87話 名もなき犬 ~第二の犬生~
犬? ボクが?
それじゃあ、前世も来世も対して変わらないじゃないか。
『いいえ、あなたには特殊スキルを与えます』
あぁ⋯⋯転生ではお馴染みのアレか。
チート級のスキル。
『あなたに与えられるスキルはこれです』
そう言うと、真っ暗な部屋の中にぼんやりと薄青のウインドウが出現した。
これもお決まりなのだろうか?
ウインドウにはスキルらしき一覧がズラっと表示されている。
この中から好きなものを数個、または一つ選べってやつだな。
ボクはそのウインドウに並べられた文字をじっくりと眺めた。
ーーーーーーーーーー
・火炎軽減⋯⋯火炎属性を大幅に軽減する
・雷撃軽減⋯⋯雷撃属性を大幅に軽減する
・水流軽減⋯⋯水流属性を大幅に軽減する
・風神軽減⋯⋯風神属性を大幅に軽減する
・闇明軽減⋯⋯闇明属性を大幅に軽減する
・光線軽減⋯⋯光線属性を大幅に軽減する
・弾丸軽減⋯⋯弾丸属性を大幅に軽減する
・エネルギー軽減⋯⋯エネルギー属性を大幅に軽減する
・プライマリ軽減⋯⋯プライマリ属性を大幅に軽減する
・レーザー軽減⋯⋯レーザー属性を大幅に軽減する
・RAD軽減⋯⋯RAD属性を大幅に軽減する
・致死ダメージ無効⋯⋯死亡するような攻撃を無効化し瀕死状態にする
・地形無効⋯⋯地形による被害を無効化する
・天候無効⋯⋯天候による被害を無効化する
・重量無制限⋯⋯持ち運べる重量が無制限になる
・瞬時移動⋯⋯行った事のある所へ瞬時に移動出来る
・マッピング⋯⋯世界の地図が記憶可能
・嗅覚⋯⋯鋭い嗅覚を持ち隠れた宝や物を見つけやすくする
・鋼鉄⋯⋯自身の体を鋼鉄のように固くする
・装備無制限⋯⋯装備出来る種類に制限がなくなる
・ピッキング⋯⋯どの種類の鍵でも難易度に関係なくピッキング出来る
・瀕死全能⋯⋯瀕死状態に陥ると全能力が大幅に上昇する
・体力限界⋯⋯体力の限界がすぐに訪れる(マイナス効果)
ーーーーーーーーーー
なんとも凄い量のスキルだ。
ご丁寧に説明まで書いてある。
しかしどれを重視すべきものか選択に困る⋯⋯。
ボクがウインドウを眺めて悩んでいると、助け舟を出すかのように声が語りかけてきた。
『それらのスキルは今から全てあなたの物です』
な、なに? 全て⋯⋯?
これはどれか一つを選ばなくてはいけなくて、ここで物凄く悩むお決まりのやつじゃないのか?
ボクは動揺した。
さすがに困る。
これだけの量のスキルを『今からあなたの物です』とか言われても、すんなり受け入れる事なんて出来ない。
そもそも覚えきれないよ。
『安心して下さい。「ウインドウ」と心で願えばいつでもあなたの目の前に姿を表しますよ』
ウインドウ⋯⋯か。覚えておかなくては。
って、そういう問題ではないのだ。
ボクはこの膨大な量のスキルを頂いていいものか⋯⋯困っていたんだよ。
『⋯⋯では。いらないのですね? あなたは第二の人生を歩む為にスキルは皆無でよろしいと⋯⋯そういう事なのですね?』
その声は先程までとは違い、優しく穏やかではなく少し力の入ったキツい声に変化を遂げた。
いらないわけではない。
それはもう、全部貰いたいくらいだけどさ。
こんなの貰って後で没収とか災難が訪れる、とかないの?
語りかけてくる優しい声の返答を待つ。
『そんな事はあるわけないじゃないですか。それとも私の事をケチで意地が悪いとでも言うのですか?』
最初は優しく、徐々に声色に力が入るのがわかった。
これ以上は何も言わないほうが身の為だろう。
ボクは「わかった、それでいい」と心で思い、声の主の怒りを抑えた。
『これは第二の人生が犬、という代償のようなものです。それと向こうの世界の知識をあなたに託しますね』
知識までくれるのか。
願ったり叶ったりだな。
『知識とは世界の全貌であったり敵に対する知識だったり、様々です。向こうに行っても困らない程度の知識は授けますよ』
有難い。
でもいくらなんでも授けすぎ?
犬の代償って言ってもスキルの量が凄まじいし、大量の知識まで⋯⋯。
そんなに大変な世界なのか⋯⋯?
そう思うと不安に押しつぶされそうだ。
いや、考えるのはやめておこう。
せっかく第二の人生なんだ。
楽しく行こうじゃないか!
『それではいいですね? あなたの第二の人生⋯⋯いや、犬生の始まりです。存分に楽しんで下さい。ではーー』
その言葉と共にボクの脳裏に語りかける声は消え去った。
そしてその世界に飛ばされたボクが目にした光景は、あまりに酷い有様だった。
「そういう事か⋯⋯こんな世界なら死んだほうがマシだ」
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