62話 汚染された水道工場 ~逃げ惑う人生~

「本当にこっちにいるのか?」

「あ? 俺を疑うのかよ?」

「いや、そんな事はないけどよ。こんな所まで来て、無駄足って事は⋯⋯」

「あん? 黙って付いて来い!」

「ちょっと! こんな所に来てまでケンカはやめて!」



 私達が水道工場の外に出ると、声の主だけでも三人はいると思われる話し声が聞こえてきた。



「おい、こっちだ」



 そいつらの様子を見るべく、プリンは私の手を引き工場の裏手に回った。



「あっ⋯⋯」



 私は思わず手を引かれた勢いで声が漏れてしまった。



「シッーー」



 プリンは人差し指を口に当て、静かにしろと言わんばかりに私を見た。

 私とプリンはなるべく静かに物陰に隠れるように移動したが⋯⋯管理官はロボットだ。静かに移動する事などできない。



ウイーンーーガシャーー



「待って下さい! どこへ行くのですか?」



 空気が読めない管理官は、うるさい音をさせて私達のほうに近づきながらそう言ってきた。



「おい、今なんか声しなかったか?」

「え? どっちだ?」



 いきなりバレたようだ。私達が隠れている所に向かってそいつらが近づく足音が聞こえる。



ザッーーザッーー



「(いいか、あいつらが近くに来たら俺が囮になる。その隙にお前らは先に逃げろ。俺は後から追う)」



 プリンは小声でそう言うと、私達の前に移動してアサルトライフルを構えた。



「(で、でも⋯⋯)」

「(言う事を聞け。いいな? あっちに全力で逃げるんだ)」



 乗り気じゃない私の言葉を遮るようにプリンは真剣な表情でそう言った。

 私はプリンを信じてゆっくりと頷いた。


 後少しであいつらが近づいてくる。額から冷や汗がーー



「(よし⋯⋯)今だ!! 走れ!」



 プリンは小声で気合いを入れすぐに大声で私達に合図を送った。



「なんだ? おい、あそこだ! 追え!」



 逃げる私達を追おうとそいつらが駆け寄ってきた。



「行かせねぇよ」



ドドドドドドーーカシャーードドドドドドドーー



 プリンは全弾そいつらに撃ち込むと私達の後を追って走ってきた。



「プリン! 早く!」



 私はそう言いながら走ってくるプリンのほうを向いた。



「振り向くな。全力で走れ!」



 私はプリンを信じ、再び前を向き走り出した。管理官と一緒に。



ドピュゥンーードピュゥンーー



「くそっ! 逃がすか!」



 プリンのすぐ後ろにはさっきの奴らが追いかけてきている。

 よく見るとそいつらは⋯⋯グリーンヒルズ菜園を襲った奴らだった。

 隠れて動揺していた私はそいつらの顔を見る事はできなかったけど、逃げている最中の銃声で振り返った時に見えたあの凶悪そうな顔には見覚えがある。

 間違いなくあいつの仲間だ。そこには主犯格はいなかったものの、菜園に油を撒いていた仲間がいた。



「プリン! あいつら⋯⋯」



 私の後ろから走ってくるプリンのほうを向き、そう言うとプリンは何も言わずに私を見て頷いた。

 あの時プリンが追い払ってくれたから私は生きているんだ⋯⋯。プリンだって憎しみはあるはず。でも今はーー


 そんな事を考える暇もなく、奴らの銃声は止まる事を知らなかった。



「いいか、今はとにかく逃げるんだ。あいつらが追ってこなくなるまで撒くんだ」



 ようやく私達に追いついたプリンがそう言って私を見た。



「⋯⋯わかった」



 私はそう言うしかなかった。

 あいつらには恨みしかないけど、今戦うのは得策ではない。勝てる保証もないし、仮に勝ててもまた沢山の仲間を連れて必ず私達の前に姿を現す。

 そうならないようにまずは私達にも沢山の仲間が必要。戦える仲間が⋯⋯。


 だから今はとにかくあいつらの銃弾に当たらないように逃げるしか道はなかった。



ドピュゥンーーパンパンパンーードヒュゥーンーー



 三人共がそれぞれ違う銃で交互に私達を狙ってくる。



「ね、ねぇ⋯⋯! これ、逃げ切れるの?」



 私は既に息が上がっていて喋るのも容易ではなかった。



「何も喋るな。とにかく走り続けろ」



 息を切らしている私を気遣ってか、プリンはそう言って私達は無我夢中で走り続けた。

 もう既にここがどこかなんてわからない⋯⋯。


 とにかくグネグネと曲がりながらひたすら走り続けた。



「ハァッ⋯⋯ハァッ⋯⋯プリン⋯⋯もうダメ⋯⋯」



 遂に私に体力の限界が訪れた。徐々に走るスピードが落ちてプリンに置いて行かれる私を見て、プリンはスピードを緩め私の元に近づいた。



「ったく⋯⋯もう少し頑張れよ」



 プリンはそう言いながらも私を軽々と担ぎ再び走り始めた。

 私はプリンのスタミナに圧巻されつつも、悪いなという気持ちでいっぱいだった。



「待てーー!!」



 私達が疲れているなら相手も相当疲れているはず。

 そう思って担がれながら後ろを見ると敵の姿は二人しかいなかった。男が二人⋯⋯。

 女のほうはおそらくスタミナ不足で途中でいなくなってしまったんだろう。



「くそっ⋯⋯しつけぇな」



 プリンは大分苦しそうだ。



パンパンパンーー



 私はプリンに担がれながら男二人を狙い撃ちした。

 大分揺れるけど、撃たないよりはマシなはず。そう思って私が一生懸命狙いを定めていると⋯⋯。



「あれは⋯⋯」



 プリンは何かに気づいたようで走るスピードを更に上げた。



「どうしたの?」



 私がそう問いプリンの顔を覗くとプリンは何やら笑みを浮かべているようだ。

 不思議に思った私は顔だけを振り向かせ前を向いた。



「ここって⋯⋯」

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