28話 長い道のり ~見えない刺客~
「⋯⋯ハンターだ! 逃げるぞテン!」
プリンは私の腕を引っ張り逃げようとしたけど、腰が抜けている私はその場から動く事すらできなかった。
「ダメ⋯⋯動けない」
私がそう言うとプリンは舌打ちをして再び木の陰に隠れた。
「くそっ⋯⋯動きが見えねぇ。どっから来るんだ?」
プリンは物凄い早さで首を動かし、周りを見渡し様子をうかがっている。
ごめん、プリン。私こんな時に⋯⋯やっぱり私は足手まといでしかない。どうしよう⋯⋯できる事ならこの場からすぐにでも逃げ出したい。
下を見るとタコの顔と胴体が転がってるし、小屋の周りでは人が通る影だけが見える。私は怖くて仕方なかった。その影の速さで敵は一人じゃないんじゃないかとまで思ってしまう。
怖くて⋯⋯動けないよ。
「プリン⋯⋯行っていいよ」
思わずそう言ってしまったが本当は行ってほしくない。でもこのまま私の為にプリンまでここにいたら、二人共死んじゃうかもしれない。
だから私をここに置いて逃げて⋯⋯プリン。
そう心の中で思っているが体は正直。
足や腕、体全体を震えが襲う。
「ちっ⋯⋯」
プリンは動けない私を担いで走り出した。
「え?」
私は担がれたままプリンの顔を覗くように見上げた。
「あんな所にお前を置いていけるわけねぇだろ」
プリンはそう言って一生懸命走っている⋯⋯。
足手まといの私の為に私を担いで逃げている⋯⋯。
あのままあそこに置いて自分だけ逃げるっていう選択肢もあったのに⋯⋯。
でもハンターの動きは予想以上に早くて、走るプリンの周りを一瞬で囲むように移動しているみたい。
「プリン、もう大丈夫。降ろして? もう走れるから」
私は小さい声でそう言った。ハンターに対しての恐怖は消えてなんかない。このまま降ろされてまともに走れるかもわからない。
でも⋯⋯プリンが大変そうだから。ハンターの動きを察知しながら私を担いで走るの、凄く大変そうだから。
もし私が走れなくてもそれでいい。プリンが逃げるまでの囮になれればそれでいい。
プリンにはいつも助けてもらってばっかだし、今度は私がプリンを助けなきゃ!
って思ったのに⋯⋯プリンは一向に私を降ろそうとしない。私は降ろしてと手足をバタバタさせているのに降ろしてくれない。
なんで? なんで降ろしてくれないの?
私は不安気な表情でプリンの顔を覗き込んだ。
「お前がハンターに追いつかれずに、走れるわけねぇだろ」
プリンはそう言って私を担いだまま速度を落とさずにずっと走り続けている。
私はふと思った。ファストトラベルすればいいんじゃない? と。
「ねぇ! ファストトラベル! 同じタイミングでファストトラベルしよう!」
私がそう言うとプリンは一瞬表情が緩んだが再び固い表情に戻った。
「ダメだ。敵が付近にいる時は使えねぇ」
あ、そうだった。ファストトラベルはマーカーに敵を感知していない時じゃないと使えないんだった。
でもじゃあどうするの? このまま追いかけっこしててもプリンの体力が切れて走れなくなるだけだ。
私は一生懸命考えた。どうすればハンターから逃れられるのかを。
戦うしかないの? いや、でも無理だよ。タコを一瞬であんなふうにしたやつ⋯⋯どうやって倒せばいいの⋯⋯。
私がそう考えているとプリンがいきなり立ち止まった。
「どうしたの?」
プリンは立ち止まった後すぐに近くの木に身を隠し、ハンターの様子を伺っているみたいだ。
「まさか戦うの?」
プリンは当然だと言わんばかりの顔をして担いでた私を降ろした。
でもどうやって姿が見えないのに戦うつもりなの? 動きが速すぎて見えないんだよ?
「いいか、あいつが一瞬木の隙間を通るのが見えるだろ? その時を狙うんだ」
その時を狙うって⋯⋯見えるって言っても本当に一瞬だよ? 影しか見えないよ? そんな相手をどうやって⋯⋯。
その時私の頭に一つだけ可能性があるものが浮かんだ。
それはーー
「
そうだ、
「今だ!」
プリンのその言葉と同時に私は
見えた⋯⋯ハンターの姿が。真っ黒い服にフードを深くかぶっている。前にプリンが教えてくれた格好と全く一緒だ。その手には体に余るほど大きい斧を持っている。
こいつがハンターなの? タコの首を切り裂いたのもその斧で?
でも一体どうしてこんなのが現れたの? ゲームではこんなハンターなんていなかったよ絶対。
こんなとんでもないやつを生み出すなんて⋯⋯本当にバグなの? バグで済ませちゃっていいわけ? 多分こいつにやられた人は大勢いるんだと思う。この世界に迷い込んだ人達は何もしらずにこいつの餌食に⋯⋯。
「おい何ぼやっとしてる? 早く撃て」
あ、そうだった。
「もう⋯⋯いない」
プリンにもその姿は捕えれなかったみたい⋯⋯もう打つ手ないよ。この方法しかハンターの姿が見える方法がないんだもん。姿が見えなきゃ銃だって撃てないし。
やっぱり逃げるしかないのかな?
私が色々考えているとプリンが思いついたように私を見て言った。
「ーー小屋に走れ!」
え? また小屋に行くの? 私にはなんでかわかんなかったけどプリンはもう走り出している。
私もプリンの後に続いて全力で走り続けた。
「なんで⋯⋯っ⋯⋯小屋なの?」
私が息を切らしながらそう言うとプリンは辛そうな顔をして話始めた。
「あいつを⋯⋯小屋におびき寄せる。小屋についたら中に入れ。小屋の中は四方が囲まれてるんだ。俺達を探そうと思ったら小屋の入り口に来なきゃ無理だ」
なるほど⋯⋯確かにそうかも。
私はプリンの作戦を聞いて、さらに全力を出し小屋に向かい走った。ハンターに追いつかれないように必死で走り続けた⋯⋯。
「ーー今だ、入れ!」
その言葉と同時に私達は小屋に入りハンターを待ち構えた。
シュッーー
来た! ハンターだ。
プリンの作戦通りハンターが小屋の前にやってきた。
「これは⋯⋯」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます