを受けたにも関わらず、我が国のために戦ってくれました。父上、彼らに恩赦を」
お、何、許してもらえるってことか。
……あの、イーストプレイスっていう街を壊滅させたの、確かに俺達だけど、いいんだよな?
ちょっと後ろめたいが、そんなこと言ってても話は進まないから俺は忘れることにした。処世術ってやつだよなこれ。
まったく、ゲームは遊びじゃないぜ。
「もちろんだ。彼らの功績、恩赦を以てしてもあまりある。ついては、我が国に伝わる秘宝を授けよう」
俺達のそれぞれの前に、三つの指輪が現れる。
「そは、王家の危機を救うものが現れた際に授けるよう祖先より伝えられた伝説の指輪。どれでも好きなものを手に取るが良い」
青い宝玉の指輪は、攻撃、命中アップ。前衛用だな。
赤い宝玉の指輪は、魔法攻撃、魔法命中アップ。ウィザード用にしか見えない。
白い宝玉の指輪は、回復アップ、詠唱速度アップ。プリースト用だ、これ。
先祖から伝えられて渡されたというには選択肢があるのは不思議だが、キャラクターの選んだ職業によって伸ばしたい能力は違うから、ゲーム的にまあ仕方ない。
そういうものだと思うしかない。
「ハルとナオは青。私は赤。マミは白を選んでね」
悩ませるのもどうかと思ったのだろうか、エナが指示を下す。
その声にナオは迷わず青いのを受け取っていた。
けれど、大人しく従わない子が一人いたのだ。
「えーっ、私青とか赤がいい~白ちょっと地味じゃない?」
やはりお前かマミ。タダでもらえるものに贅沢言うんじゃありません。贅沢は敵なんだぞ。
口をとがらせ抵抗していた彼女だったが、またそのうちもっといいの買ってあげるからというエナの一言で、しぶしぶ白を選んでいた。まったく子供だな。
確かに世間では人は見た目が大事というが、ゲームは見た目より性能だ。
俺の姿を見てみろ、今ようやく返してもらえた武器も相まって見事な和洋折衷。
和風の鎧と兜はこの中世ファンタジーな世界では浮きすぎてて実際恥ずかしいが我慢してるんだぞ。職業侍とかだったらまだいいけど、俺戦士だからな……ああ、何だか言っててむなしくなってきた。
普通のMMOの時は気にならなかったが、VRMMOになると自分が着てる感アップするんだよ。他の皆と一緒じゃないってのが気になって仕方ないよ。
とにかく……ゲームは遊びじゃない。
「指輪を授けた変わりというわけではないが、そなたたちに頼みたいことがある」
おおっ、王様。タダでやるって言っといてからそれはムシが良くないかい?
「このバルタザールは、魔王の魔の手を退けることができた。しかし、他の国、メルキオールとカスパーも同様の目にあっている可能性がある。そなたたちには、我が国の特使として他の国に向かい、魔王の策謀を阻止して欲しいのだ」
なるほど、これでフラグがたって、新たなシナリオに進むんだ。
国に公式に認められるっていいよなー。なんか国家公務員になった気分だ。
公務員は生活安定でモテモテなんだとMMOの先輩方も言っておられた。
俺が実際になるのは無理めだが、こういうところでその気分を味わうくらいは許してもらえるだろう。
「承知いたしました国王陛下」
エナが応えている。そうか、一応応える必要があったってことか今のシーン。
それ俺が言いたかったんだけどさ……って言っても、もう戻れないのがMMOだよな、わかってるさ、そんなこと。
「よろしく頼む」
「ほっほ、大団円ですな。では、私めはこれにて……」
これはノーライフキング、ヌワラエリアと密談してた貴族のおっさん。
鏡を探す時に何度も見たから覚えちまってる。
「ディンブラ叔父様。あなたはまずは牢屋にご案内します。沙汰はその後で」
「ひぃいいいい」
ざまあみろ、ってやつだな。
実際俺達はあんまりこいつと接していなかったが、悪者が捕まるところを見るのは気分がいいもんだ。
とりあえず、これでこの国での冒険は終わり。
次の国ではどんな冒険が待っているのだろう。
この時俺はまだ見ぬ他の国を想い、胸を膨らませていた。
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