本編 ~ 第三章 ~

17話 心細い戦い ~1匹いたら100匹いると思え~

 今日から私はこの小屋で暮らす。

 畑で野菜を育てながら料理したり、物資探し⋯⋯はプリンに任せて悠々自適な生活を⋯⋯。


 そう思っていた矢先だった。



「おいテン。出かけんぞ!」



 はぁ? こんな朝からどこによ。そう思いながら小屋の外に出る。



「物資探しに行くぞ。ミュートンがいるダンジョンだ。

 お前もゲームやってたなら知ってんだろ?」



 もちろん知っている。私が何度も死んだあのダンジョン。



「お前に戦い方っつうもんを教えてやる。

 これから一人で行動する時もあるかもしんねぇしな」



 戦い方か⋯⋯まぁそれなら行ってもいいかも。

 現実とゲームじゃ全く違うし。

 コントローラーないから、反射的にV.A.R.T.S.バーツ! とかもできないしね。



「わかった。今準備するから待ってて」



 私は特に準備するものもないけど、プリンから貰ったスチムパックとRADアレイを、インベントリに入れた。

 それとプリンから貰ったアサルトライフルを手に持ち、小屋を出た。

 まぁ、このアサルトライフルは予備だからあまり使う機会がないと思うけど⋯⋯。

 私にはアサルトライフルなんてまだ早い気がする。撃ち方もろくにわからないし。


 初めに拾った10mmピストルは、Hitrangeヒットレンジ10mmピストルに改造した。というか、プリンに改造してもらった。

 私はそういう技術ないし、後々教えてもらおうとは思ってるけど、改造しているのを横で見ていてもさっぱりだ。覚えられるかどうかも怪しい。


 このHitrangeヒットレンジ10mmピストルは命中率が底上げされて、射程距離も僅かに上昇⋯⋯さらに撃つ度に命中率が上がっていくという優れもの。

 これは大事にホルスターに閉まってある。

 このホルスターもプリンから貰ったものだ。


 基本はピストル、敵が大量にいる時は頑張ってアサルトライフルを使ってみよう。

 弾薬も無制限ではない。肝心な時に弾切れなんて事にならないように、常日頃から弾薬ボックスには目を光らせておかなくては⋯⋯。


 よし、これで準備は万全だ。



「準備できたよ。行こう」



 そう言って私達は小屋を後にした。






「あ! グールだ」



 少し歩くと、ドアが壊れていて閉まらなくなっているボロいトラックが、道端に放置されている。

 おそらく走る事は不可能だろう⋯⋯。

 周りにはトレーラーが数個あり、その荷台には木箱やら救急パックと思わしきものが散らばっていた。


 そしてそのボロいトラックの荷台に、一匹のグールが背を向けて立っていた。



「私がやる」



 この改造したピストルの威力を試したいのもあって、グールを撃とうとしたプリンの手を止め、私はピストルを構えた。



 まずはV.A.R.T.S.バーツを起動して⋯⋯うわっ、グールに気付かれた!

 V.A.R.T.S.バーツを起動した瞬間、グールが私達に気づきこっちを向いた。のおかげでその動きは遅いが、グールは動きが早い為すぐに近づいてくる。


 V.A.R.T.S.バーツの起動とほぼ同時にグールが動いたせいで、グールの体がトラックの荷台に隠れて上手く狙えない。


 よし、一旦解除しよう。そしてまたすぐに起動⋯⋯。

 それは一瞬の出来事だったはずなのに⋯⋯グールの動きもまた早く、一瞬でこっちに向かってくる。

 ただれた顔を引きらせ、口を開け何やら色の着いた液体を垂れ流しながら⋯⋯。

 たんが絡んだような汚いうめき声を上げている。



「うわっ、はやっ!」



 私は近づくグールを早く始末しないと⋯⋯という思いで、グールの頭に照準を合わせAPをMAXで使って撃ち込んだ。



ピピピーー命中率94%



「よし、いける!」



パンパンパンーー



 3発の銃弾がグールの頭を直撃した。

 腕が変な方向に曲がり、重い頭を地面に叩きつけ倒れた。

 勢い余って倒れてからこちらに向かって、グールの死体が滑り込んできた。



「やった! え⋯⋯このグール何も持ってないし」



 私の目の前に倒れたグールの死体に手をかざした。



ブインーー



 死体の真上に半透明の枠が現れた。

 ドロップ品だ。


 しかし運が悪くそこには何もアイテムが表示されていなかった。


 私は残念そうな顔をしていると、銃弾の音に惹き付けられたグール達が、次々とこっちに向かってくる。



「ちっ⋯⋯油断すんなよ。

 グールは1匹いたら100匹いると思えってな」



 プリンはそう言うとホルスターからピストルを出し、グールを次々と撃ち、あっという間に片付けてしまった。



「すごっ! そのピストル強いね」



 何発も撃たないと殺せない私のピストルとは違い、一発で仕留めてしまった。



「あぁこれか? こいつはデザートイーグルっつんだ」



 銃には詳しくない。

 だから名前を言われてもよくわからないけど⋯⋯かっこいい!

 そう思い、プリンの持っている銃を物欲しそうな目で見つめていた。



「ん? これはやんねぇぞ。ほしけりゃ探すんだな」



 プリンはそう言って笑顔でトラックの中に入った。



「⋯⋯ケチ」



 私はグールを倒したという事で、気持ちが高ぶっていた為、上機嫌でプリンの後を付いて行った。

 たった一匹だけど、私にしたら上出来。

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