90話 寂れた遊園地

「あ、あれ見て!」



 荒野を北に少し歩くと、その存在を知らせるかのように、遠く離れた場所に観覧車らしきものが見えた。

 遠目でもわかるほど、傾き鉄が剥がれ今にも崩れ落ちそうだ。



「あれが見えたって事はもすぐだ」



 ツキがそう言い、観覧車のほうへ歩みを進めた。

 近付くにつれ存在感が増すに私は危機さえ感じる。

 いつ頭上に落下するのかという不安をよそに、ギシギシと恐怖を煽るような音が鳴り続けているのだ。


 そしての真下に立った時歩みを止めた。



発見 カラストラ遊園地 EXP280



 思わず頭上を見上げる。



「うわぁ⋯⋯」



 目の前に佇むを見上げると、その錆びれ具合が明らかだ。


 放置されて伸びきった枯れ木さえ、の高さに届く事はなかった。

 かつては遊園地だったのか、所々にそう思わしき遊具達が置き棄てられていた。


 乗り物は、乗る部分がどこかに飛ばされ、その土台だけが地面に埋められ傾き半分だけ姿を現している。

 巨大なシーソーは、その半分が折れて地面に落ち、それだけ見ればただの鉄の塊にしか見えない。

 ジェトコースターらしき乗り物は、本来人を乗せるであろう部分は路線から外れ地面に落下している。衝撃でバラバラになったのか、その鉄の破片が散乱していた。こんな高所から落ちたのだからひとたまりもないだろう。

 肝心のジェトコースターの走る路線は、巨大隕石でも落ちたのかというくらい、途中が綺麗に切れていてポッカリ穴が空いているようだ。通常運行する事は到底無理だろう。


 その真下には鉄が剥がれ落ち、もう機能しないと思われるバスが乗り捨てられていた。上からバラバラと落ちた鉄の破片が、バスの上に乗っかりへこんでいる。

 土埃を被っているせいで煤けた黄色のように色あせている。更にバスの外側には誰が書いたのか、白い文字で『DEATH』と。誰かへのメッセージなのか、ただ単に落書きしただけなのか定かではないが、気分のいいものでない事は確かだ。

 その落書きから少し上へ目線をズラすと、窓の枠組みだけが残っている。誰かが故意に割ったのだろうか⋯⋯? ガラスは抜き取られたように綺麗に無くなっていた。


 中を覗くと、乱雑に動かされた薄汚れたシートの上にガラスの破片が散らばっている。

 物凄い異臭だ。

 耐えきれず思わず鼻をつまむ。

 入口から地面に下げられた小さな段差を1歩上った所で、そのバスを探索を諦めた。



「光グールだ!」



 私が上った段差を降りようと後退した時、プリンの叫び声と共に銃声が聞こえた。


 バスの陰から光グールが姿を現す。


 光グールとは言わばグールの上位種だ。

 普通のグールより大量に放射能を浴びてしまって、体からは妙な黄緑色の光を発している。

 そして普通のグールより早い! 引っかかれただけで大量のRAD値を貰う事となる。

 そのため、光グールは非常に危険だ。

 数発食らっただけで死に至る可能性だってある。RAD中毒ってやつだ。

 RAD中毒で死ぬのは最も嫌な事だ。

 刺されたわけでも致命傷を負ったわけでもないが、体が焼かれたように痛みそれが死ぬまで永遠と続く。

 つまり正気を失う程苦しみながら死ぬ⋯⋯という事だ。

 それならばいっそ、脳天を銃弾で貫かれて即死したほうがマシってもの。



ドドドドドーーピュゥンーー



「おい、テン! さっさっとそこをどけ!」



 再び銃声と共にプリンの叫び声が聞こえる。


 光グールの姿に呆気を取られていた私は、正気を取り戻しすぐさまバスの段差を駆け下り、バスの陰に身を隠した。

 そしてホルスターからピストルを握り構えた。



「そっちだ!」



 今度はツキの叫び声がする。

 グール種は基本知能は皆無だが、なぜかはわからないがプリン達がいるほうとは逆側、つまり私のほうに回り込んで向かってきた。



「うわっ、マジ?」



パンパンーー



 光グールが近付いてくる事に動揺し、適当に銃声を浴びせる。



「テン、しっかり狙うんだ!」



 そのツキの助言のお陰で、私は正気を取り戻し光グールに食われる事なく済んだ。



ピピッーーブァーー



 バーツを使った。

 これならいくら足が早い光グールでも亀より遅い。


 狙いは頭⋯⋯90%! 銃を撃つには少し近すぎる気もしないでもないが、そんな事は気にせず、命中率上昇を使いながら撃つ。




パンパンーーピピーー92%

パンパンーーピピーー94%

パンパンーーピピーー96%




 よし、かなりいい感じ! ほとんど光グールの動きを止めたまま、APが尽きるまで全弾撃ち込む。


 痛みを感じない光グールは、撃たれても撃たれてもこちらに向かってくるが、それを凌駕する量の銃弾。



ーーベチャ。



 分裂した。

 脳みそが飛び散る。


 私の服にその散乱した分泌液が付着し、思わず顔を引きらせる。



 そして頭部がなくなった光グールの死体は、分泌液やら内蔵やらを撒き散らしながら、バスの外壁へと勢いよく吹っ飛んだ。



ーーグベシャ。



 鈍い音。

 地面から足が離れたと同時に一回転。

 バスの外壁に体をぶつけながら落下する。


 完全に死亡していると思われるその死体は、首から上がなくなってもなお、ピクピクと腕と胴体を動かしている。


 たまらず私は目を逸らし、その場から逃げるように立ち去った。




「テン、大丈夫か?」



 ツキのその声に不気味さを感じる。

 顔が引きり距離を置きこちらを見ている。


 服にべっとりと付いたを見れば、誰でもそうなるだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る