本編 ~ 第十章 ~
89話 大量収穫
「あれ? 今何か聞こえなかった?」
私が満腹で横になっていると、何やら外から物音がする。
ワンワンワン! ヘッヘッ!
様子を見る為上体を起こしたと同時に、何かが私に飛びついてきた。
ーーバフッ。
「うわっ! え⋯⋯? ポチ⋯⋯なの?」
驚きのあまり唖然とした。
飛び付いてきたのは、だいぶ前にはぐれてしまった犬のポチだった。
まさかまた会えるとは思っていなかった私は、しばらくの間ポチに反応してあげる事が出来なかった。
ワンワン! ヘッヘッヘッ!
そんな私の心情はお構い無しに、ポチは私の上で嬉しそうにしっぽを振り回している。
「ポチって前にお前がはぐれたとか言ってた犬か?」
「そうそう! まさか会えるなんて⋯⋯」
プリンも驚いていた。
そりゃそうだよね。これだけの日数が経っているのに、生きてる事が不思議。
「ポチ⋯⋯おかえり」
私はポチに抱きついた。
ワンワンーー! クゥゥゥンーー
「そういやこのゲーム、序盤で犬仲間になるよな」
ツキがボソッとそう言うと、ポチの様子が急変した。
ウゥゥーーガルルルーーワンワン!!
「ちょ、どうしたのポチ? ダメだよ!」
ポチはツキに噛み付こうとした。
何故だかわからないが。
不思議に思ったがすぐに事態を理解する。
私がポチを引っ張りツキから離した。
すると何故かポチの怒りがスゥッと消えるように収まったのがわかった。
ガルゥゥーー
なんだったんだろう。まぁいいか、収まったし。
私はポチの怒りが収まった事に安心し、これ以上ポチを叱る事はしなかった。
「そろそろ行こう」
ポチの謎は深まるばかりだが、私達はこの四人⋯⋯三人と一匹で目的の街へと歩き出した。
「えっと⋯⋯こっから西だっけ?」
「おう、西に行けばぶっ壊れた線路があるはずだから、そこから北に向かう」
ぶっ壊れた線路? まぁこんな世界だったら有り得そうだけど。
線路があるって事は電車もあるのかな? もちろん走ってはないと思うけど。
近くに駅とかあるのかな? 最近何かに追われてばっかでろくに探索してなかったし、探索したいな。
そろそろ食料とか薬類がなくなりそう。
電車があったならラッキーだな。ゲームだったら大抵、電車の中には救急箱や補給物資が入った木箱が置いてあるからね。
ワンワンワン!!
しばらく西に歩いているとポチが急に走り出した。
私達はポチの後に続き歩いた。
するとポチは、色鮮やかな緑色の草木の中に見え隠れする、錆びれた線路の上で舌を出してしっぽを振っていた。
「おぉ、やるじゃんポチ!」
ツキがそう言いポチの元へ向かった。
ワンワン!
その錆びれた線路の上には、色あせた青緑の電車が列を乱して止まっていた。
電車の入口に掛けられている階段はサビていて、足を踏み入れると軋む音が響く。
そのまま中へ入ろうとするが、サビのせいか中々開かない扉。
よく見たらこっちは車掌席の扉ではない。
私達は諦めて電車の先頭に向かい、扉の開閉を試みる。
ガタッーーガガーーザラーー
こっちも立て付けは悪いが、何とか開く事が出来た。
電車の中は両脇に長椅子がズラっと並び、所々に鉄の柱が、天上からはつり革がぶら下がっている。
さすがに弱くなっているのか、いくつものつり革が地面に落下していた。
座席の上にはトランクケースや救急箱があり、最後部には木箱が乱雑に積み重ねられている。
おそらくこの中身は、食料や弾薬などだろう。
予想が当たってるといいが⋯⋯。
「やったぁ! 超ラッキーじゃん」
私は思わず叫んだ。
木箱の中には救急箱⋯⋯スチムパックや薬類の医薬品が大量に入っていた。
隣の木箱には何年間も保存が効くであろう缶ずめが大量だ。
その横には、緑色の細長いケースに軍マークが描かれた弾薬箱まである。
もちろん全部拝借した。
これで当分の食料と弾薬には困らないだろう。
もっとも、肉や魚が食べたいなら自分で狩りをしなくてはならないが。
どっちにしろ、当分飢え死にする心配はないだろう。
私達は最大重量になる事を警戒して、それぞれの物資を3等分してインベントリに格納した。
「うっし! もうここには何もねぇな。北に向かおうぜ」
ツキがそう言うと、先程外からは開かなかった扉を内側から思いっきり蹴り飛ばし、無理矢理こじ開けた。
「行こう」
私達は再び目的地へ向かうべく、北へ歩み始めた。
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