切り株1つ、ありました。

彩 ともや

切り株1つ、ありました。

切り株1つ、ありました。

まぁるい、まぁるい切り株です。

数多の輪が描かれた

何てことない

切り株です。


ある朝お百姓さんが

よっこらせと座りました。

桑をおいて、空を見ました。

燕が一羽、飛んでいました。

まぁるい切り株とお百姓さんの上を。


ある時子供が座りました。

脇にジュースと少しのお金を置いて

汗を袖で拭いていました。

まぁるい切り株は小さな体を

慈しむように支えていました。


ある夜酔っぱらった男性が

切り株につまずき転びました。

男性は悪態をつきながら

千鳥足で去りました。

まぁるい切り株はその男性を

見えなくなるまで見つめていました。


ある夏台風が訪れました。

大雨が降ります。

強風が吹きます。

まぁるいまぁるい切り株は

一人、黙って耐えました。

「切り株さん、切り株さん、私達と行きませんか。」

「いいえ。私はここにいます。みんなが求めてくれるから。」

「でも、あなたはただの切り株。あなたに何が出来るのです。」

「私はみんなの椅子になれます。みんなを見守り続けます。」


まぁるい切り株ありました。

腐ってぼろぼろの切り株です。

数人の作業員が来て

切り株を撤去していきました。

あとには盛り上がった土。





切り株1つ、ありました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

切り株1つ、ありました。 彩 ともや @cocomonaca

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ