42話 機械的な出会い ~切ない思い~

 私達はいくつもの墓の横に大量に置かれていた作物の隣に、管理官から預かった作物をそっと置き、この街を立ち去った。




「それにしてもそんな過去があったなんて知らなかったなぁ。F.o.D.のファンなのに⋯⋯ファン失格だなぁ」



 私がそんなことを言うとプリンは難しい顔をして私に言った。



「俺も知らなかった」



 え? でも働いていたんだよね? この会社で。プリンでも知らなかったってことは⋯⋯どういうこと?

 ロボットの嘘? いや、でも嘘には聞こえなかったし、大量の作物が街に置かれていた。あれは多分、このロボットが来る度に置いていたんだよね。

 どういうことだろう。プレイヤーが入ってしまうこの世界になってから作られた話しって事?

 だとしたら⋯⋯色んなことが作られて変わってる可能性もあるよね。


 とにかく私はその真相も確かめるべく、菜園へ向かう足を少し早めた。菜園についても管理官にその話しを私の口から聞く事はできないだろうに⋯⋯。


 その場では私もプリンも、このロボットの話を掘り返すことや深く聞くことはしなかった。別に哀れみの目で見ているわけでもない。

 でも自然とその話を信じることができたし、このロボット達を守っていこうと、そう思った。




「おかえり、レディ! ちゃんと届けてくれた?」



 レ、レディ? 私のこと?



「はい。グリンフィズに作物を届けてきました」



 あ、私の事じゃないのね。

 こっちのロボットか。レディっていうんだね。



「君達がちゃんと届けてくれて嬉しいよ! これで君達は仲間だ! ちゃんと寝床も用意したよ。案内してあげるから付いてきて! こっちだよ、さぁ!」



 そう言うと管理官は建物の奥へ進んで行った。

 よく見ると、始めにここに来た時にはなかった部屋が増えている。

 いや、でもそんなことあるの? この世界に来る事自体、イレギュラーなことだからもうそんなに驚かないけど、どうやって部屋を増やしたんだろう? 何か方法があるなら教えてほしいよ。



 ウイーンと音を立てながら歩いていく管理官の後に付いて行くと、小さめの部屋の前で止まった。



「ここが君達の新しい家ですよ! どうですか? 気に入ってくれましたか?」



 新しく増えた部屋のボロい木の扉を開くと、中はそう豪華ではないが、ベッドが二つとタンスにロッカー、テレビにラジオまで付いている。テレビといってもアナログだけど。



「ありがとう。それにしてもさっきまでここに部屋なんてなかったよね? 管理官は物まで作れるの?」



 私はお礼と共にロボットにそう尋ねてみた。

 この管理官が本当に物を作ったりできるのなら⋯⋯この技術があれば⋯⋯ここを拠点に色々な物を作ったり、防壁を作って防御を固める事だってできる。



「私は特殊なプログラムで出来ています。この素晴らしい家も、私のプログラムのおかげで作られたんですよ! なんでも簡単に作ることができるんです! あなた達の新しい家のお祝いにレモネードはどうですか?」



 あぁ、なんかこのやり取りうざいな。

 でも⋯⋯凄い。この管理官、結構使えるかもしれない。



「ねぇ、管理官、私にいい考えがあるんだけど」



 私はあることを思いつき、管理官に交渉しようとしていた。

 でも自慢ではないが、私は全くといっていいほど、交渉の能力がない。

 ここは⋯⋯プリンに頼んでみたほうがいいかな。よし!



「(ねぇ、プリン⋯⋯)」



 私は小声でプリンに提案を相談してみた。



「(ほほう⋯⋯お前にしてはいい事を考えるな)」



 プリンはそう言って、管理官に提案を持ち掛けた。



「なぁ、管理官。こいつじゃ役不足だから俺から話す」



 役不足ってなによ⋯⋯まぁその通りだからいいけどさ。



「はい? なんでしょう? ここの野菜なら自由に使っていいですよ!」

「いや、そうじゃないんだ。実はな⋯⋯」

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