29話 長い道のり ~刺客の正体~

「これは⋯⋯」



 プリンはそのハンターの姿を見て驚いているみたいだ。



「わぁぁぁーー!!」



 私はハンターが来た瞬間に撃ってやろうと思って、目の前に姿を現した瞬間構えていたアサルトライフルを乱射した。


 するとハンターは一瞬体勢を崩したが、持ち前の素早さですぐに私達の前から姿を消した。






「⋯⋯気配は消えたみてぇだ」



 どうやらハンターは逃げて行ったらしい。ふいをつかれて姿を消したのかどうかはわからないけど、私達はハンターを退けたんだ。

 でも完全に倒したわけじゃない。この小屋の場所もバレちゃったしまたいつ襲ってくるかもわかんない。

 そもそもハンターと呼ばれる人が一人とは限らない。他に仲間がいるかどうかもわからない。



 私は小屋の横の地面に、タコの無残に殺された遺体を埋め、小屋を立ち去った。

 もうきっとここに戻ってくる事もないと思う。




「でもどうする? 行く場所とかあんの?」



 小屋を出ていくしかなくなった私達は放浪していた。行く宛もなくとりあえず住む場所を見つけなければならないと、東の方に向かった。


 東の方にはグリーンヒルズ菜園というロボットだけがいる菜園がある。そこを拠点にしてこの世界で暮らしていこうと考えた。


 この短期間で私は沢山のプレイヤーの姿を見た。グリーンヒルズ菜園にもプレイヤーが陣取っている可能性だってある。

 クエストもなくNPCの姿もあまり見ないこの世界で、グリーンヒルズ菜園にいるロボット達は存在するのかな?

 稀にいるNPCだってゲームで作られた行動をしているわじゃない。自分から話しかけ自分の意思を持って行動している。

 それがなんでなのかはまだわかってないけど、イレギュラーな事は間違いない。

 もしグリーンヒルズ菜園のロボット達が存在しているなら、私達はそこを守りながら生活していけるから、しばらくのこの世界での行動はそこを起点とする事になる。

 野菜を栽培してるから食料にはまず困らないし、確か井戸もあったはずだから水にも困らない。



 今はそこがどうなっているのか、もはやわからない⋯⋯でも今の私達には住む場所が必要。だから菜園がどうなっていようと、少しでも希望があるならそこへ向かうしか道はなかった。




「グリーンヒルズ菜園にはどんくらいで着くかな?」



 私はふとそう思いプリンに聞いてみた。



「まぁあそこなら多分7日はかかるんじゃねぇか?」



 え? そんなにかかるの? 私、てっきりかかっても1日とか2日で着くと思っていた。

 7日かぁ⋯⋯7日間ずっと歩くとかキツイよね。途中テントとか張るよね? まさかずっと寝ずに歩くわけじゃないよね。だとしたら着く前に死んじゃうよ。



「ねぇプリン⋯⋯暗くなったらどっかでテントとか張るよね?」

「当たりめぇだろ。7日も歩く体力どこにあんだよ」



 よかった。だよね、7日も歩き続けるなんて人間の所業じゃない。




 そういえば⋯⋯ハンターが小屋の前に来た時、私動揺してて銃乱射しちゃったけど、なんかプリン驚いてたよね。知り合いだったとか? いや、でもフード被ってて顔とかよく見えなかったし。プリンが驚いて撃てないとかよっぽどだよね。



「そういえばプリン、ハンター見た時なにそんなに驚いてたの?」



 思わず聞いてしまった。別にいいよね、聞くくらい。



「あぁ⋯⋯」



 プリンは少し濁した後に話し始めた。



「あれは⋯⋯おそらく俺達が来るずっと前から存在するプレーヤーだ」



 私達が来るずっと前から⋯⋯? じゃあそんな前からこの世界に入り込んでた人がいたって事?


 しかもプレイヤーだとしても、あんなに凄いスピードで動ける人がいるのかな。あれはどう見ても人間の動きじゃなかった。


 私がそんな事を考えているとプリンは続けて話した。



「ありゃロボット同然だな。脳みそはなく人工知能ってやつだ。自我があるのが怖ぇがな。あの身体能力も何かしらあるんだろうよ⋯⋯俺にはわからねぇけどな。ただあれはこの世界で造られた異物だ。人ではねぇ」



 なんか色々説明してくれたけどよくわかんないや。とにかくあのハンターは入り込んだプレイヤーではないって事だよね。

 なんでこの世界に、あんな化け物みたいな動きをするノンプレイヤーがいるのかは別にどうでもいいんだけど、もう二度と遭遇したくない。

 次に会っても勝てる気がしないから。あの時はたまたまプリンの作戦が上手くいって退ける事ができたけど、それでも倒す事はできなかった。


 私なんて怖すぎて腰抜けちゃったし。そのせいでプリンにもまた迷惑かけちゃって⋯⋯タコも死んじゃったし⋯⋯。

 私、プリンといない方がいいのかも。プリンの足引っ張ってばっかだし、いっつも敵に圧倒されて動けなくなっちゃうし。

 敵にはゲームで慣れてるはずだったのに⋯⋯私本当に考える事甘いよね。


 自分で言いたくないけど大輔の言った通りだよ。

 こんな世界になったらなったで大変だと思う⋯⋯私は、あの時大輔は私の事をバカにしてるとしか思わなかったけど、大輔は先が見えてたんだね。

 こんな世界になって私が一人で生きていけるわけない、こういう事になるってわかってたんだよね。

 その大輔の言葉を軽く聞いてたから、私この世界に飛ばされちゃったのかな⋯⋯。


 一人でも大丈夫だしって言ったけど⋯⋯やっぱり無理だよ。こんなに生きるのが大変って思った事ないもん。


 仕事もせずにゲームばっかやってたツケが回ってきたのかな。大輔と楽しくゲームしてたあの頃に戻りたい。それでも大輔と会えればまた気持ち変わるかな?


 はぁ~そういう甘い考えがいけないんだよね。そういう考えだから、いつもプリンを死にそうな目に遭わせちゃうんだよね。

 もうどうしていいかわからないよ。このままグリーンヒルズ菜園でプリンと暮らしていいのかな?

 多分プリンなら私の行いも笑って済ませると思うけど、それが私を甘い考えにしてるんだよね。




 本当に、そういう所も全部大輔に似てる⋯⋯。

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